リレヴォリューション~戦場を駆ける蒼き機神~

逢神天景

第一章 異世界転移、そして戦場へ

第1話 Wold Robot Battle Championship

「うおおおおおっ!」


 緑色の機体が上空から現れ、剣を振り上げた。不意打ち気味にその剣が迫る ――が、俺はそれを紙一重で回避する。 

 ガギンッ!  と、目標を失った剣が、地面にぶつかり派手な音をあげた。 


(よしっ! もらっ……たっ!)


 ほんの一瞬、ほんの一瞬ではあるが、緑色の機体は動きが止まる。今は世界大会、その一瞬が命取りだ。

 ニヤリと口の端を歪め、その機体の右腕を斬り飛ばした。


「くそっ! だがっ! 死なばもろともだ……た、大会最年少である貴様を優勝させるわけには……」


 緑色の機体の手に、なんらかのオブジェクトが顕現する。

 アレは――強化手榴弾か。有効射程が広く、ダメージもデカい。が、あの距離で爆発したら自分も巻きこまれる。さては、自爆する気だな?

 チッ、と一つ舌打ちしてから、緑の機体を蹴り飛ばし、転がって手榴弾の有効射程内から外れた。


「く、くっそおおおお!!」


 手榴弾が爆発し、右上の「サバイブ欄」から、緑の機体に乗っていたプレイヤーの名前が消える。あっけないもんだ。


(これで、あと二機!) 


 7機も減ったから、大分楽になった。どいつもこいつも、攻め方が雑すぎる。せっかく囲んだんだったら、もっと連携して攻めてくればいいのに。

 結局――如何にして相手を出し抜いて俺を倒すか、に集中してるから話にならないんだよ。

 そんな風に呆れて――というか、くだらないと感じつつ――残りの二機を探していると、弾丸が装甲の一部が欠損していたことに気づいた。チッ、有効射程からは外れたが、破片か何かが当たったか。

 そのことに気を取られた刹那――


「よし、挟め!」


「おう!」


 青と赤の機体が、左右の廃ビルの影から現れる。俺の動きが止まる瞬間を狙っていたらしい。だが、それは予想通りだ。


「はっ! 誰が当たるかそんなへなちょこ弾!」


 ドン! ドン! と大砲のような威力の弾丸が左右から発射されるが、それをサイドステップで躱し、そのまま赤の機体に肉迫する。


「ぐっ …… なんて速さだっ!」


「てめーが遅えだけだ、っての!」


 ガッ! と赤の機体が持っている銃に刀をつき立て、そのまま切断する。

 そして間髪いれずに、左手の刀で首を切り落とす!


「な、なんだと …… ッ」


(ラスト!)


 斬! 返す刀で上から一刀両断し、目の前で機体が爆発する。これで、残るはラスト一機だ。確か、アメリカチャンプだったかな。


『おいおい、マジかよ……』


『嘘だろ、《不可侵》は全員から、開始と同時にずっと集中攻撃されてたのに……生き残ってるだけじゃなくて、他の機体全部倒してるぞ?』


『おいおい、ホントにこれが決勝戦か? さすがに不甲斐なさ過ぎるだろ』


『いや、《不可侵》が強すぎるんだって。他の奴らも二つ名があるような、高名なプレイヤーばかりだ。なにせ、何万人の中から勝ち抜いてきた猛者たちなんだぜ?』


『なんだよこれ……正直、《不可侵》も年貢の納め時だと思ったのに……なんでやられないんだ?』


 普段は鬱陶しいギャラリーのチャットも、肉声で聞こえるなら心地よいBGMだ。なんせ、俺を称える声ばかりだしな。

 俺は最後の一機、青の機体に向かって悠然と振り返る。もっとも、集中はきらしていないが。


「ん?」


 さっきまで一剣一銃の構えだったのに、両手に銃を持っている。しかも、形状からしてマシンガンだ……って、まさか、


『あ、あいつ! 両手にマシンガン――しかも、シュバルツシュレインを二丁! まさか、対戦でそれを使う気か!?』


 ギャラリーの誰かが言った瞬間、マシンガンからスコールのように弾丸が射出された!

 ダダダダダダダダダッ!! と、連続して銃声が鳴り響く。


(ちきしょう、鬱陶しいなこの弾幕 …… )


 これはいわゆる「対戦では使わないことが暗黙の了解とされている」武器の一つで、使うと興ざめな武器だ。 シュバルツシュレインは、普通のマシンガンよりも段違いに性能がよくて、射程、弾速、威力、連射の速度などなど、ぶっちゃけアホみたいな壊れ武器なのだ。これを二丁持って遠くから段幕をはり続けるプレイを、通称チキンプレイと言う。

 一対一で戦う時は――上手いプレイヤーが使うと――なんだかんだ言ってこの武器は強い。なんてったって自分は相手の攻撃が届かないところから一方的に攻めれるんだから。 

 もちろん、無敵の武器というわけではない。強力な盾を装備してる奴ならまだ戦えるし、そうでなくても防御力の高い機体に乗っていたら、意味が無いとまでは言わないが、そこまで一方的にやられるような展開にはならないはずだ。


『き、きたねえぞ! 正々堂々戦いやがれ!』


 ギャラリーの誰かが叫んだ。周りも「そうだそうだ」と騒いでいる。

 だが、言われている方は涼しい顔で、


「ふん、何を言われようと気にならんな。なにもルール違反などしていないのだから」


『くっ …… 』


 それはこいつの言うとおり。これはあくまでマナー違反というだけで、ルールはなにも破っていない。ルールを破ってないんだから、これも戦術の一つだ。あと、関係ないけどこのアメ公は日本語上手いな。

 ……話がそれた。正直、シュバルツレインを相手が使おうが、俺が盾でも装備してればなんの問題も無かったことでもある。むしろ、そういう敵にも対応できる装備を調えておかなかった俺が悪いと言われても仕方が無い。


『くそっ……《不可侵》が一番チキンプレイと相性が悪い、二刀装備、紙装甲の機体だってのを知っててこんなことをやってるのか……』


 ギャラリーの誰かが言った。

 まあ、今さらそんなことを言っても意味は無い。試合中は装備の変更が認められていないからな。


(まあ …… それを覆してこその、俺だよな?)


