第79話「怪獣大戦争」

 チェイサーとサイダーの低目なテンションは気にはなるが、私達はチートアイテムの反応がある場所へと向かう。しかし、どうにも反応が弱く、視界が点滅するので少し鬱陶しい。チートアイテムの反応とはこんな物なのだろうか、直接チート能力が使える転生者や転移者と違い、左程脅威でもないのか? 確かに、いくらアイテムが凄くとも、使い手が大した者では無ければ宝の持ち腐れにも成り得る。

 だが、それと同じくらいに気になるのは怪獣の存在だ。私も一度怪獣化した身故、親近感が沸くというわけではないが、モンスターではなく敢えて怪獣という表現。しかも海から出現するとは。まるで日本の概念ではないか。この街も大分東洋寄りの雰囲気とデザインだが、この世界を創造した存在の趣向だろう。私も元日本人故、多少居心地が良い。先程から通り過ぎる住人達も大正時代の服装と洋服が絶妙に混じり合った格好をしている。装飾はどこか近未来的だが流行りだろうか。


「……!? アンチさん、来ます!」


「なに!?」


 ネアの表情が険しくなり、海の方を見て警戒した。彼女のスパイダーセンスが反応したようだ。私のセンサーに反応が無いと言う事はチート関係ではない。


「こ、これは……凄く嫌な予感が致します!」


「か、感じるわ……とてつもなくデカいわよ!」


 コルラとピーコまで何かを感じ取ったようで、海の方を見て少し恐怖している。これは……。


「圧倒的存在が来るわね……まるであの時のイートさんと同じ……」


 モコがこちらに視線を送り苦笑いを浮かべる。あの時の私……つまり怪獣か!?


「アンチさん!! 怪獣が来ます! 遥か後方に気配があります。泳いでこちらに向かってます!」

「熱源反応の範囲がとても大きいですわ、体長は……80メートル級ですわ!!」


「80メートルだと!?」


 途方もない大きさではないか。それが海から来るとはこの街にも大被害が及ぶ。この世界の住人はいつもこのような状況に立たされているのか。いったいどのような方法で対処するというのか。ここは我々も対処した方が良いのだろうか? 今の私は改造手術によりある程度の干渉は可能となっている。

 すると、突如大きな警報が鳴り響いた。同時に緊急放送が流れ始める。怪獣の存在を確認した、各隊は直ちに持ち場に付き、対処せよとの内容だ。周りの住民達も険しい顔で走り始めた。何と迅速な反応だ。


「私達は一旦隠れた方が良さそうだな。この世界の人達の防衛手段を見てみたい」


 この世界の人々が、怪獣に対してどのような防衛手段を取るのか大変興味が沸いた。街の至る所にある軍備を見る限り、おそらくは軍事力で対処すると予想する。戦艦、戦闘機、戦車。対抗し得る手段と言えばこれらが思い浮かぶが……同時に呆気なく敗れるのではないかという妙な考えが浮かぶのは何故だろうか?


 そして、その瞬間は訪れた。突如地震と共に海が波打ち始め、やがて巨大な何かが巨大な水飛沫を上げて、出現したのだ。大量の水飛沫がバケツをひっくり返したかの如く辺りを水浸しにする。同時に巨大な咆哮が轟いた。聴覚に支障を来すのではないかと思うぐらいの威力だ。

 その姿は、全身真っ黒に染まった皮膚に白い甲殻を纏う爬虫類のような巨体。鋭利な牙と青く輝く狂暴な瞳。鋭利な爪を生やした双腕。背後で見える長く太い尾。全身から迸るその威圧感と圧倒的存在感。一見するとクリーチャー寄りに見えるかもしれないが、凝視してみると人体の骨格に即しているようにも見える絶妙な骨格姿。そう、これは間違い無く怪獣だ。始めてこの両眼で見た、本物の怪獣だ。私は怪獣が放つ畏怖に心なしか興奮と感動を覚えた。これが人類がどれだけ対抗しても抗えぬ自然の驚異と言えようか!


