そこそこのチカラ 3

遠子とおこさん、何でいちいち煽るようなこと言うんすか!?」

「だってね。私嫌われてるみたいだから、応戦しないとと思って」

「そうやってトーコが毎回余計なこと言うから、もっとギスギスするんじゃない」

「はぁ……疲れたぁ。ほんと、毎回こうなるよね」


 祥太郎しょうたろうは、皆が感謝状を拒んでいた理由をようやく理解する。


「しっかし、異種技能大臣いしゅぎのうだいじんが、さいのじいちゃんだったなんてなぁ。名前は聞いたことある気がするけど全然結びつかなかった」

「大臣さんは『アパート』の仕組みを作った人でもあるんですよ」

「そうなの?」


 マリーも頷く。


三剣源二みつるぎげんじ。『ゲートキーパーズ・アパート』をデザインした天才結界師けっかいしであり亜空間建築士あくうかんけんちくし。彼のおかげで『ゲート』がらみの事故や事件は激減したと同時に、能力者の雇用も生み出されたの」

「へぇ……」


 祥太郎の知る限りでは、身内に強い力を持った能力者はいなかった。だからこその苦労もあったのかもしれないが、偉大な祖父を持つというのも大変なことなのかもしれないと思う。


 それからしばらく他愛のない話をしていた。しかし源二たちは中々戻ってこない。


「遅いわね……あの人たち、もうここには帰ってこないのかも」


 遠子がそんなことを言い出した。祥太郎は手の中の筒を見る。


「確かに感謝状ももらったし、マスターとも一緒に出たからいいのかもしれないっすね」

「今日はお天気もいいし、ラウンジで紅茶でも飲まない? 美味しい茶葉を仕入れたから。……ほら、才くんもそんなとこに隠れてないで」


 その声に、ドアの隙間からこちらの様子をうかがっていた才が出てきた。誰からともなく吹き出し、その場が笑いに包まれる。

 それからラウンジに向かうため、皆で廊下を歩いていると、理沙が唐突に立ち止まった。


「どうしたの? リサ」

「なにか聞こえない?」


 彼女にならい耳を澄ませれば、確かに声のようなものが聞こえてくる。


「……本当。歌? かしら」

「医務室の方からじゃない? ちょっと様子を見に行きましょうよ」


 遠子の言う通り、医務室の方角から聞こえるようだ。

 ラウンジに行くのを一旦中止し、四人は医務室へと足を向ける。


「あれ? これって……」

「この歌……」


 いち早く声を上げたのは、祥太郎と才だった。角を曲がるたび、歌声は大きくなっていく。


「ドゥン、ドゥンドゥドゥドゥン♪」

「ドゥン、ドゥンドゥドゥドゥン♪」


 そしてたどり着いた医務室前。

 水着ではなく、カラフルな色のワンピースを着た市原いちはらあまなが、頭に野菜が入ったカゴを乗せ、腰をくねらせながら歌っている。彼女と向き合うようにして、源二が同じように歌いながら踊っていた。

 その近くには、複雑な顔をしたマスターと秘書官たちが立っている。


「大臣、そろそろお時間が……」

「まてまて、待ちなさい」


 困惑する桜木さくらぎを手で追い払うようにし、源二はあまなへと向き直った。


「あまなちゃん、もう一回――」

「ぜんぜん、だめですぅ」


 あまなは何度か首を振ってから、びしっと人差し指を差し出した。


「そんなことないって、言ったじゃないですかぁ~」

「はぁぁっ! それは興行的には大ゴケしたものの、あまなちゃんの演技が多くのファンから支持を受けたカフェのモブ役!! きゃわわっ!」

「もしもし? あ、コウちゃん。ほんま? うちも行くー。……あんな、桜木ちゃん。うち帰るから、ゲンちゃんのことよろしゅうに。お疲れ様ー」

「ちょっと江上えがみ秘書官!」

「やぁ、君たちも来たのか。どうだ、素晴らしいだろう」


 その様子を呆然と眺めていた四人に気づき、ドクターが声をかける。


「ネットで見つけた市原あまなの映像を、棒人間に見せてみたのだ。完璧に再現をし、ファンにも大好評だ」

「ファンって……ジジイ」

「似た者同士って、やっぱり趣味も似るのねぇ」

「ドクター。ぜひこの子を、素晴らしい研究結果を私にぃぃぃ!」

「あれ? ……っピ」


 しかし突然、あまなの動きが止まる。


「時間ぎれになっちゃったっピ」


 顔色は急激に悪くなり、やがて着ぐるみが脱げるかのように、服と肉体が一度にごそっと削げ落ちた。


「はうっ。あまあま、あまなちゃんが棒人間に……!」

「大臣! しっかりしてください!」


 衝撃のあまり気を失った源二を、慌てて支える桜木。マスターはそれを見て溜め息をつく。


「ふむ……まだまだ研究の余地があるな」

「ふふっ、特製の薬草スープ、まだ残ってるから持ってくるわね!」


 後日、何故か医務室への補助金がおりたという。

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