第59話「遂にお出まし、お社の化け物。討伐」

 道筋をずっと進んでいくと、野原に出ました。開けた場所の先には森林があり、微かに赤い社の様な物が見えた。あれがギョエイさんが言っていたお社様だと直ぐにわかりました。けど、ここもやたらと雰囲気が暗く、先程倒したゴースト達の気配が半端なく漂っています。ホルスターに収めたアンチさんはより激しく発光して震れている。


《主が激しく反応していると言う事は、化け物の正体は異世界チート転生者で間違いない》

《気を付けて皆、さっきよりもエネルギー反応が多い》


「じゃあ、先制攻撃です!」


 姿を現さないので、空中に向かい光弾を連続で発射します。そして何匹か命中したようで、呻き声を上げながら姿が顕わとなり、そのまま地面に落ちて痙攣。それを合図にゴースト達が姿を現し、一斉に私達に襲い掛かってきました。


 ピーコくんが毒針を連続で発射。刺さって動きが止まったところにサイコパワーと光弾を直撃させます。


 コルラちゃんに蛇睨みされたゴースト達は一斉に動けなくなり空中で制止する。そこにモコちゃんが口から超音波攻撃を繰り出して追い打ちを掛けた。音波に乱された彼らは身体の輪郭が崩れるようにぼやけはじめる。さらにコルラちゃんが彼等に向かい毒液を吐きかけた。


 私とピーコくんはすかさず光弾と毒針を撃ち込む。この四重奏攻撃により、ゴースト達は次々と撃退……いや成仏していく。私はさらにサイコパワーを光弾に込めて威力を上げる。行軍しながら進んでいくが、やっぱり進んでいく毎に数が多くなり妨害も激しくなる。


《やれやれ、私達も戦うか、サイダー》

《そうだね姉さん》


 そう言った瞬間、2人は金属音が擦れる音を立てながら形を変容させていき、バイクとサイドカーから人型の鉄カラクリへと変形した。未だにどういう原理で変形しているのかはさっぱりわからりません。


《私は近接戦闘を行う》


 チェイサーちゃんが腕に持った2個のタイヤを構える。打撃用?


《じゃあ、僕は援護射撃を担当させてもらうよ》


 サイダーくんが両腕を構えると側面から銃が飛び出た。


 変形前は違う乗り物さんだけど、人間態に変形した後の体格と整った顔付きは驚く程そっくりだった。色合いまで同じだから。余剰パーツを見なければどちらがどちらか見分けがつかなくなるかも。

 チェイサーちゃんのタイヤに電磁波が走り、回転しながらゴースト達を薙ぎ払っていく。サイダーくんは私とピーコくんに加わり……。


 細い熱線を的確にゴーストに攻撃を当ててはいる。でも確か、2人は幽霊は見えないって聞いてたんだけど、エネルギーを感知して当てているのかな?


 だけど、一向に敵の勢いが収まらない。こうなったらもう一回ジャッジメントで一網打尽にします!


「ジャッジメント行きます! 今度はモコちゃんです!」


「りょ~かい、トランスフォーメーション!」


 構えたモコちゃんの身体が光に包まれ縮小。アンチバレットコア化した彼女をキャッチしてアンチートガンナー上部に嵌め込みます。


《Tune(チューン)Anti(アンチ)But(バット)Moko(モコ)!》


 アンチートガンナーを持った右腕に、モコちゃんを模した武装が装備されます。鋭利な牙、爪の付いた翼の形をした刃。


「参ります!」


 跳躍してゴースト達に接近。彼等が動揺した隙を突いて勢い良く回転。鋭い刃で斬り裂かれた彼らは霧散。武装の後部にあるレバーを引くと、ウイングが展開して人間の武器、弓矢へと形が変わる。そのまま手を放すと、アンチートガンナーから矢状の光線が勢い良く発射され、ゴースト達を射抜いていく。


「やる~私ってばこういう使い方もあったのね」


「はい、では決めます!」


《Judgement(ジャッジメント)Anti(アンチ)But(バット)!》


 右腕の武装が背中へと移行し、巨大な両翼へと変形。翼をはためかせ上空へと飛翔。下へ向かい急降下して紫色のエネルギーと突風が融合。コウモリの姿へと変化したエネルギーを纏い、ソニックブームを巻き起こしながらゴースト達を貫斬り裂く。ゴースト達は断末魔を上げて爆発四散。辺りが閃光と衝撃波に包まれた。

