第82話「経験数」
いや待て、落ち着くんだ。私。
目の前にいるのは人畜無害そうで真面目な好青年の長官と呼ばれる男性だ。見た目からしておそらくはまだ20代中間あたりだろう。適度に切り揃えられた黒髪。少し神経質そうだが、利発そうな顔だと優しい目元。うん、成程。イケメンだが、イマイチうだつが上がらなそうな雰囲気も兼ね備えている。
そしてそんな彼が目に掛けているのが、そう。眼鏡だ。
そう、眼鏡だ。
我々が探していたチートアイテムはあの眼鏡だったのだ。
思考をフル回転させる。初めて目にしたチートアイテムが眼鏡とはツッコミ所が多すぎてどうすすればよいのか正直戸惑っている。眼鏡だぞ、眼鏡。視力の悪い人が視力を補強するために作り出された人類の英知とも言えるアイテム、眼鏡。
それがよりにもよってチートアイテムとはどういうことだ?
あの眼鏡にいったいどんなチート能力が宿っていると言うのか。緊急時には眼鏡のレンズから特殊な光線か電波が放出されて敵を撃退するのか、レンズから防御シールドが展開されて如何なる敵を寄せ付けぬ堅牢な盾となるか。もっともらしいと言えば、敵の弱点が過ぎにわかる機能か、個人情報を知る事が出来るとなれば究極のチートアイテムだ。何せ弱みも握れて弱点を突いた攻撃を繰り出せば、難解な敵も倒せる可能性がある。だが、あの長官と呼ばれる青年は何の弊害も無くチート眼鏡を掛けている。見た目の印象からして突如挙動不審に陥ったり、感情が不安定になりそうには見えない……まさかこう視えれ心を病んでいるのだろうか? その可能性だって十分にある。真面目な性格なら思い悩み追い詰める事もあるからな。
「失礼、アンチ・イート殿。私の顔に何か付いてますか……?」
「ええ、眼鏡が」
「はい? ああ、そうですね。私は眼鏡を掛けていますが……珍しいですか?」
「ええ、非常に珍しいです」
「いやいや、軍人が眼鏡を掛ける事は、そんなに珍しい事でもありませんよ。確かに戦闘では不利になる事もありますが」
「いえ、そういう意味ではなく、貴方が掛けている眼鏡が珍しいと言っているのです」
「……私の掛けている、眼鏡が……? 珍しい?」
「ええ、出来れば見せてもらいたいのですが……?」
「なにっ!?」
眼鏡を見せてもらっていいかと言われた途端にこの驚愕振り……。もしや、既にそのアイテムの性能を知っているが故の驚きなのか、人の眼鏡を見せてれと言う事に対する戸惑いの反応か……。表情だけでは読めない。だが、ここはしつこく追及させてもらう。
「どうかしました? 眼鏡に何か不都合でも?」
「いえ……眼鏡好きなのですか?」
「見たいだけです。珍しい型なので」
「そうですか……」
怪しい。何故眼鏡を見せるだけでそこまで躊躇する。人に眼鏡を触らせたくないと言うのならば当然の反応だろうが、先程から長官のデータが部分的に表示されている。彼は視力は悪くない。故に、彼が眼鏡を見せるのを躊躇する理由は、あのチート眼鏡の性能に気付いている可能性があるからだ。チート能力を秘めている代物を、余所者に見せたくないからな。だが、どうしても拒否するのならば力尽くで奪い取り破壊するつもりだ。既にネア達には奇襲攻撃ができるように指示を出している。
「そこまで言うのなら、どうぞ」
「どうも」
おや。粘るかと思ったが、すんなりと外して差し出してくれた。手に取り、眺めてみる。視界にはレッドフィルターが掛かる。一見すると何処にも異常は見当たらない普通の眼鏡だ。デザインが少し古臭い丸い形をしているが、これはこれで味があるのだろうか。お洒落には見えるが……。
「掛けてもいいですよ? 後悔しても知りませんが……」
「後悔? それはどういう意味ですか長官殿?」
「そのままの意味ですよ。もしあなたのお連れの少女達を信用したいのなら、掛けない方が賢明とも言えるでしょうが……」
どういう意味だ? お連れとはネア達のことだ。信用したいのなら掛けない方が賢明だと? 長官の視線が憂いを帯びた冷たいものに変わっている。だが、何かしらのチート能力が発動すると言うのなら心配はいらない。こちらにはアンチート能力があるからな。では一度性能を見てみるとしよう。ネアの糸で編んでおいた白手袋をしていたので幸い眼鏡は破壊されなかった。完全に掛けると破壊されてしまうので、両端の蔓を持ってレンズを除く。丁度鏡が置いてあるので自分を見てみた。その瞬間、何かウインドウのような物が表示される……。
▼アンチートマン
経験人数?人
……?
「あの、アンチさん、何か見えます?」
……!?
「アンチ様? どうかしましたの?」
「あれ? イートさん固まっちゃったけど……?」
「っていうか驚いてるけどどうしたのよ?」
▼ネア・ラクア(アラクニア・フォー)
経験人数0人
▼コルラ・スネイブ
経験人数0人
▼モコ・リウ
経験人数0人
▼ピーコ・オスン
経験人数0人
「あの……アンチさん? アンチさんどうかしたんですか? 大丈夫ですか?」
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