第7話 長い山道

「…て言うかさ」


「何?」


次の日になって筋肉痛が多少マシになった僕と見えないちゃんとの次の旅。

今歩いているのは人一人がぎりぎり通れる道幅の山道。

勿論この場所は日本なんかじゃない…はず。


そんな危険な道を見えないちゃんはまるで何でもない顔をしてほいほいと進んでいく。

嘘だろ…これ足を踏み外して落ちたら間違いなく死が待っているんだぜ…?

彼女には恐怖心と言うものがないのか…?

…って、そう言う道を進みながら会話が出来るくらいは心に余裕が出来た僕も僕かな。


「封印を解いても封印をまたされたら意味ないんじゃ…」


「あーそれね?」


僕は流れる汗を拭きながら見えないちゃんについていく。

出来るだけ慎重に歩きたいけど見えないちゃんのスピードが早いので本当に命懸けで付いて行くので精一杯。

うう…どうか足を踏み外しませんように…(汗)。


「一度封印を解いた所は結界を強化するって言ってた」


「そ、そうなんだ…」


この山道を進み始めてかれこれ2時間…まだこの道の先は見えない。

ここに飛んで来た時に見えないちゃんは目的地はこの山道の先だって言ってたけど…。

一体どこまでこの道は続くんだよ…トホホ…。


上空では大きな鳥が空を旋回している。

あれ…まさかハゲワシじゃないよね?

僕らがくたばるのを上空で待っているなんて…え、縁起でもないからね…。

そんな悪い想像をしていると何処かから何か音が聞こえて来た。


ガラッ


ドンドドドーン!


何と突然轟音を立てながら頭上から大きな岩が落ちてきたッッ!頭上注意ッッ!!

ヒィィーッ!な、何をするだーッ!


ドンッ!ガラガラガラガラッ!


岩は僕の背後を豪快に転がり落ちて行った。

そして僕がさっきまで歩いていた山道は岩に削り取られて通行不能状態に…。


や、やばかったッ!


何とか直撃は逃れたけど…もうちょいゆっくり歩いていたら確実に…。

もうやだこんな旅…(涙)。


「何やってんの、行くよ!」


僕が恐怖に震えて固まっていると見えないちゃんからお叱りの言葉が…。

鬼や!見えないちゃんあんた鬼やで!

でも文句なんて言えるはずもなく僕はしぶしぶ彼女を追いかける事に。

まぁ…じっとしていてもまた岩が落ちてくるかも知れないしね。


そんな緊張感あふれる道中はこの後も一時間は続き…。

その後は何とか大きなトラブルに巻き込まれる事なくこの過酷なミッションも終わりが見えて来た。

ふぅ…何てハードなんだ…寿命が三年くらいは縮んだぜ…。


狭い山道を抜けた僕らを待っていたのはいかにも怪しそうな洞窟だった。

RPGで言えば手強いモンスターと共にかなりのお宝が眠っていそうな…。

セ、セーブポイントはどこですか?(混乱)


(旅に出る前にライトが必要だって言ってたのはこの為だったんだな…)


僕は手荷物の中からLEDライトを取り出して見えないちゃんに手渡した。

彼女はそれを受け取ると洞窟の中へ進み始める。

この奥にきっとあの封印があるんだろうな…。

僕も手荷物のバッグを締め直すと見えないちゃんを見失わないように歩き始める。

洞窟の中はかなり暗くてまるで全ての光を拒絶しているみたいだった。


ピチョン…


鍾乳石がしずくを垂らす音だけが洞窟内に響き渡る。

人の手の殆ど入っていない洞窟は普通に進むのすら困難だった。

何もこんな厄介な場所に要の場所なんてなくてもいいのに…。


洞窟と言えばお約束のコウモリだけどあまりに暗くて上空を照らさないといるかいないか分からない。

上空を照らせば分かるかもだけど今の僕らにそんな余裕はなかった。

多分上空を照らすと天井いっぱいにコウモリがいて僕は驚いて悲鳴の一つもあげちゃうんだろう。

こんな場所でも見えないちゃんは冷静でただ黙々と歩いて行く。

まるで彼女には目的地がすっかり分かっているみたいだった。


周りは暗いけれど洞窟内はまあまあの広さがあって道幅もさっきの山道よりは広くてこっちの方が歩くのが楽だったので僕はしっかり見えないちゃんの後をついていく事が出来ていた。


「あっ!」


次の瞬間、見えないちゃんは突然そう言ったかと思うと足を滑らせてしまった!

僕はとっさに見えないちゃんの手を掴む。ふぅ…すぐ近くを歩いていて良かった。

あと少しタイミングが遅ければ見えないちゃんは洞窟の底へと落ちてしまっていた事だろう。

見えないちゃんの手をとっさに掴んだ時、さすがの彼女も恐怖で顔がこわばっていた。

僕はやっと一緒について来て役に立つ事が出来たと嬉しい気持ちになっていた。


「ありがと…」


「どういたしまして」


二人の間に妙な時間が流れていく。

この沈黙は30秒くらい続いた。

そうして心を落ち着かせた見えないちゃんは再び歩き始める。

僕も今度はしっかり彼女から目を離さないように歩き出した。

二人は洞窟をくねくねと曲がりながらしかし確実に奥へと進んで行く。


洞窟内を1時間ほど進んだところで例の見覚えのあるオブジェが見えて来た。

そう、例の封印された星の要だ。


「ここは昔古代人の儀礼の場所だったんだって」


「へぇ~」


見えないちゃんの言葉に僕は特に興味なさげに答える。

実際そう言うのに僕はそんなに興味はなかった。

じっくり見てもみたいけど見えないちゃん自分の仕事が終わるとそそくさと帰っちゃうし結局ただの付き添いでしかないなら興味を持つだけ無駄な気がしていた。

それよりこれで今日の仕事が終わると言う方が嬉しかった。

山道で3時間に洞窟で1時間…今回もかなりハードだったからだ。


バチン!


封印を解いた音だ。

封印を解いた見えないちゃんは振り返って僕の手を掴んで歩き出す。

その時見た見えないちゃんの顔は何だか少し高揚しているように見えた。



「それじゃあお疲れ様!また明日ね!」


お金の入った封筒を渡して見えないちゃんはまたすぐに帰ってしまった。

相変わらず封印を解いた後の見えないちゃんはそっけない。

まるで僕とあまり長くは居たくないみたいな…。


…考え過ぎかな?


とりあえず明日の為にしっかり体をほぐしてしっかり身体をいたわらないと…。

しかし本当に今日は体力的に厳しかった。死の危険も身近に感じたし…。

どうか明日はもう少し体力的に楽な旅をお願いします…。

僕はもうそこにはいない見えないちゃんに向かってそう懇願していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る