 俺が集中力を高めていると、調子に乗った相手の声が聞こえる。


「さて、このまま削りきって …… なあっ!?」


 俺の装備が相性が悪いのは確かだ。しかし、それは弾丸が当たったならの話だ。

 だったら、当たらなければどうということはない!


「らあああああああああ!!」


 キンキンキンキンキンキンッ!!


『んな、バカな!』


『あ、まさか、《不可侵》の奴……』


「弾丸を斬っているだとぉっ!」


 俺は二本の刀を高速で振り、自分の機体に当たりそうな弾丸をすべて斬りながら、敵機へと近づいていく。このゲームにおいて、機体のスピードを上げる方法はは唯一つ。高速で指令をタイピングすることだ。

 そして、自慢じゃないが――俺は、今大会で一番の操作速度を誇るプレイヤーだ。直線でしか飛ばない弾丸なんて、いくら速かろうがただの棒球と同じだ。

 そもそも、チキンプレイなんて、俺レベルのプレイヤーに効果があるわけないだろ。


「ふ、ふざけるな …… ふざけるなああ!!」


 狂ったようにマシンガンを連射する青の機体。だが――もう、俺は刀の届く範囲に入った。


「こっから先は、俺の距離だ」


 鬱陶しい二丁のマシンガンを一度に斬り捨てる。

 そして――


(いくぜ……二連!)


 俺は左手の刀で横一文字に斬り払い、さらにそれとほぼ同時のタイミングで――右手の刀で、機体を縦一文字に真っ二つにする。


『出たああああああ! 《不可侵》の十文字斬り!』


 右上の「サバイブ欄」から、最後の機体の名前が消え、俺の名前だけが残った。


 そして――画面に、

『CONGRATULATIONS!!』の文字が躍る。


『試合終了ォォォォォ!! 当初は他のプレイヤー全員からその首を狙われ、優勝は不可能かと思われた! しかぁし、この男はそれを嘲笑うかのように! 見事全員打ち破った! ワールドロボットバトルチャンピオンシップ優勝者は、《不可侵》こと、YUYAだぁぁぁぁぁ!!』


『『『『『おおおおおおおおお!!!!』』』』』


 司会の声が轟き、会場が揺れる。そして俺は筐体から立ち上がり、ガッツポーズをした。……正直、へとへとだったが、やってやったぜという気持ちが心の底から湧いてくるので、それだけでも優勝してよかったと思える。

 そうやっていると、いつの間にか近づいてきた司会が、俺にマイクを向けてきた。


『YUYA選手! 今の感想をお願いします!』


 ああ、感想か。それならば、と思い俺はそのマイクに顔を近づけ、満面の笑みで応える。


『最高です!』


 その後いくつものの質問が俺に浴びせられていたようだったが、妙に現実感の無いふわふわとした気持ちで……気づくと、いつの間にかインタビューは終わっていた。 


『では最後に、この大会の優勝賞品の一つ、公式二つ名の授与です!』


 わけのわからない景品もあったもんだ。まあ、嬉しくないことは無いが。


『この二つ名は、決勝戦が始まると同時に公募され、試合終了と同時に、WRBCS運営委員会によって、候補の中から決定されました』


 なるほど、だからさっきの質問が多めだったんだな。時間をつなぐために。


『では! YUYA選手の公式二つ名は……こちらです!』


 司会が、さっきまで俺たちの試合が映し出されていたスクリーンを指差す。そこには、かなり痛々しい文字列が並んでいた……


《不可能を嗤う男》


 ……なんとも、なんとも中二病な二つ名だな。つーか長いよ。まあ、二つ名ってそういうもんなんだろうけどな。

 どうやら、この公式の二つ名というのは、今度から俺がWRBをプレイする時に、使わなければならないらしい。

 さらに俺は賞品として、アップグレード時の性能テストなどを行う権利をもらえるようだ。ゲーマーにとって、これ以上の賞品はないな。


『さあ、もう一度優勝者、《不可能を嗤う男》こと、YUYA選手に拍手をお願いします!』


 わああああああああああ!!! と、いう大歓声とともに拍手される俺。

 もう一度俺に、勝ったんだという実感が湧く。


「今度から、俺は『不可能を嗤う男』か……やれやれ、もう負けらんねえじゃねえか。まったく、尋常じゃねえな」


 そう呟きながら、俺は会場を後にする。



 ――しかし、この日を境に、《不可能を嗤う男》こと、YUYAの名前……つまり、俺、山上雄哉の名前は二度と世間にでることは無くなった。

 それは俺の物語が終わったから、じゃない。

 むしろその逆で、俺の物語は、この日から始まったんだ。真の意味で世界中に名を轟かせる、この俺の物語は――

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