 ▼深海棲怪獣ドラゴギラス

 この世界に住む原始恐竜、海洋型爬虫類から陸上生物へと進化する途中の個体が、トランスメタルスパームを浴びて無機物と有機物が極限まで融合した怪獣に進化した存在。体内には凄まじいエネルギーを備えており、歩く大災害。この世界の怪獣の頂点に立つ存在であり、口から吐く破壊熱線は無敵を誇る。巨体を生かした肉弾戦と尾から繰り出す薙ぎ払いも強力。自分の住処を破壊され、こんな姿にした人類とエネルギーに対して怒りと憎しみしかないが、極一部の人間に対して同情を抱いているらしい。また、同族には優しい。


 これが……あの怪獣のデータか。詳細を見ると、何とも言えない思いがこみ上げてくる。あの咆哮は、怒りと憎しみが籠っているのか? もちろん表情は人間と違い理解できない。


「アンチさん、あれを見てください!」


「ん? あれは……!?」


 ネアが指差した方向を見ると、軍事基地らしき場所から次々と高速で何かが放たれていた。放射物を確かめる為に視界をズームにして拡大してみると、何とそれは人の形をした外骨格スーツだった。全員が勢い良く海に着地すると、腕や脚、背面に装着した火器武装で一斉に怪獣に向けて攻撃を開始した。弾道ミサイルにガトリング弾、時々レーザー光線が入り混じり、何やら自動で飛び回る攻撃機械まで飛び出して来た。怒涛の勢いで攻め続ける外骨格スーツ集団。その威力たるや非常に強力なようで、流石の怪獣も被弾しながら暴れ回っている。外骨格スーツの集団のデータを見てみた。かなり強力な武装を搭載しているようだが。


 ▼戦闘機人

 胎児の段階から機械との融合を果たして無機物と有機物が融合した肉体を持つ、限りなく人間に近い人型生物。鋼の骨格を持ち、機械的動作も可能で、集団でデータを共有できる。戦闘力と身体能力がかなり高く、怪獣と同じようにトランスメタルスパームを浴びた素材を使用しているため、この世界の怪獣に唯一対抗できる存在。専用外骨格スーツを着用して、武装を身体に直接装着できる。

 

 まるで戦うために生まれたような種族だ。しかも、境遇と体組織的に私と近い存在ではないか……。妙な親近感を抱かずにはいられない……。頭部を守る必要が無いのか、顔を露出している者ばかりだが、体系的に見てもどうやら少女ばかりいるようだが……先頭に立って指揮しているのは少年ばかり。成程、男性型が隊長を務めて、女性型が後ろから攻めているのか。


「う……ぐぅぅぅ……!!」


 突如、バイラが唸り声を出し始めた。それも、明らかに普段の彼からは考えられないようなドスの効いた声だ。


「ど、どうしたのバイラ!? 大丈夫? ポンポン痛いの? 怖いの?」


 モコが血相を変えてバイラを心配する。私達もバイラの容体を心配する。これは尋常な様子ではない。極度の興奮状態になり駆けており、息も荒く瞳孔が開ききっている。いったいどうしたというのだバイラ!?


「ばぁとぅらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 それまで蹲っていた彼の顔が急に持ち上がり、その両眼は血走り、非常に狂暴で攻撃的な形相へと変化、体全体を広げて耳を劈くような凄まじい咆哮を上げた。その声と様子は……まるで獰猛な獣だ……。


 次の瞬間、バイラは海に向かって羽を広げて飛翔。身体は赤と黄色の稲妻、眩い光に包まれ、光が晴れると彼の姿は変貌していた。体色は黒を基本とし、随所に赤や黄色がちりばめられ、羽には赤い稲妻模様が刻まれている。硬質な外骨格に包まれており、触覚ではなく角を持つ。肢がずっと長くより攻撃的な外見だ。 あまりにも凶悪な蝶々の姿。身体の大きさは、あのドラゴギラスに匹敵するとも劣らない大きさとなっている……。


