第49話「燃え上がる惨状」

「……嘘、何で、何で森林が燃えてるの……!?」


 ネアの口から途切れ途切れに言葉が出る。目の前の光景を受け入れきれずに動揺している事が伝わる。


「冗談じゃないわよ! せっかく平和になったのに火事だなんてあんまりじゃないのよ!!」


 少年が大きく叫ぶ。その声が痛い程耳と心に突き刺さる。


「モコさんとバイラくんは、大丈夫ですの!? 森の住民達も避難させませんと、アンチ様!!」


「……ああ、わかっている!!」


 コルラに急かされ、マシンクロッサーのハンドルを全力で回し、最大加速で燃え盛る森林へと突入する。視界に広がる煙と火の粉、身体に熱気が覆い被さる。火の勢いが激しい。早く火を消さなければ増々被害が広がる。鼻孔を伝い煙の臭いが刺激する。煙たく呼吸が苦しいが、空気循環モードを変更させる。


「だ、駄目だよ、こんなに燃え広がってっちゃ……止められないよ……」


「チェイサー、サイダー!! 何か消化機能は無いのか!?」


《主、火の勢いは増すばかりだ。私達には消化装備は無い。とてもじゃないが火の消化は出来ない!》

《残された住民の避難が先決だよ! まだ間に合うから急いで主!》


「……くそっ!」


 ここにいるメンバー誰1人、消化能力を持つ者はいなかった。水系統や氷系統の特殊能力など持ち合わせていない。自分の無力さに腹が立ちながら、取り残されている原住民の救出を優先する。どうやらこの行為はカウンタープログラムは働かないらしい。


 サーチ機能をフル回転で作動させる。アンチェイサーとチェイサイダーのナビの元、生物の熱源反応を識別して救出に向かう。遠くの悲鳴を聞き取る事が可能故、直ぐに見つける事が出来るのが幸いだ。後部座席に座らせたネアが蜘蛛の糸で住民達を吊り上げてその場から救い出す。

 そして、救出した後の運搬方法は……同じ過ちを繰り返しているようなものだが……。


「許せ住民達よ!」


《Trance(トランス)Formation(フォーメーション)!》


 ネアが引き寄せた住民をを片っ端からアンチバレットコア化。チェイサイダーのシート内へと放り投げる。彼の座席空間は広い。大量に積み込める。


「すまんネア、またアンチバレットコア化を……」

「そんな事はどうでもいいです! 救出できるなら!」


 彼女の力強い反応が心強い。


 あれから数十分駆け回り、奇跡的にも住民全員をアンチバレットコア化してシート内に放り込む事が出来た。


《主、僕は一旦この人達を別空間へ避難させるよ》


「頼む、サイダー」



 チェイサイダーをアンチェイサーから分離。


「僕たちもサイダーくんと同行致しますわ」

「体調とか診てあげないといけないわ、戻して!」


「ああ、くすぐったいのは一瞬だ」


「Trance(トランス)Formation(フォーメーション)!」


 コルラと少年を乗せ、チェイサイダーは空間の裂け目を出現させ、裂け目へと突入して謎の森へと消えた。


 ……まだ、肝心な者達の救出がまだ終わっていない……!


 モコとバイラの居場所がまだわからない……!


 燃え盛る炎と倒れた木々、立ち込める黒煙のせいで正確な居場所が算出し辛くなっている。土地の形状が変化して故、余計にわかりにくくなっている。


「何処にいるのモコちゃん、バイラちゃん……!」


 ネアから不安の声が上がる。表情は今にも泣き出しそうだ。アンチェイサーを走らせつつ、私は耳を澄ませる。


「落ち着け……彼女達の声を聴き取るんだ……彼女ならこんな事で死ぬ事は無い筈……」


 それは神頼み、祈るしかなかった。だがモコは飛行能力がある。この惨状から安易に逃れる事は出来る筈。


「……いた! モコとバイラ……っ!?」


 微かに彼女達の熱源反応と声を捉えた……だが、泣き声だ。モコが泣く声と、命の脈動が低下しているバイラの反応を感じる……いや、最悪のケースは考えるな! 直ぐに彼女達の所へ向かう。

