第3話「チート能力とアンチート能力」

「お前は異世界転生者だな」


「なにっ!?」


 こちらの問いに、男は心底驚いた表情を浮かべた。


「異世界転生を成し得た者は、神に選ばれて転生させてもらえた者は自分だけだと思っていた、そんな顔だな。お前以外に異世界転生者は無数に存在しているというのに」


「なんだと!? お、お前も異世界転生者なんだな? そうだろ!?」


 男は酷く狼狽している。何とか体裁を取り繕っているが、男の魂に浮かび上っている前世の姿が内面を映し出している。


「その通りだ」


「ちくしょ~なんだよ~せっかく異世界転生でチート能力持たされてハーレム状態なのに……俺一人のアドバンテージが減っちまうじゃねえか!」


「チート能力でハーレム。まったくよくわからない考えだな。少なくともお前の欲望とエゴの産物であることは理解できたよ」


 さらにこの男の魂を凝視していると、突然脳裏に電子音声が響き渡り、映像が浮かび上る。


『前世の映像をお見せします』


「これは、この男の前世の出来事か……?」


 詳細なプロフィールまで流れ込んできた。こんな能力まであるとは驚いた。なるほど、これでこの男が執行に値するかどうか見極めろと言うことか。


「てめぇ、さっきから何を一人でぶつぶつ」


「間村宏一、31歳」


 男の表情はさらに驚愕した顔へと変わる。それはそうだ。前世の名前と享年を言われたのだからな。


「つまらんいざこざで挫折してニート生活を送り続け、改善のチャンスが何度もあったのにもかかわらず怠慢な生活を続ける。そして父親が死んだ時ですらネットサーフィンをしていた事で家族親戚共々から縁を切られるように追い出される。そしてそのままトラックに轢かれて死亡か……」


 男の過去をかいつまんで暴露してみせた。かなり動揺しきっている。


 過去を見ただけでも同情の余地は十分にある。高校生活のいじめがきっかけで学校に行けなくなり、様々な人々から手を差し伸べられた。しかし、どれも長続きせずにネットに依存してしまった。


「どうして何処かでこのままでは駄目だと決起しなかった。そうすれば輝かしい未来をその手で掴むことだってできただろう。冴えない容姿だって磨けば変われる。何かを目標に突き進む男こそ女性は惹かれるものだ。人生努力して磨いてこそ価値がある」


「う、うるさい! 現実の世界なんてクソだ! だから神様は俺にチャンスをくれたんだ。現実では敵わなかった、最初からチート能力に優れた容姿、前世の記憶を活用して何が悪いんだ? この力で俺はハーレム生活を手に入れたんだ!!」


「そのチート能力、イカサマ野郎が萬栄しているせいで異世界の秩序が乱れていてもか」


「関係ねえよ! 俺の他にもチート能力者がいるのなら、俺の異世界人生の邪魔はさせねえ! 全員殺す!」


「なんて無茶苦茶な……」


「あ、あの………」


 不意に背後から服の裾を引っ張られた。蜘蛛の少女の方を振り返る。こちらを不安げな表情で見つめている。少しでも安心させるために小さくウインク。彼女の表情が少しだけ不思議そうな顔に変わる。これだけでも緩和になっただろう。


「じゃあなんでこの少女に固執するんだ。彼女にこだわる理由を聞かせてくれ」


「そのアラク二ア族を殺せばそいつのスキルが手に入るからだよ。俺のチート能力はスキル吸収だからな。殺さないと奪えないんだよ。だからどけよ、お前も異世界転生者なら、お前の能力奪ってやるよ」


