　清三さんは、本当に恥ずかしいことを直接言うから…………でも、可愛いって言われるのは、ちょっと嬉しいなぁ……

　午後の授業を受けながら、のぞみは呑気にそんなことを考えていた。熟女はあの後なんとか清三の誤解が解けると、またね～と色っぽい声で食堂を後にした。熟女はどんな場面でも、やっぱり色っぽい熟女だった。

　午後の授業をすべて終え、のぞみが桜と松と学校を後にしようと立ち上がったところで、担任の佐藤太郎先生に引き留められた。いつの間に教室に入ってきたのか、あまりの存在感の薄さに驚いてしまう。

「松葉さん、スペシャル授業の受講申請が出ているけれど、スペシャル授業１の許可が下りました」

　佐藤先生はいつも通り平坦な声でのぞみに告げた。

「え……スペシャル授業…………ですか？」

「はい、先週末に選択授業について希望を聞きましたが、セルフコントロールと、えっと……薬学とスペシャル授業の希望が出ていましたが、スペシャル授業は許可制なので許可が下りたということを伝えに来ました」

　佐藤先生の言葉の一部の意味がわからず、のぞみは首をかしげてしまう。

「スペシャル授業１は木曜日です。一木さんに案内してもらってください」

「桜ちゃんに……」

「はい、それでは」

　佐藤先生は必要な話だけすると、さっさと教室を出ていってしまった。意外と動きが素早い。

　？？？

　スペシャル授業なんて希望出していないと思うけれど……

　のぞみは考え込んでしまった。

「のぞみちゃん」

　のぞみが声に振り向くと、後ろに桜が立っていた。

「桜ちゃん……スペシャル授業って？」

　のぞみは首をかしげる。

「え……と、そうですね、特別な授業です。木曜日に直接見たらわかると思うけれど、口で説明するのは難しいから」

　桜にしては珍しく、言葉を濁した説明だった。桜は日ごろ物事をはっきり言うのだ。

「私は、スペシャル授業の希望を出した記憶が……」

「それは、明神君が気をきかせてくれたのだと思います」

「委員長が？」

　……気を利かせたって言っても……つまり、この授業はお勧めってことなのかな？

「桜ちゃん、スペシャル授業って人気あるの？」

「そうですね……一部の人には人気がありますが、許可制なのであまり受けている人は多くはないです」

「そうなんだ……私なんかが受けていいのかな？」

「大丈夫ですよ。それにこのクラスはスペシャル授業の受講者が多いです」

　桜の説明によると、委員長も熟女も受講しているらしい。もちろん松と桜も受講生だ。

　のぞみが教室を見渡すと委員長も熟女ももう帰ってしまったようで教室にはいかなった。委員長に確認することもできず、取り合えず明日聞けばいいかな、と深くは考えず、のぞみは家へ帰ることにした。

　翌火曜日は、午前中は桜と松と共にセルフコントロールの授業を受け、その後は初めての薬学の授業の予定だった。

　のぞみは初めての選択授業に少し緊張してしまう。特に薬学は今日からは桜と松はいないので、一人で受講するのだ。友達できるかな、と小さな不安がのぞみの頭を占めていた。なにせのぞみは学期の途中からの転科なのだから。

　まずは、セルフコントロールの授業から、ということで松と桜と5階の教室へ向かうと、教室の中にはすでに清三と清三の友達がいるようだった。

「のんちゃん、おはよう」

「清三さん、おはようございます」

　清三は相変わらず積極的にのぞみに近寄ってくる。

「清三さん、日曜日はありがとうございました」

　のぞみは日曜日に屋敷にお邪魔したことについて丁寧にお礼を言った。この辺りはママからしっかりしつけられているのだ。清三からもらったお土産のアイスもママやおばあちゃん、そして桜と一緒に美味しく食べた。おじいちゃんだけは、まだ嫁にはやらんとか言って、意地を張って食べなかったが。

「むっ！のんちゃんが楽しかったのであれば嬉しい」

　最近の清三の言葉は更にストレートだな、とのぞみは思いながら、笑顔を返した。

「のんちゃん、また一緒にやってみるか？」

　清三の言葉に、のぞみはもう一度機械について説明を受けようと頷いた。正直先週はいろいろと衝撃的なことが多すぎて、清三に説明してもらったこの機械の使い方をよく覚えていなかったのだ。

　清三と共に行ったシミュレーションは、異国の地でパスポートと財布をスられ、更に緊急帰国をしなければならなくなる、というシチュエーションだった。まずは一番近い領事館の場所を割り出し、そこへ向かい、職員に事情を説明する。そこまではのぞみでも対応することができた。しかし、その後の帰国については清三がプライベートジェットを手配しようとしていたのに驚いた。緊急度との兼ね合いでプライベートジェットも視野に入れるのが特技科の常識らしい。そのスケールの大きさに、一般市民感覚を持つのぞみは驚くばかりだった。

　……市民は、プライベートジェットなんて、頭の片隅にもないのに……本当に、なんだか異次元だな

　のぞみは特技科がまるでセレブ学校のように見えてきていた。