 アンチェイサーを全速力で走らせ、燃え盛る炎の中を突っ切る。しかし、気になるのは彼女達の周りで別の熱源反応を微かに感じる事。妙な力で遮られているのか、はっきりと識別できない。


 そして、ようやくモコとバイラを遠目に発見。視界に捉え、全速力で向かう。


「……っ!?」

「……ぁぁっ!!」


 ネアと同時に思わず声を上げてしまった。


 モコが、バイラを抱きしめてむせび泣いている。バイラは……火傷を負っていた。見るからに瀕死の状態。呼吸も小さく、もうすぐで命の灯が消えてしまう程弱っている事が理解できた。しかし、身体には火傷だけでなく、明らかに故意に傷つけられた怪我がある。


 だが、彼女達の眼前に迫る存在に我が目を疑う。何故お前達がここにいるんだ……!?


「ダークエルフが……何でここに……?」


 5人のダークエルフがモコ達の前に立っている。奴らは防御結界でも貼っているのか、モコ達をを含めた彼らの周りだけ、炎が無い。その場で消滅するかのような現象が起っている。これは……どういうことだ……? 何故彼等がこの森にいる、モコとバイラを目の前にして何をしている。


「バイラ……ぅぐ……バイラぁぁ、死んじゃ嫌ぁぁ……死なないでよぉぉ、ひっぐ……返事してよぉぉ……!」


「ぉ……ぉ姉ちゃん……ぴ……ぴぃぃ……」


 咽び泣き、抱きしめた弟の名を必死で叫ぶモコ。対するバイラの返事は、今にも消え入りそうなほどか細い……。


「へへへ……おかげさまでやりたい放題できるってわけだ」


 ダークエルフの1人が喋りはじめる……言葉の意味が理解できない。


「ど、どういう事よ!? 何でこんなことするのよ!? アンタ達はもう攻撃してこないんじゃなかったの!? アンチさんと約束したんでしょ!?」


「ああ、あれね? まあ、今まで異世界チート転生者に邪魔されて好き勝手出来なかったが、あのアンチートマンって奴が親玉を殺してくれたおかげでこうやって好き勝手出来るわけだ!」


「……!? アンタ達……あの人を利用したの……!?」


「そう言う事だお嬢ちゃん。殺してくれるなら利用してやろうと俺達は考えたのさ。テメエら獣人やエルフ達に受けた屈辱を晴らすために利用したんだよ!」


 ……なんだ、と……。


 残虐な笑みを浮かべたダークエルフ達の声が、耳に残り、精神と心に激しく突き刺さり、揺さぶられる……。


 では、最初から……そんな……この燃え上がる惨状は私のせいで引き起こされたのか……。


 体中から力が抜ける、途方もない絶望感と悲しみが身体中、思考を駆け巡る。


「モス族の餓鬼は、人間共にとってかなりの高級品らしい。標本にしてやろうか」


「……アンタ達は……悪魔よ……ダークエルフの皮を被った殺戮者よ!!!!!」


「あん? ダークエルフだから、コウモリと芋虫を、人間を殺しても人殺しじゃないんだよ!」


 ダークエルフの1人が、バイラを抱いたモコを思い切り蹴飛ばし、彼女は短い悲鳴を上げた後に吐血した。



 ――思考が砕け散った――



《Destroyer(デストロイヤー)Kill(キル)Mode(モード) Actuation(アクトレイション)》



「ッがあァガアアアアアアガガガがア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝嗚呼ァ˝ァ˝ァ˝ァ˝ァ˝ァ˝ぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼ああアアアアアア嗚呼アアアアあ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ぁ˝ガガアァァァァ!!!!!」

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