第8話 清三の親友?

 のぞみが清三と会話を終えて機械を出ると、見たこともない男子生徒が2人寄ってきた。

「清三、紹介してくれ」 

 一人が清三に話しかける。清三の友人だろうか?


「うむ」

「な~んだ、清三、いつもよりも眉間にしわを寄せて」

 清三と同じくらい大きな体をした男子生徒が面白くてたまらない、と言わんばかりの笑顔を浮かべている。男らしい顔のワイルドなイケメンで笑顔もかっこいいし、ノリがよさそうな雰囲気だった。

「照れているんですよ」

 もう一人の眼鏡をかけて少し長めの髪を後ろに縛った男子生徒がそれに応えた。こちらもまた先ほどの男子高生とは違った涼し気で知的な顔のイケメンだった。

「のんちゃんだ」

 清三が二人に向かって告げる。

 のぞみは清三にのんちゃんと人前で紹介されて恥ずかしかった。


「こんにちは、俺は赤田豪っていうんだ。よろしくね、清三の嫁さん」

「私は成田玲です。よろしくお願いします」

 二人はのんちゃんという名前で、のぞみのことが清三の婚約者だとわかったようだった。


 ……この人たちも知っているんだ。私が婚約者だってこと。


 のぞみは少し困ってしまった。どうしてクラスメートやこの人たちは自分が清三の婚約者だと知っているんだろう。あまりに情報が早いような気がするのだ。


「あの……松葉のぞみです。よろしくお願いいたします」

 のぞみは一応、頭を下げて挨拶をした。ここで清三に問い詰めてもしょうがないと思ったのだ。

「松葉?」

 豪が首をかしげている。

「はい……松葉です」

 のぞみは何かおかしかっただろうか、とつられて首をかしげてしまう。

「いやいや、ごめんごめん、松葉のぞみちゃんね。よろしくね」

 豪は誤魔化すように笑いながら言った。のぞみは豪の態度が少し気になって、清三を見上げてしまった。

「むっ!」

 清三は更に眉間のしわを深くしただけだった。



「のぞみちゃん、お二方は清三様の仲の良いご友人です」

 後ろにいた桜ちゃんがそっとのぞみに教えてくれた。

「そうなんだ」

 のぞみが清三に目線を向けると清三はこくりと頷いたのだった。



 キーンコーン


 教室にチャイムが響き渡った。どうやら授業が終わったらしかった。


 のぞみはこれ幸いとばかりに清三たちに挨拶をして教室を出ようとしたところ、清三に引き留められた。

「のんちゃん」

「はい」

「今週末、家に来てほしい」

 清三はのぞみをじっと見つめると、そう告げた。

「え……その……」

 のぞみはいきなり家に誘われて困ってしまう。

「来てほしい、迎えをよこそう」

「……はい」

 清三の威圧感に押し切られるように、のぞみは頷いていた。清三の声は大きくはないのだが、なんとなく頷いてしまう威圧感があるのだ。


 清三はのぞみが頷いたことに満足したのか、それじゃあと言って教室を後にした。玲がのぞみに軽く頭を下げ、そして豪は手を振りながら清三に続いて教室を後にした。


 のぞみは清三たちを見送りながら、どうして頷いちゃったのかな……と後悔していた。

 口から小さなため息が漏れてしまった。



「のぞみちゃん、行きましょうか」

 桜が後ろからのぞみに話しかける。

「うん……松君は……」

 のぞみが桜の言葉に頷き、周りを見渡すと松は教室の端に立っていた。のぞみが松に近寄ると松は少し頬が赤い気がした。

「松君?」

 のぞみは首をかしげる。

「すげ……清三様に豪さんに玲さんまで……3人とお話しできるなんて、今日は良い日だ」

 松は感動しているようだった。

「あの?」

 のぞみはなぜ松が感動しているのかわからない。

「清三さんたちは、すごい人なの?」

 松に問いかけると、松は興奮したように頷いた。

「皆のあこがれだよ!」

 松はつばでも飛ばしそうな勢いでのぞみに言った。その勢いにのぞみはつい後ずさってしまった。


 ……松君は大げさだな。感動しやすい性格なのかな。

 のぞみは松の様子を見ながらそんな風に感じていた。




 特技科で何の授業を受けたいか特に決めていないのぞみは、次の時間からは一通り順番に特技科の敷地を案内してもらうことにした。いろいろと見ていけば、何か興味がでるかもしれない、と桜と松と話し合った結果だった。


 第1グラウンドでは今日もサッカーをしているようだった。どうやら女生徒もいるようだったが、のぞみは特に運動は得意な方ではない。苦手ではないが、あえて選択で選ぶほどでもないな、というのが感想だった。

 ちなみに第2グラウンドは陸上がメインのようで松の知り合いがたくさんいた。どうやら松は足が速く、良くこの第2グラウンドで行われる授業を選択しているらしかった。第3グラウンドについては今日は使っていない、ということで行かないことにした。


 そして第1体育館。ここは体育館の中でも最も広い体育館で球技が盛んにおこなわれているらしい。ここものぞみは一通り見るだけにした。グラウンドの授業といい、体育館の授業といい、授業の内容が明らかにレベルがおかしいくらい高かった。特技科の授業を見てしまうと、普通科の体育の授業は小学生の遊びのように思えるかもしれない、というくらいだった。

 のぞみはなおさらこんな選択授業は取れないな、という気持ちになっていた。


 第2体育館は武道の授業がメインらしい。柔道や拳法、そして端には弓道場まであった。


「運動は……お腹いっぱいです」

 のぞみは早々に根を上げていた。まずは運動系の選択授業を見たのだが、どう考えても一般的な高校生のレベルではない。のぞみが入りたいと思えるものはなかった。

「レベルが高すぎる気がするんだけど……」

 のぞみの反応に松はえ?という驚きの表情を見せ、桜は頷いていた。どうやら桜はのぞみの感覚と近いらしい。のぞみは桜を見てほっとしてしまった。


 

 ここでお昼の時間になったので3人は食堂に行くことにした。のぞみは今日一番楽しみだな、とわくわくしていた。

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