「お前には聞こえないのか、この子の声が」


「は? モンスターが鳴き声上げてるだけだろうが」


「いいや違う。この蜘蛛の少女は列記としたこの異世界の亜人種族アラクニア族の少女だ。モンスターには分類されていない」


 男は得物を構えている。どうやらチート能力を発動させるらしい。心は決まった。


「チート能力で攻撃する意思があるのなら、お前は執行対象者だ」


 ホルスターから取り出した武器を握る。これは、確か転生する直前にインテリジェントデザイナーが渡した物、アンチートガンナー。


『アンチートガンナー使用説明を表示します』


 ナビゲートと共に明確な使い方が瞬時に脳内に流れ込んだ。


 ▼アンチートガンナー

 反チート物質、アンチート抗体で構成されており、銃口からチートを破壊する光弾を発射可能。そして、銃口を掌に当てる事で、アンチート抗体で構成された装甲を身に纏う戦士、アンチートマンに変身できる機能搭載。異世界チート転生者・転移者に対して恐怖を抱かせる効果がある。

 ちなみに、自分のこめかみに当てて打ち込むと、改造人間本来の姿が現れる。

 ▼モード切替

 ボタンでガンモード、ブレードモードに切り替え可能。さらに現地住民の為に記憶操作消去モードも内蔵。トランスフォーメーションモードは現地住民をアンチバレットコア化してガンナーに嵌め込み、彼らの力を模した武装が装備され、現地でのチート以外の攻撃、防御、能力にも対応。

 ▼ジャッジメント

 ホルスターに収めているアンチバレットコアをガンナー上部に嵌め込むことにより、膨大なアンチート抗体を圧縮して放射するジャッジメント攻撃を行う。アンチバレット化かした住民達を嵌めこめば、異世界とアンチートの力を融合させた必殺技が発動できる。


 なるほど、便利機能満載な武器だ。これで使い方が理解できた。詳細な項目はまだあるようだが後で確認する。

 右手でグリップを握り、左手に銃口部分を押し当てた。すると、何やら一つ壁を設けた向こう側でロックのような音楽が流れているような音楽が鳴り響く。


AntiアンチUpアップ!』


 ノイズ交じりの低い電子音声が武器から流れる、同時に銃口から赤紫色のエネルギーが大量放出されて身体を包み込んだ。エネルギーは全身に堅い装甲を生成。自分の肉体が別の何かへと変貌する妙な感覚を覚えた。


『Hey・安置・因んだ治安維持・Yeah! 秩序・調和・アンチート!!』


光が晴れると、黒と紫の装甲に包まれた姿へと変身していた。奇妙な事だが、この感覚は身体と装甲が一体化しているらしい。


「な、何なんだよその姿は!? 変身能力がお前のチート能力なのか!?」


「俺はアンチ・イート……異世界チート転生者を狩る番人にして執行者、死神アンチートマンだ……」


「この野郎!」


 男が素早く手をかざす。すると、奴の手に風と粒子が集束され、やがて螺旋状に回転する強力な気体の塊を形成。一気に光り輝く衝撃波が放出されてこちらに勢い良く接近してくる。これは、奴のチート能力で奪った魔法攻撃だ。それならばチートに判定される。この攻撃がもし奪った後も鍛錬をしたのならカウントできないが、この魔法にはコイツのオーラが宿っていない、奪われた者のままだ。


「効かん」


 奴の放った攻撃線上にアンチートガンナーを真っ直ぐに構えて引き金を引いた。銃口から赤紫色の光弾が発射。その大きさは本物の弾丸と同じように小さい。一見すれば男の放った衝撃波とぶつかれば消滅してしまうように見える。だが、こちらの放った小さな赤紫色の光弾は回転しながら迫ってきた攻撃を見事に消滅させた。


「な、なんだと!? どうなってやがる!?」


「化けの皮がはがれたようだな」


 どうやら自信のある攻撃だったようで、破られた事に対するショックを隠しきれていないらしい。ならば、奴の自信を砕いたも同然だ。他の攻撃パターンがあっても、チート能力の一つを無効化されてしまった精神ダメージは効いている筈だ。普通の攻撃パターンを繰り出されて不利になる前に勝負をつける。


「なら俺のチート能力でお前のスキル奪ってやるよ!」


 自棄を起こした男は接近戦を仕掛けてきた。両手にはねじ曲がったように集束するオーラが纏わりついており、それで攻撃するつもりのようだが、その能力がチート能力である事は奴の口から確認できた。仕方ない。ここはわざと食らうとしよう……。

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