第52話「まさかの襲来」

 マシンクロッサーを全速力で飛ばし、怪獣化したアンチさんとの距離を縮めていく。彼はけたたましい咆哮を上げつつ、熱線を吐いて森林を蹂躙している。炎はとっくに消えているけど、彼が吐いた紫色の熱線のせいで辺りは紫色の煙が漂っている。

 歩くだけで、身体を激しく動かすだけで地響きが鳴り、災害レベル。もしアンチさんが大勢の人々がいる場所に向かえば、甚大なる被害が出る。人間は嫌いだけど、理不尽に命が失われるのは私も嫌だ。アンチさんを人殺しにさせない為にも、私が彼を止めるしかありません。


《まだ射程距離ではない。もっと近づかねばアンチバレットコア化できない》

《でも気を付けてね。近づきすぎたらそれこそ僕らがお陀仏だ》


「わかってます!!」


 正直緊張する。心臓の鼓動が激しくなる。息も整わない。まさか私の方がアンチさんを助ける側に回るなんて夢にも思わなかったから。でも、これも恩返しです。これだけでは返しきれないけどこれが一番初めの恩返しです。

 徐々に彼との距離が縮まっていく。まだこちらには気づいていない。もし気づかれたら、横に反れるか、隠れるかしないとあの熱線を吐かれてお陀仏。


《ん? 何だと、飛行物体が接近中!?》

《何てことだ。姉さんこれはダークエルフの飛空艇だよ!》


「嘘でしょ!? こんなタイミングで来るなんて……バッドタイミングじゃないですか!?」


 アンチさんの後方に、微かに光る物体が見えた。それは、飛空艇という空を飛ぶ乗り物。ダークエルフ達の乗り物。アンチさんがダークエルフ達に裏切られて怪獣化しているこのタイミングで来るなんて……ご愁傷様としか言えない。おそらく、アンチさんは彼等に向けて熱線を吐くだろう……。


「あいつ等、何の為にここまで来たの?」


《仲間の帰りが遅いから様子を見に来たか、最初から大勢で攻め込むつもりだったのだろう》

《完全武装しているね。攻撃する気満々だよ》


「そう……」


 ホルスターからアンチバレットコアを取り出し、アンチートガンナー上部に嵌め込んだ。そして、私のサイコパワーをガンナーに込める。赤と青のオーラが揺らめき始めた。


《Judgement(ジャッジメント)、Antirt(アンチート)BREAKAR(ブレイカー)!》


「いけっ!」


 銃口から私のサイコパワーが宿った濃ゆい紫色のエネルギー波が勢いよく放出された。反動で身体が後ろに下がりそうになる。走行中にこれをやるのは不味かった。

 光線は距離を伸ばして飛空艇の1機に直撃する。紫色の爆発が起きて火花が散る。だけど、運悪く飛空艇がアンチさんに激突してしまった。だが幸いな事に、多少身体を反らしたけど無傷。

 そして、私達に気付いてゆっくりと身体をこちらに振り返らせ、あの恐ろしい瞳と目が合った気がした。瞬間、彼は凄まじい形相で咆哮を上げる。咆哮だけで暴風と衝撃が襲い掛かる。全身が悪寒に襲われて心臓が縮み上がるかと思った……。


 しかし、長く太い尻尾を思い切り振り上げた瞬間、残りの飛空艇に気付いていたのか否か、全て叩き落としてしまった。爆発炎上して煙を上げて落下していく飛空艇に向けて、アンチさんは熱線を吐いて追い打ちを掛けた……結果オーライ?


《……さすが主……》

《……暴走態は伊達じゃないね……》


 アンチートガンナーの銃口を速攻で彼に向けて引き金を引いた。


《Trance(トランス)Formation(フォーメーション)!》


 アンチートガンナーから音声が鳴り、小さな光がアンさくんを捕えた。その瞬間、彼はその巨躯を硬直させた後、光の粒子に包まれて縮小していく。どんどん小さくなっていき、私の掌に収まった時には他のアンチバレットコアと同じ大きさに変化していた。

 でも、小さいサイズだけど激しく暴れだしました。片手で握りしめて必死に抑え込もうとしたけど、なんてすごい力。ガンナーをホルスターに戻した後に、両手で暴れる彼を必死で握りしめて抑え込み、ホルスターにまで持っていき嵌め込んだ。


《Anti(アンチ)Barrett(バレット)Core(コア) lockon(ロックオン)》


 そんな音声がホルスターから流れ、アンチさんを嵌めた個所が赤く発光する。小刻みに動いていた彼は、やがて動かなくなる。


「はぁ……成功です……」


 ドッと身体の力が抜けた。上半身をマシンクロッサーのフロントに寝そべらせる。なんだかとても疲れた……。


《よくやったネアンチートゥマン。ファーストミッションコンプリートだ》

《コングラッチレイション! さすがファーストヒロインだね》


「何を言ってんのかよくわかりませんが、どうもありがとうございます……」


 ぐったりと項垂れた。なんかもう動きたくないです。


《さて。ではこの世界ともさよならだ。住民達も別の場所へ避難させておいたんだろう?》

《バッチリ。自力で元に戻れるように教えたし、無人の森に避難させておいたから住処も大丈夫。抜かりはないよ姉さん》


 どうやって住む所を確保して、アンチバレットコア化から元に戻したのかはめんどくさいから聞きません。


《ネア、ちゃんと掴まれ、空間の裂け目に向かうからな》


「はい……」

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