第57話「早口言葉とは、本当はゆっくり馴れていくもの」

「ギョエおじさん……早口言葉って……それが弱点なんですか?」


「そうぎょえ。奴は早口言葉が苦手ぜよ。対峙した時は奴を捲し立てるような勢いで早口言葉を唱えるぎょえ。さすれば、奴は苦しみだすんじゃ。ワシらもこれで逃げ延びる事が出来たぎょえ」


「本当なんですか~!?」


「本当ぜよ、信じるぎょえ!」


 早口言葉が苦手って……どんな化けものなんでしょう……? ご神体に封印されていたレベルの物なら相当な力を持った者だと睨んでいたのですが、よりにもよって早口言葉?

 もしかして呪文めいてるからとかそういう関係でしょうか? それにしてもバカッぽ過ぎますその弱点は!


「まあいいじゃん? 弱点も教えてもらったんだからさ。早いところ調査に行きましょうネア」

「ああ、そうですね。チェイサーちゃん達も呼んで来ないと」


 私達は腑に落ちないながらも社(やしろ)へと向かう。おっさんは後ろで気を付けるんじゃぎょえ~と見送ってくれました。

 アンチートガンナーで呼び出し音を鳴らすと、エンジン音を吹かしながらマシンクロッサー状態のチェイサーちゃんとサイダーくんが早々に来てくれた。説明はテレパシー、じゃなくて通信で聞いていたから1から言わなくても大丈夫。


《早口言葉が苦手とは、世の中には滑稽な者がいるのだな》

《多分、早口言葉が封印呪文か何かの効果を出すのかもね》


 さすがの2人も化け物の弱点には面食らっているようです。


《だが、その化け物が異世界チート転生者である確率は高いようだな……》

《確かにそうだね。ネア、主の反応を見てみなよ?》


 サイダーくんに促されてホルスターを見ると、さっきと違い赤く発光し始めて小刻みに震えだしている。これは確かに正解かもしれない。


「あ、そうですわ。ピーコくんを起こさないといけませんわね。お腰を失礼ネアちゃん?」


 ああそうだった。忘れてました。コルラちゃんはホルスターからピーコくんを取り出して掌に乗せると、優しく呼びかける。


「ピーコくん、そろそろ起きてくださいまし? 戦闘になりますわよ?」

「はっ!? こ、ここは誰よ!? 私は何処なのよ!?」


 起きたけどかなり錯乱してる。


「ああっ!? コルネエさんおはようっす、さっきはすんませんしたぁ!!」


 しかもちょっと怖がってますね。


「そのまま人間態に変身出来る? モコちゃんの話だとそのままでも出来るみたいですの」

「え? このまま、このままっすか? あ、はいやってみるわ……トランスフォーメーション!」


 アンチバレットコア状態のピーコくんが発光して、徐々に大きくなり、僅か数秒で人間態へと変態を遂げた。ああ、やっぱり出来たんだ……今度私もやろう。毎回くすぐったいのは一瞬だ、ってやられたら堪ったもんじゃないです。


「あらやだ、できたわ!?」


「フフフ、やっぱり~。じゃあ今度から私達もやりましょうかネアちゃん? 毎回アンチ様にくすぐったいのは一瞬だ、をされたら堪ったものではありませんもの」


「同じこと思ってたんですね……」


「私もあの奇妙な技を毎回されるのは嫌。確かに一瞬だけくすぐったいけどさ、時々痛痒いような妙な感覚もあるじゃん。一体どういう仕様なのよあれ?」


「あ、モコちゃんもそう思ってたんですね? やっぱり変な感覚ですよね?」


「そうそう」


「アンチ様も毎回声を掛けてくれるのはよろしいのですが、何気に拒否できませんもの。不意打ちですのよ?」


 いつの間にか話がアンチさんが毎回やる「くすぐったいのは一瞬だ」についての愚痴にシフトしている。まだまだ話はあるけど軌道修正しなきゃ。とりあえずピーコくんに忠告をしておかないといけません。


「ところでピーコくん? もう一々モコちゃんと喧嘩するのはダメだよ?」


 すると、彼は不服そうな顔をした。不機嫌というわけではないみたい。


「なによ? そんなのアタシの勝手じゃないのよ。この女の言動が一々癪に障るだけよ」


「あらそう? 私からしたらさ、坊ちゃんの言動も一々癪に障るんだけど?」


 相変わらずつっけんどんなモコちゃんを制止して、ピーコくんに注意を促す。


「勝手とか言っちゃダメでしょ! 仲良くしなさい!」


「何よネアネエさん、そのいきなりの上から目線は!?」


「今は私がリーダーなの! いい、これは命令です! じゃないとネア先生はもう怒りますよ!」


「ああ、もうわかったわよ先生! 別にアタシだってこの女の事が嫌いなわけじゃないわよ!」


「あ˝ぁん、そうなの? てっきり嫌っているのだと思ってたんだけど?」


「嫌ってないわよ、それにさ……もうアンタは仲間よ、そしてアタシはオカマ」


「ぶっ!?」


 思わぬところで面白い事を言われて全員吹き出してしまった。


「で、ネア先生? アタシずっと寝てたからこれからどうするのか知らないんだけど?」


 ピーコくんに催促されて、これからの目的を説明する。お社様の事、化け物の事、弱点について事細やかに話した。


「早口言葉ねぇ……アタシは言ったことないけど、旦那はこういう時どうするのかしら?」


 ピーコくんの意見に、皆でホルスター内のアンチさんに視線を移す。アンチくんは早口で物を言えるのだろうか? 疑問を投げかけても答えは返って来ないけれど、彼はさらに赤く発光して小刻みに震れ続けている。これは完全に異世界チート転生者が近くにいる証拠ですね。


《豆知識だが、早口言葉というものは最初から早口で言うのではなく、最初はゆっくりと言い始めてそれから徐々に早口で言葉を言って反復練習する文化なんだ》

《それがいつの間にか、宴会芸や罰ゲーム、度胸試しのような文化に成り下がっちゃったんだよね。元は清古き良き文化だったんだ》


「「「「へぇ~」」」」


 チェイサーちゃんとサイダーくんの豆知識を聞き、そういう風習だったのかと皆で驚きました。


「ん……? 皆待って、何かに見られてる!」


 私のスパイダーセンスが敏感に反応した。けど、周りも見渡しても誰もおらず、妙な気配と攻撃する意思、視線しか感じない。これはもしかして……。


《エネルギー反応複数あり》

《ゴーストだね》


 やっぱりゴーストさんか、私は腰のホルスターからアンチートガンナーを取り出す。お仕事開始です!

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