第19話 毒攻撃……
セルフコントロールの授業は清三の丁寧な教えもあり、楽しくそして順調に終えることができた。この日も清三は忙しいようで、授業を終えると早々に教室を後にした。桜は一人で機械で学んでいたらしく、松は清三の友達の玲のシミュレーションを見せてもらっていたらしい。
しきりに、あの選択をする玲さんがかっこいい!と感激していたが、松の説明はあまりにも抽象的で、すごいという言葉ばかり繰り返すので、のぞみには何がすごいのかわからなかった。
その後、薬学の授業を選択していたのぞみは工業棟まで桜と松と行き、桜と別れると、温室まで松に送ってもらった。松はどうやら温室を通り、遠回りする形でプール棟まで行くらしい。
のぞみが見上げた温室は相変わらず大きな施設だった。のぞみはまずは事前の説明通り、2階の教室に上がることにした。
――コンコン
のぞみは初めての授業なので、一応ノックしてから扉を開けることにする。教室の中には生徒が男女半々くらいで20人ほどいるようだった。のぞみが入ったことに気付いたのか、フェロモン垂れ流しの男子生徒がのぞみに近寄ってきた。男性的というよりはどちらかというと中性的な男子生徒だった。女装したらきっとのぞみよりも可愛くなるに違いない、そう思わせるようなフェロモン美少年なのだ。
「松葉さんだよね」
「はい。今日からお世話になります」
のぞみは慌てて男子生徒に対して頭を下げた。どうやら男子生徒はのぞみの名前を知っているようだった。
「うん、見学に来たのを皆知っているから大丈夫だと思うよ。こちらこそよろしくね。僕は華月だよ。」
そう言うと華月は教室の空いている席にのぞみを案内した。
「薬学をメインで選択するの?」
「はい。あの……あまり知識もないですが、頑張りますので、ご指導よろしくお願いします」
のぞみは自分がこの場にいることで、教室の生徒のレベルを落としてしまわないかが心配だった。
「大丈夫だよ、皆はじめは素人なんだから。先生も優しいし」
華月はそう言うとのぞみに微笑んでくれた。
かわいいなぁ……色っぽいし……うらやましい。
のぞみは華月を見て、つられて微笑んでしまった。二人でニコニコし合っていると、扉を開ける音が響き、どうやら先生が教室に入ってきたようだった。
薬学の始めの授業は薬学基礎①という、植物の生態や分類、そして効能や育て方を学ぶ授業だ。まずは座学で知識として学んだあと、実際に温室がある1階に行き、植物を触って観察したり育てたりする、という授業だった。
先生は魔法学校の小説に出てくる校長先生のように豊かな白いひげを蓄えた、まるで仙人のような先生だった。霞先生という名前なのだが、のぞみは心の中で仙人先生と呼ぶことにした。
仙人先生の授業は、とても分かりやすかった。たまにユーモアあふれる話をしてくれたり、実際に育てていて失敗した経験など、バラエティに富んだ話が多かった。
なんだか、薬草の事好きになれそうだな~
のぞみは薬学の授業のアットホームな雰囲気が自分に合っているように感じていた。教室の中には謎のローブを着た生徒などもいたが、それは見ないようにしていた。
「松葉さん、これを見て」
温室で華月に話しかけられたのぞみは、華月が指さす植物を見つめる。
ヨモギだ……草餅食べたくなってきたなぁ
「華月君、おいしそうだね」
のぞみは笑顔で答えた。
「ははは!松葉さん、これはトリカブトだよ。植物界最大の毒と言われているから気を付けてね」
「ヨ……ヨモギかと……」
のぞみは赤くなってしまった。自分の無知を初日から堂々とさらけ出してしまったのだ。トリカブトが猛毒であることはのぞみも聞いたことがある。しかし、名前を知っているだけでヨモギのような見た目の草であることは知らなかったのだ。
「うん、間違えやすいから、大丈夫だよ」
華月の笑顔は優しく、馬鹿にしているような様子も全くない。
優しい……!なんて良い人なんだろう。
華月のフォローにのぞみは感激していた。薬草について詳しくないのぞみに呆れることもなく、優しく教えてくれるのだ。華月先輩に付いて行こう!とのぞみは心に誓った。
「間違って食べたら大変なことになるね」
「そうだね。実際に死亡する人もいたから、本当に気を付けないといけないよ」
のぞみはトリカブトを見つめながら、ヨモギに似たこんなかわいい草が人の命を奪うんだ、と少し恐ろしく感じていた。
華月の話では温室にはトリカブト以外にも毒性のある植物もたくさん置いてあるらしい。そして裏山へ行く課外授業もそのうち開催される、ということだった。実際にどのような場所で生えているのか、教科書で学ぶだけでなく自分の目で確かめることが大事、という教育方針によるものらしかった。
今日はのぞみは初めてということもあり、薬学の授業に必要な道具については、一覧表を後で華月からもらい、週末に用意しようと思っていた。その中にはトレッキングシューズや手袋など、課外授業に必要なものも含まれている、ということだった。
「のぞみちゃん、薬学の授業はどうでしたか?」
学校からの帰り道を桜と一緒に自転車を引きながら歩いていると、自然と今日の薬学の授業の話になった。たまにゆっくりと自転車を引きながら歩くのがのぞみも桜も好きだった。
「う~ん、思っていた以上に実践的だと思う」
「そうですか」
「うん。課外授業も多いみたいだし」
のぞみは華月から聞いた話を思い出していた。薬学の授業は理論よりも実践重視で、綺麗なお花を育てましょう♪というよりも、実際の利用方法に焦点を当てている気がするのだ。ガーデニングというよりは薬草栽培、といったイメージが今日1日でついた授業のイメージだった。
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