第60話「怪獣のお目覚め」

「い、異世界チート転生者を狩る番人、執行者、死神のネアンチートゥマンだとぉぉ!?」


 あ、凄い。覚えてくれたみたいです。嬉しくありませんが……。


「ふざけるのも大概にしろ愚か者め!! どうやって俺、いや我がチート能力を持つ転生者とわかったかは知らんが、貴様らはどう見ても原住民だろう? 異世界原住民如きがこのチート転生者に勝てると思うなぁ!」


 うわぁ……完全に自分の方が上だって勘違いしてる台詞です……。異世界に住む原住民の事なんか、完全に下に見て蔑んでるじゃないですか、質が悪いです!


「バッカみたい」

「っていうかバカでしょ」


 ピーコくんとモコちゃんが容赦なく馬鹿呼ばわりします。


「バカだとぉ!? 貴様ら異世界原住民の分際で我を愚弄するか! いいだろう、後悔させてやろう。ここに来た原住民共も全て吸収して精神を眷属として使役してやった。貴様らも同じ運命を辿るがいい!」


「……ここに来た人達を吸収して使役したって……まさかあなた……!?」


「察しが付いたか小娘。俺、いや我のチート能力は自らを幽体として他者の肉体に入り込み、精神と肉体を内側から侵食して吸収してしまうものだ。そして壊れた精神は眷属のゴーストとして使役できるのさ! 貴様らが倒して来たゴースト達は、既に肉体が滅び精神が壊れた犠牲者達のものだったというわけだ! ハッハッハッハ!!」


 何て酷い事を! 私達が倒したゴーストは、既に精神が崩壊して肉体を失ったとはいえ、このチート転生者の犠牲者達だった。だから見境なく襲って来てたのですね。あの呻き声は、もう戻れずに成仏も出来ない苦しさの声だったんだ……。


「なんて惨い事をしたのですか貴方は。人間の言葉を借りれば、まさしく虫唾が走るほどの外道ですわね」


 コルラちゃんが荒めの口調で、チート転生者を蔑むような言葉を投げる。彼女の言う通りです。このチート転生者はお天道様にも顔向けできない、神様や幽霊に対する冒涜を平気でする腐れ外道です! 決して許していい存在ではありません!


 ゴーストと戦ったのがアンチさんじゃなく、私達で本当に良かった。あの人は優しいから、例え既に死んでいるとはいえ、犠牲者達を攻撃してしまったと知ったら、とても耐えられなったと思います。だから、アンチさんの代わりに私達が討伐します!


「やります! ピーコくん!」


「今度はアタシね? トランスフォーメーション!」


 光に包まれてアンチバレットコアしたピーコくんをキャッチして、アンチートガンナーに嵌め込みます。


《Tune(チューン)Anti(アンチ)Scorpion(スコーピオン)Pirco(ピーコ)!》


 ピーコくんを模した鋭利な鋏が、アンチートガンナーを持つ右腕と何位も持たない左腕に武装される。さらに、臀部には先端が毒針となっている蛇腹状の尾が出現する。


「攻撃の必要はありません。このままジャッジメントします!」


「あいよ!」


《Judgement(ジャッジメント)Anti(アンチ) Scorpion(スコーピオン)!》


 威嚇する様に鋏を動かした後、エネルギー態のチート転生者に向けて走り出した。私はアンチートガンナーのスイッチを押してブレードモードに切り替える。


《Blade(ブレード)!》


 ガンナー上部にナイフの大きさ程度の刃が展開される。ピーコくんのエネルギーを帯びた刃は灰色のエネルギーを纏い伸びた。両鋏と尾にもエネルギーが渦巻く。これは毒のエネルギーだ。先制攻撃で尾から大量の毒針が放出され、チート転生者へと突き刺っていく。


「うっぐぅ!? あっが、うごぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 形状が激しく揺らぎ始め、苦しみもがく叫び声を上げる。だがそれでは終わらない。サイコパワーと光弾を直撃させた後に、跳躍して接近。両鋏挟み込み、尾を突き刺したと同時に、エネルギーを纏った刃で切り裂いた。


「ぎぃぐぅわあああああああああああああ!!」


 チート転生者は、断末魔を上げながら爆発を起こして四散した。吹き飛んだエネルギーの粒が消滅していく。


 必殺技を終えたピーコくんの身体が光に包まれ、元の人型へと戻った。


「ふう……やったわね、ネアネエさん」


「うん、ありがとうピーコくん。さて、魂を回収して……あれ?」


「んあ? どしたのよ?」


 辺りを見渡したが魂が見当たらないのです。炎や煙に紛れて見えないんじゃない。何処にも無い。


「倒したと思ったかあ!?」


 突如聞こえた声に、皆一斉に警戒態勢に入る。この声は、あのチート転生者の声です! 辺りを見渡すと、煙と炎が集束して人型へと変容していき、光が晴れるとそこにいたのは人間の男だった。

 一度消えたレッドフィルターが再び掛かり、この男が先程のチート転生者と同じだと確信した。そんな、どうして!?