「あ……ぁ……そんな……バイ、ラ……」


「モコ!?」


 モコは突然最愛の弟が凶悪な怪獣形態へと変身した事にショックを隠し切れずに動揺している。私は倒れそうになる彼女を支えつつも、驚きの声を漏らす。


「こ、これがデータに表記されていた、戦闘になると変貌するという意味なのか……!?」


 ▼バイラ・タフ/破壊闘争態/♂

 強い存在が出現する事で闘争本能を刺激され、本来の役目「守護」を忘れて変貌した姿。「破壊」と「闘争」を目的として世界に仇なす文明と存在を破壊して徹底的に攻撃を仕掛ける。鋭利な手足と硬い装甲、角から発射するプリズムレーザーが武器。


 改めてバイラのデータが視界に表示された。あの状態は破壊闘争態と言うのか。だが、本来の役目「守護」を忘れたとはどういう事だろうか……。


「ちょっと、バイラったらあの怪獣に攻撃を仕掛けてるわよ!? 何考えてんのよあの子!?」


 ピーコの言う通り、バイラはドラゴギラスに向かい、鋭利な手足による引っ掻き攻撃を行っていた。かなり効果があるようで、ドラゴギラスの頭部から火花が散っている。反撃されそうになると、距離を取り、額の角から極彩色に光り輝くプリズム光線を発射して命中させる。直撃を受けたドラゴギラスは咆哮を上げて口から破壊熱線を吐くが、バイラは連続でプリズム光線を放射して相殺。爆発が起こる。海上でドラゴギラスに攻撃を仕掛けていた戦闘機人部隊は、突然の乱入者に戸惑っているが、好機と見たのかドラゴギラスに対してさらなる攻撃を仕掛ける。


 だが、嫌な予感がした。先程のデータによれば、今のバイラは文明にすら攻撃を仕掛ける状態らしい……。ということは、如何にも文明の塊である戦闘機人達にも攻撃を仕掛ける可能性が大いにある。いかん、それは何としても阻止せねばならない。チートアイテムを破壊しに来ただけなのに現地住民達に理不尽な攻撃を仕掛けたとなってはお天道様に顔向けができない。

 モコには……いや、彼女には弟を力づくで止めるような真似はさせたくない。何よりあの巨体には勝てない。可能性があるとするならば、超進化を果たしたネア……。


「アンチさん、モコちゃん! 私がバイラちゃんを止めてきます!」


 こちらの考えを読んだかのようにネアが声高らかに宣言する。だとしたらあの攻撃方法しかないだろう。まだ試した事は無いからこの際見てみるとしよう。


「頼む……変形できるんだろう?」


「はい、無機物を取り込んで新たに得た変身ですから」


「いいの? ネア。バイラを止められる?」


「任せてモコちゃん!」


 ネアが構えると、彼女の身体が金色に輝き、4つの光に分かれる。光が晴れるとアラクニア・フォーが佇んでいた。彼女達は海上に向かい、声高らかに名乗りを上げる。


「ヘーイ、エアラクニュア、デース!」

「バリバリよろしく、ブラックネーアですブーン!」

「ケアラクニーア、頑張りマス!」

「タランチュニア、いざ、参りましょう!」


 4人は一斉に海ヘ駆け出した。


「「「「トランスメカニカルフォーメーション!!!!」」」」


 掛け声と共に、彼女達の身体から銀色のゲル状物質が放出された。生き物のように蠢いた物質は、彼女達に纏わり付き、そのまま形状を変化拡大させていく。 そして、かつて見たデータに表記されていた通り、それぞれ乗り物へと変身を遂げていた。ヘリコプター、バイク、ジェット機、タンカー。一回り大きくなったその外観はまるで蜘蛛が直接乗り物へと変貌したような姿で、今にも手足や口が動きだしそうな見た目だ。ヘリコプターとジェット機は上空へと飛翔し、バイクとタンカーは海上へと着水して高速で向かっていく。そして、ミサイルや砲弾を発射して攻撃を開始した。まるで怪獣大戦争だ。

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