第78話「チートアイテム」

 食事を済ませた後に温泉を満喫した。チェイサーとサイダーは人型に変形して我々と合流した。すっかり綺麗にしてもらい、キラキラと身体が輝いている。


「チェイサー、サイダー。どうだった?」


《実に気持ち良かった……あんな所やこんなところまで綺麗に洗ってもらったのだ……ああ、良き快感だった……》

《姉さん? 誤解を招くようなことは言わないでね? あと僕ら機械だから快感なんて自己再現してるだけだからね?》


 チェイサーが両手を頬に当てて赤く高揚しているように見えた。そんな姉に対して苦笑いでツッコミを入れるサイダー。個人的には機械も綺麗にしてもらえれば気持ちの良いものだと信じたい。それにしてもこの2人の表情はよく機械の動きだけで再現できるものだなと感心してしまう。どちらも端正な形だ。

 全員で部屋に集まり、部屋の広さや作り、窓から見える景色に興奮したりしていると、サイダーが妙な提案をして来た。


《あ、そうだ。皆、まくら投げでもやらないかい?》


 サイダーの発言で、皆で枕を持って投げ合いを始めた。記憶の片隅に微かに残る光景が甦るが、妙な懐かしさを覚える。途中でネアが再び分裂して大変な騒ぎになったが、最後は皆疲れてそのまま寝てしまった。


 こうして一晩の休息を経た翌朝、我々アンチート御一行は次なる異世界へと向かう事にした。


「アンチさん、次はどこへ向かうのですか?」


「そうよな……」


ネアに問われ、いざ何処へ向かうかと考える。そして、不意に思いついた。


「チェイサー、サイダー。チートが存在するのなら、やはりチートアイテムやチート武具等も存在するのだろうか?」


「あ、それはすごく気になりますね」


《それはもちろん、存在するぞ》

《特にチート能力者が作ったなら尚更だね》


「そうか……では、次に向かう異世界はチートアイテムがあるところに行ってみよう」


《よし、了解した》

《では、設定してさっそく出発だ》


エンジンを吹かして加速。周りに空間が歪み初め、目の前に裂け目ができる。裂け目に突入して向こう側に広がる異世界へと向かう。

視界に入る景色は、港町だ。如何にも海の街といった風にマリン調の建物が立ち並んでおり、中々おしゃれな外観だが、よくよく観察してみると東洋寄りのようだ。例えるなら適度に発達した日本の港町。軍事が発達しているのか、所々に軍備らしき物資が確認できた。これは……、よそ者に厳しい風潮がなければよいが大丈夫だろうか?


「凄いですね、海が近くにある街なんですね。あ、魚が泳いでます。上には鳥も」


「潮風が気持ちよく香るのはいいが……さっきから軍備らしき物資が確認できるが、兵隊とかに怪しまれないよな?」


《心配は無い。警察組織の代わりに軍が滞在しているだけのようだ》

《繋がりが深いんだよ。どうやら、この世界は海から来た怪獣の脅威に晒されていて、海の近くの街は軍が積極的に守っている状況だね》


「ほお……海から来た怪獣の脅威……ご」



尋ねる前に否定された。いや、例えで言ってみようと思っただけなのだが。


「そんな脅威があるなら、異世界チート転生者は脅威にならなそうですね?」


「ん? そうだ、チートアイテムがあるところに来たのだったな……。確かに怪獣の脅威に晒されている中でチート転生者等……」


《果たしてそうかな?》

《そのチートアイテムで対抗していたら? 秩序は乱れてるよね?》


「む、そうか……」


「確かに……」


この世界の脅威に対して、もしもチートアイテムで対抗している存在がいたら、それはこの世界の本来の力ではないのだから世界の秩序を乱していることになる。今回はそういう類で捜索せねばならないのだろうか。


「ん?」


早速反応があった。しかし、かなり距離が遠いらしく、視界に掛かるレッドフィルターは薄く点滅するだけだ。いや、少し違う。色が薄いとは初めての事態だ。今までは鮮明に赤かったからな。色素が薄いということは……チートとしては大したことがないという意味だろうか?


《これは……今回は外れかもしれんな》

《色素が薄いのはね? チートとしても微妙って意味なんだ》


「……そうなのか?」


チートに当たり外れがあるとはそういう問題があるのか、心なしか2人の口調も沈んでいるが、微妙と評価しただけにチートアイテムとしては取るに足りないということだろう。それでも使命を果たすことに変わりはない。全力を出すだけだ。


「ネア、皆、気合入れて頼むぞ」


「はい、がんばります!」


「フフフ、お任せくださいませ」


「りょーかいよ旦那」


「今回も飛ばしてくわね。ね? バイラ」


「活躍ぅぅ。するぅぅぅ!!」


全員から心強い返事が返ってきた。


《いや……皆待ってくれ……》

《あんまり大きく構えないほうがいいよ……?》


しかし、それに対してチェイサーとサイダーの対応は素っ気無く、表情で表したらまるで苦笑いしているような雰囲気だ。どうしたのだろうか?


「ちょっとチェイサイコンビ? 出鼻挫かないでよ、どしたの気分ダダ下がりじゃないのよ?」


「そうよ、せっかく活躍しようと意気込んでんだからさ~」


《いや、ピーコ、モコ。今回はマジで気合入れなくてもいいと思うぞ……?》

《嫌な予感がするんだよね……呆れてものも言えない脱力感の結末が待ってる気がする……》


この2人がここまでテンションが低いのは珍しい。何だ? チートアイテムとはそこまでろくなものが……と言うよりも、脅威になるほどでもない下らない代物ばかりなのだろうか?



 ……だが、この時私達とこの世界の住人達は知る由もなかった。

この異世界で見つけたチートアイテムが、私達を恐怖のどん底に叩き落とす事に……。

いや、まさか……あのような結末が待っていようとは、誰が予想できたであろうか……。

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