 地面へと着して、私はガンナーからモコちゃんを外す。彼女は光りに包まれて元の人型に戻った。身体中を触りながら、一息付く。


「まあ、何も考えずに闘争本能に従って攻撃した様なものね。妙な感覚だけど、悪くないんじゃね?」


「フフフ、ちょっと快感でしたでしょう?」


「まあその……否定はしない。敵を吹き飛ばせて気持ち良かったと言えば嘘になるもの」


 今の攻撃でゴースト達は一掃できたみたいですね。新たに沸いて出てくる様子もありません。もう森林近くまで移動していたようです。看板も確認できました。赤く塗られた社(やしろ)が遠目ではっきりと確認できます。


「さて、それじゃあ化け物退治です!」


 私達は森林の中へと突入。数歩歩くと、直ぐに赤い社(やしろ)が出迎えてくれた。一見すると何の変哲もない小さな祠が社(やしろ)内部にある。でも嫌な雰囲気は敏感に伝わってくる。


「貴様らあぁぁぁぁぁ!!」


 突如、社(やしろ)の方から、何ともおぞましい呻き声の様な叫びが私達に呼び掛けてきた。そして、祠の中から黒い靄が飛び出し、巨大な波状の塊が出現した。遂に来ました、これが社(やしろ)の化け物ですね!


「我のゴースト軍団を倒しておいて、よくもノコノコとやってきよったなあ? 原住民風情が、貴様らを消し去ってくれよう、お社様の祟りじゃあああああああ!!」


 如何にも怨霊の類らしい口調と態度といったと言いたいところですが、古典的過ぎて逆に萎えます。完全に人間の価値観的幽霊だなんて……本物のゴースト族は安易にあんな喋り方はしないのですよ? 彼等にも幽霊としてのプライドがあるのです。人を襲うと聞いていた時から薄々偽物と思っていましたけど、予想的中です。そんな憂いを込めて言葉を投げます。


「笑わせないでください! あなたは幽霊でもお社様でもありません。幽霊のフリをした異世界チート転生者なのはわかってます!」


「なっ!? 何だと!? て、てめえ、何故その単語を知って……!?」


 ホルスター内のアンチさんに触れる。すると、エネルギー態であるチート転生者の背後に淡い炎の揺らぎの様な物が見えた。その炎の中には人の姿が浮かんでいる。これが、アンチさんがいつも使っている前世を見る能力。アンチートマンに変身した状態で彼に触れると、限定的に見れるようになるってチェイサーちゃん達に効いたから試したけど。これは中々凄いです。


 ▼笹川丈一

 21歳のフリーター。アルバイトを続けるも、何事も上手くいかない日々を送り、高二病をこじらせる。世の中を斜に見ながら、自分の方が正しいとネットで書き込みをしたり、女性や知人をバカにする。挙句の果てに異世界転生トラックに轢かれて死亡。

 ▼チート能力:吸収

 自らを大気状のエネルギーとして他者の肉体、もしくは物質に入り込み、内側から侵食して吸収。


 正直に言いますと、視界に表示されている事が、どういう意味なのか全く理解できない箇所が多すぎます……えっと、これを言えばよろしいのでしょうか……? 


「笹川丈一、21歳。何事も上手くいかない日々を送り、高二病をこじらせる……? 世の中を斜に見ながら、自分の方が正しいとネットに書き込みながら、女や知人をバカにする。挙句の果てに異世界転生トラックに轢かれて死亡……?」


「な、何だと!? お前何故俺の前世を知って……!? な、何だってんだ!? き、貴様、いったい何者だぁ!?」


 えっと、アンチさんはいつもこの件(くだり)で名乗り出していました、よし……! 行きます!


「私は異世界チート転生者を狩る番人にして執行者、死神、ネアンチートゥマン……ですぅ!」


 うう……、声高らかに初めて名乗りました。でも、凄く恥ずかしいです……。装甲に覆われてなかったら今すぐ糸に包まって隠れたい……。

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