小さい彼女と僕の実験メモ PEPの巻

@take-rakkyo

【幸福な高校生】


剛将タカユキ白鴇しろとき市で一番心臓の動悸が早い高校1年生かもしれない。


目を閉じて姿勢を正してソファに座っている。ユカリの指先が右の頬にゆっくりと近づいて来るのを感じる。ユカリは左手を伸ばし僕の右頬へそっと触れてきた。暫くの間は指先だけで触れていた。しかし時間が経つと頬の感触だけでは満足出来ないのか、それとも更なるふれあいを求めてなのか彼女の指が徐々に頬から耳に近づいてきた。指の第1関節、第2関節と徐々にユカリの指が頬に触れている面積が増えていくのが分かる。ユカリの体温が頬を伝わって僕の体の中に流れこみ僕自身の体温がどんどん上がっていくようだ。とうとう耳上をユカリの指が通過し髪の毛に指先が差し込まれ、彼女の手の動きが止まった。そして手のひら全体が僕の右頬に添えられた。


以前は授業が終わったら一緒に下駄箱に向かう間に話しもできたけど最近はあう機会が少なくなった。ユカリから電話が来た。

「他の人に邪魔されないような静かな場所でふたりだけで話したいことがあるんだけど」

〈今じゃダメなの?〉

「電話じゃなくて会って話したいから」

〈じゃぁ、マツセンに頼んでみるよ〉

「お願い」

同級生のマツセンこと松田に頼んで彼の家でユカリとふたりで話す日時を決めた。


白鴇市で、いや日本で、いやいや今この世界で一番幸せな男子高校生じゃないかと思う。


ユカリが体の位置を直したのが分かった。先ほどよりも僕の方に近づいてきたようだ。どうやら僕と正対するポジションで、つまり僕の目の前にユカリは座ってるらしい。ユカリが動き終わったのとほぼ同じタイミングで左頬にも彼女の指先を感じた。右頬にユカリの左手の温かさを感じているところに、さらにユカリの指先を感触を左頬に感じた。

なんだかゾクゾク、そしてバクバクしてきた。背中の下の方というのか腰の上のあたりにというのか、もしかしたら背中全体なのかもしれないけど、体の表面ではなく体の内側からゾクゾクっとする感じが沸き上がってきた。体の裏側がゾクゾクしているのと同時に体の前側では心臓がバクバクしてた。どう考えても僕の心臓は定格以上のスピードと振幅で動いている。ゾクゾクとバクバクを同時に感じながら、頭の中ではまた別のコトを考えていた。

いったいユカリは何をするんだろう。相談したいことがあると言っていたけど、もしかして…。いやいや、そんなことは無いと思う。そりゃ僕だってユカリのことは嫌いじゃないし高校生だからそろそろ経験しても良いと思うこともある。友達の中ではいろんな経験を既に済ませた話も聞くけど、ユカリはまだ中学生だからもっと女性として大人の体になってからの方が良いかもしれない。いや中学生でも中には…なんてことを考えていたら更に体温が上がってきた。ダメだダメだ、他のコトを考えなきゃ。

左頬に触れているユカリの指が少し動いた。ゾクゾクっとまた体の中から刺激が上がってくる。

勉強のことを考えよう。そういえば輝暁学園(ききょう学園)は入学式の日からテストがあったなぁ。僕らは3科目テストを受けたけど、ユカリはテストをひとつ受けて帰って行っていたなぁ。そうだった、ユカリに最初に会ったのは入学式に向かう途中だったなぁ。あの頃はあんなに小さくて小学3年生かと勘違いしちゃったんだったっけ。何年も経っているから大きくなるのも当然ってことか。最近はちょっとだけど胸も膨らんできてるからなぁ。まあ、あの頃より成長したけどまだブラジャーなんかはつけてないんだろうなぁ。これから高校生になるともっと成長して背も大きくなるしもっと女らしくなるのかなぁ。そんな変化があったらユカリの事をもっと好きになっちゃうかもしれないよなぁ。あー、ユカリのこと考えているとなんだか体熱くなってくる。

ユカリが頬に触れている感触、そして目の前から聞こえてくる吐息に改めて気が付いて、自分の体がゾクゾクとバクバクとなっている状態が相変わらず全然治まってないことににも気が付いた。

ユカリはソファに座る僕の前に膝立ちしてるのかなと思った瞬間に優しい声がした。

「目は開けちゃダメ」

その声にビクッとしてしまった。というのもソファに座る僕の前でユカリがどんな表情そしてどんな格好をしているのかを薄目を開けて確かめたいと思った時だったからだ。

「膝立ちでタカニイの前に居るよ」

左頬に触れているユカリの手も右頬と同じように僕の頬を包むようになった。ソファに座る僕の前にユカリが膝立ちになって僕の頭を両手で包み込んでいる様子を想像するとなんだか一層ドキドキしてきた。

ユカリの両手に加わる力の加減が変化しユカリの顔が徐々に近づいて来るのが分かる。ユカリの体温が近寄ってきた。ユカリの息遣いも少しずつ早くなりながら距離が近くなってきている。ユカリのおでこと僕のおでこが触れそうな距離になった。触れてはいないけどお互いの額の間隔が近いから空気の膜を通してユカリの体温が僕の額にまで届いている。


