第2話 え?婚約者?

 のぞみ達三人が訪れたのは、学園の近くのショッピングモールにある今人気のアイスクリーム屋さんだった。「KITOHアイス」はオレンジと白を基調にしたかわいい造りのお店で、アイスを頼むとトッピングはいくらでも自由に追加できるのだ。それが女子高生には特に人気だった。

 のぞみはいつものようにバニラアイスにチョコレートをかけてもらった。バニラとチョコを両方味わえる、この組み合わせがのぞみは大好きだった。バニラとチョコのバランスが一口一口違うので、まったく飽きることがない。隣では麗華がバニラアイスのカップにこれでもかというくらいたくさんのフルーツをトッピングしていた。麗華の最近のお気に入りらしい。一方、桜はトッピングなしのチョコミントアイスを食べていた。


「おいしいねぇ」

 のぞみはアイスを食べながらとろけそうになっていた。あまりに美味しくて、まさに身体がとろけそうなのだ。顔がほころんでしまうのが自分でもわかる。

「本当に、ここのアイスクリームは最高だわ。フルーツをいくら乗せても、店員さんが困った顔一つしないし」

 麗華はそう言いながら満足そうな表情を浮かべている。

「そうですね、このチョコミントもミントの味が絶妙です」

 桜もアイスを褒める。桜はチョコミントアイスが好きなのだが、ミントにとてもこだわりがあるらしい。ミントが強すぎても美味しくないし、バランスが大事なのだと前に言っていた。桜の話によるとアイスのメーカーによって全然美味しさが違うらしいのだ。

 三人は学校で今日あったことを話しながら、仲良くベンチでアイスを食べた。話題は尽きることがなかった。


 夕方になり、辺りが赤く染まってきたころ、三人はようやくベンチから立ち上がる。どうやら思っていたよりも話が盛り上がって時間がたってしまっているようだった。


「じゃあ、また明日ね!」

 麗華はそう言うと、のぞみと桜へ手を振ってから歩きだした。麗華の家はこのショッピングモールを挟んでのぞみの家とは反対の方向にあるのだ。

「じゃあ、桜ちゃん帰ろうか」

 麗華を見送ると、のぞみは桜に話しかけ、一緒に帰り道を歩き出した。

「アイス美味しかったね」

 のぞみはアイスの味を思い出し、顔がほころんでしまう。

「美味しかったです」

 桜も笑顔だった。

「また食べに来ようね」

「はい。是非」

 のぞみは桜も楽しかったような様子なのを見てうれしくなっていた。





 のぞみが夕食を終えて、居間のソファでゆっくりしていると、ママが近寄ってきた。相変わらずにこにこしている。

「のんちゃん、今週の日曜日の予定だけど……」

「え?」

 のぞみは首を傾げた。何かママと約束していたかな?と考えたが、思い出せないのだ。

「あら?」

 ママものぞみにつられて首を傾げた。

「今週の日曜日のお約束よ」

「ごめん、ママ。……覚えていないみたい」

 のぞみは自分が忘れてしまったようだと思い、ママに謝った。

「あら?言ってなかったかしら?」

 ママもいつのぞみに伝えたのか覚えていないようだった。二人で首をかしげたまま見つめ合う。

「まぁ、いいわ。のんちゃん、今週の日曜日のお洋服はお着物にするわね」

 ママは全く気にした様子もなく、笑顔でのぞみに告げた。

「え?どこかに出かけるの?」

 ママはきちんとした場に出かける時は、のぞみに着物を着せたがるのだ。

「あら?違うわ。婚約者が来るのよ」

「そう、婚約者……?」

 

 婚約者……婚約者……婚約者!?

 

 のぞみはやっとママの言っていることの意味を理解した。

「婚約者って……誰の?」

 まさかと思いながら、のぞみは恐る恐るママに聞いてみる。

「のんちゃんのでしょう?」

 ママはのんびりと笑いながらのぞみに答えた。

 

 ……初めて聞いた。婚約者って……?

 のぞみはショックのあまり呆然としてしまう。


「初めて……聞いた……と思うけど……」

「あら?そうだった?」

 ママは首をかしげている。

「うん!聞いてないよ!そんな婚約者だなんて!知らなかったよ」

 のぞみは焦っていた。まさか自分に婚約者がいるなんて、青天の霹靂もいいところだ。幸い今好きな人はいないけれども、だからと言って良いという訳でもない。まさかママの妄想なんじゃないか、とまで疑い始めていた。

「とても素敵な方だって聞いているわ、大丈夫よ」

 ママは嬉しそうな顔をしている。

「そういう問題じゃ…」

「のんちゃん嫌だった?」

 ママの顔が悲しそうな表情になった。

「そんなことは……ないけど……」

なんだか我儘を言っているような気持ちになって、のぞみの声は小さくなってしまう。

「……会わなきゃダメ?」

 のぞみはいきなり婚約者と言われても、と会うことをためらってしまった。

「のんちゃんが嫌なら、嫌って伝えるわ」

 ママは優しい笑顔でのぞみにうなずいた。のぞみはママの言葉にほっとした。

「そう……もしかして、偉い人だったりしないよね?」

 のぞみは一応、万が一を考えて、ママに確認してみる。

「偉い……人よ」

 ママは少し考えて笑顔で断言した。

 

 それは断ったらまずいと思う


 のぞみは焦ってしまった。

「やっぱり会うだけなら大丈夫……もう約束しているんだよね?」

「えぇ。向こうものぞみに会えるのを心待ちにしているって言っていたわ」

 ママが嬉しそうに答えた。


 それは会うのを断ったら絶対にまずい


 のぞみでもそれくらいのことは簡単に想像がついた。

「日曜日、大丈夫だよ」

「あら、良かったわ。じゃあお着物、用意しておくわね」

 ママはそう告げると、嬉しそうにるんるんしながら居間を出て行った。

のぞみはそれを見てため息をついてしまった。


 婚約者だなんて……。でも、きっと断られるし、大丈夫かな。


 のぞみの容姿は平凡だ。ママが相手はのぞみに会うのは楽しみにしている、と言ったって社交辞令に決まっている、とのぞみは思っていた。


 麗華ちゃんだったら……大変だろうなぁ、かわいいから。


 などとのんきなことを考えていた。

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