「嘘でしょ!? さっきネアとピーコが確実に倒した筈じゃないの!?」


「何か仕掛けがおありですわね?」


「その通りだ、色っぽい姉ちゃん。お高そうな姉ちゃんの言う通り、確かに俺は一度敗れた。おかげで吸収した力をほとんど失っちまったが、一番最初に吸収したお社様の力は俺と融合しているわけよ」


《一番最初に融合だと……そうかこやつ!》

《一番最初にお社様を吸収したわけだ。復活したのはそのせいなんだ!》


「そう言う事だ、機械チックな姉ちゃんと兄ちゃん。だから何度俺を倒しても、お社様の弱点を付かない限り無限い復活できるってわけだ。残念だったな? 嬢ちゃんとおかまの餓鬼んちょ。ハッハッハッハ!!」


 ああ、なんてことでしょう。すっかり失念してました。ギョエイさんの言っていた弱点を突いてないのに倒せたから、ちょっとだけおかしいとは思っていましたが、そういう事だったのですね。


「貴女の弱点は知っています! 早口言葉です!」


「……なっ!? 何故それを!?」


「では、さようならです。いざ!」


「よ、よせぇ!! やめろ、封印の巻き添えを喰らうだろうが、やめろおおぉぉぉ!!!!!」


 なるほど、お社様の封印に巻き込まれてしまうのですね。弱点も吸収してしまったとは皮肉な事です。私は早口で言える単語を思い浮かべ、口を開いた。


「この竹垣に竹立てかけたのは竹だだたけたけた……」


 言えずに噛んでしまいました。やってしまいました! そういえば、私は早口言葉を言った事がありませんでした。何てこと……。


「ふ……フハハハハ!! 驚かせやがって! これでおしま」


「ご安心なさい、ネアちゃん。僕が早口言葉を唱えますわ! 家のつるべは潰れつつっくるうべるべ……」


 コルラちゃんは口元を抑えて……青ざめて倒れた。ま……まさか自分の牙で毒が!?


「ハッハッハ!! 今度こそおしま」


「こうなったら同時に言ってやるわよモコ!」


「ええ、まかせなさいピーコ!」


「「魔術師魔じゅじゅじじぃぎょべって……!」」


 2人はがっくりと項垂れてしまいました……そ、そんな。万事休すじゃないですか、このままでは……は、そうでした!


「チェイサーちゃん、サイダーくん。何でもできる貴方達ならできますよね? スーパーメカパワーで楽勝ですよね?」


 そうです! この2人なら早口言葉は楽勝です。困った時には彼等がいつも力を貸してくれました。


《いや》

《それは無理》


「何故ですか……? 音声だけなら? そもそも噛む口が無いじゃないですか!!」


《だからだ。我々には噛む口が無く音声だけでは言った事にならんという理屈が通る……!》

《それに僕らじゃ早口言葉の呪文が作用しないんだ。相手は神秘の類。機械じゃ駄目なんだ……!》


「そ……そんな……!?」


 2人にそんな弱点があったなんて……!?


「ハッハッハ~!! バカめバカめ! 所詮早口言葉など貴様ら東洋系異世界人には馴染みの無い言葉だ! それじゃあ、諦めて俺に吸収されるがいい……!」


「うう……駄目なのですか? 攻撃しても復活してしまうんじゃ、これ以上の攻撃は無意味……そして私達は早口言葉が言えない……こんなところで私達はこんなところでアンチくんの使命を全うできずに終わってしまうのですか……!?」


 眼から涙が零れて止まらなくなる。こんな情けない事でつまづくなんて……私ではやはりアンチさんの代わりは勤められないというのですか……。悔しさと悲しみのあまり、何度も地面に拳を叩きつける。


「ヴァガア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ァァァァ!!!!!」


 突然、腰のホルスターが激しく揺れたかと思うと、耳を劈く程の獣の雄叫びが聞こえてきた。あ、あれ? この声……?


「イ˝イ˝ッモ˝オ˝ゲエェギナガアブヅグウゥデエエエエ!!!!!」


 そう思った瞬間、咆哮と共に、ホルスターから凄まじい勢いでアンチバレットコアが飛び出し、空中で光ったかと思うと凄まじい勢いで巨大化していく。巨大化は止まらずに増々進行し、遂に空に届くのではないかと錯覚するほどの超巨大な怪獣、アンデストロイヤーと化したアンチさんが、地面に着地。地響きが起こり、地割れが発生、木々が倒れ始めて私達はお互い支え合って身を守ります!

 黒い双眸が光ってて、まるで骸骨と獣を合体させたようなな頭には双角。牙が並んだ口を広げ、中から白い吐息が漏れてる。爪を生やした巨腕と巨脚は力強く太い。あまりにも圧倒的すぎるその存在感に私達は身体を震わせて悲鳴を上げた。


「い、いや……た、たすけて……殺される……ころさ……」


 そんな……まさかホルスターのロックを解除して自力で出てくるなんて……絶対に開放するなと言われていたのに……もう駄目だ。命の恩人によって命を奪われるなんて、こんな運命、あんまりじゃないですか!? 身体が硬直して動けない、恐怖で震えが止まらず涙が止まらない……。もう私たち全員死ぬんだ……。


「ナ˝ア˝ア˝ビイ˝イ˝ッデェダオ˝マ˝エ˝エ˝ヴァ˝ァァァァ!!!!?」


 彼はこちらに振り向き、眼を見開いて雄たけびを上げた。恐怖が最高潮に達して漏らしてしまい、泣き叫んだ。

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