暫くの間、ユカリはそのままじっとしていた。


ユカリは両手を離し、そのまま向かいのソファに向かっていったようだ。

「目を開けてもいいよ」

目を開けてみるとユカリは向かいのソファに座って頬を赤くして座っていた。それを見て僕も頬だけじゃなくて耳までが熱くなっているのに気付いた。自分が赤面していることに気が付くと頬だけじゃなくて、胸の辺りも含めて上半身全体が一気に熱を帯びてきた。恐らく顔や耳なんかはさっきよりも更に赤くなっているんじゃないかな。


目線を上げて僕の目を見てユカリは言った。

「タカニイって私のコト好きなんだ」

〈あ、いや、その〉

「私も嫌いじゃないよ」

〈え、うん、あ、そうだよ嫌いじゃない〉

「何しようとしてたか分かる?」


そんなこと急に聞かれても答えられない。ユカリの質問になんて答えたらいいんだろう。何をやってるんだ、まだ中学生の女子相手にと思うんだけど自分でも何を言っていいのか分からない。さっきのは何をしようとしてたのと聞くのもなんだか恥ずかしいし、思っていた通りのことをユカリがしようとしていたとしても直接聞いていいものなのか分からない。でもユカリが僕にキスをしようとしていたならまだ良いけど、そんなのは全く的外れのことで、ユカリは全然別の目的で僕の両方の頬に彼女の両手を添えていたのだとしたらと思うとと質問なんか出来ない。それにユカリに僕がユカリにキスをしてもらうことを期待していたなんてことを知られてしまったら次からユカリにどう声をかけていいのかも分からない。

あぁ、ダメだ。こんなことを考えていたら赤面するばかりじゃないか。さっきの状況から予想していたのは、そのままユカリが顔を近づけてきてぎゅーっと抱きしめられたりするのか、それともユカリが唇を僕の唇に触れ合わすようなことになるんじゃないかということだ。目を閉じてユカリが僕の頬に触れた瞬間から目を開けてユカリの様子が観察できるようになった今でも同じことが頭の中でぐるぐるしている。


ユカリは僕の瞳を見つめながら静かに言った。


「封印していた実験を再開したいの」


そのひとことで一気に体の火照りなんかは気にならなくなり、冷静になれた。ちょっと前までユカリと秘密の実験をしていた。お互いの体の変化を観察しながら、どういうことをしたらどのような変化が現れるかというのをお互いに観察しあっていたんだ。

実験を続けていくうちにお互いにとってもう少し成長するまで続きは暫く保留した方が良いのじゃないかと思ってユカリに言ってみた。ユカリも同じ思いだったみたいで実験は1月前に中止していた。てっきりユカリも納得していたのだと思っていた。

あの時もそうだけど、いまでもお互いの体がもう少し成長して大人になってから更に先に進めば良いのじゃないか思ってる。ふたりで実験していることは誰にも知られる訳にいかないし、ふたりでいるところを邪魔されたくないから実験はそんなに頻繁には出来なかった。

実験をして僕ももっと先を知りたいという気持ちはあったけど思い切って中断の提案をして、ユカリが受け入れてくれてホッとしていたところだった。だから、その話を再び今日持ち出されるとは思ってなかった。

再開したら今まで知っているだけのことだけじゃなくて、もっと先の展開を知りたくなるのは目に見えているから、深入りする前に実験を中断出来て正直ほっとしていたところだったのに。でもこの実験の話しと僕を赤面させるこの状況とはどう関係があるのだろう。


〈実験は暫く中止にするって決めたんじゃなかったっけ〉

「どうしても再開したいの。タカニイがどうしてもダメなら他の人を探してくる」


いや、それはダメだ。ユカリの実験の相手を他の男にはやらせたくない。ユカリが実験を更に進めるならその相手は自分じゃないとどうしても嫌だった。


〈もう少し成長してからにしようってことじゃなかったかな〉

「成長したよ」

〈まだあれから1か月しか経ってないじゃないか〉

「だから1か月分成長したって」


大人が子供の成長具合を見る時にするように、ユカリの頭のてっぺんから肩、腕、胴体、足へと視線をさっと走らせてから言ってやった。


〈見たところ1か月前とそれ程違わないみたいだけど〉

「そんなことないわ。よく見て」

〈何回見ても同じだよ〉

「どうしても実験を進めたいの」

〈前と状況が変わったとかなのか〉

「どうしても実験を進めてみないとダメなの。あの先の体験をして自分の変化を感じたいの」


なるほど前はそう思わなかったけど、今はもっと先の体験を感じたいってユカリ自身が思っているってことか。ふたりで相談して中断することにした実験を再開したいというにはそれなりの何かがあったのかもしれない。そのユカリの気持ちを変化させたのは何かを知りたかった。


〈ユカリは本当に良いのか?〉

「うん。タカニイと実験をしてもう少し先まで進みたい」

〈でも、実験のことは誰にも絶対に知られてはいけない秘密だよ〉

「分かってる。今までのことだって誰にも話してないよ。信用してよ」

〈それは信用してる。ただ一生秘密でいられるかってことだよ。つまり俺とユカリ以外の誰にも。それとユカリの体が心配だよ〉

「体調の変化は今まで以上に気を付けることにするからお願い」

〈本当に約束できる?〉


少し暫くの間、はにかむように僕を見ていた。そしてユカリが言った。


「うん、約束する。ちゃんと信用して大丈夫。いつまでも小さいお子ちゃまじゃないから。だってブラももうしてるよ。じゃ、約束するから、もう少ししようね」


こうして実験を再び始めることになった。

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