第2話 学園/人々

 国が文化的な教育方針を定めてからというもの、芸術的なカリキュラムが多くなり、美術・音楽・服飾・芸能。様々なコースが設置されている。大学部までサポートして世に著名な教養の高い者達を輩出している。掴達が通う学校もそんな学び舎の一つ。

 取り組みの一環として、校舎は無機質な作りではなく、趣向を凝らしたアーティスティックなロマンを感じさせる造詣が施されている。


 遅刻を免れ無事学校に辿り着いたつかむ達。靴を履き替え、急ぎ足で階段を駆け上がり自分達の教室に辿り着く。


「ああ~疲れた…マジしんどい、眠い…」


 クラスメイト達に軽く挨拶を交す望と叶に対し、掴は適当に手を振るだけでそのまま自分の席に座ると、まるで相当の運動量を熟してバテた人の如く息を切らしながらぐったりと項垂れる。


「おはよ~す掴!」


 机に突っ伏す掴に、粗暴な外見のクラスメイトが親しげに近づき、肩を叩いて景気良く挨拶をしてきた。


「ああマコピー、おはよう」


「マコピーって言うな!?」


 そして掴は悪戯な笑みを浮かべて挨拶を返す。


 無造作にまとめたヘアースタイルと不良っぽいような風貌をしたマコピーと呼ばれる少年の名は三条さんじょうまこと。掴がのぞむかなえ以外で交友関係を結んだ貴重な友人の一人。

 最も、それは父育継いくつぐと望の父親が誠の父親と友人であり、その恩恵で結べた関係である。三条家も御門家・願家同様、家族ぐるみの付き合いをしており、兄と妹がいて通称三条三兄妹と呼ばれている。


「んだよまた朝っぱらから死んでんな~お前は」


「朝から走ってきたから疲れたんだよ」


「あ~そりゃお疲れさん」


 一見すると素行の悪いように見えてしまう彼。だが、気が荒く口が悪いだけでその精神は名の通り誠意に溢れている。物事には誠心誠意取り組む熱血野郎で、見た目と中身のギャップで惚れられる人種。

 特に掴は変なあだ名を付けて軽口を叩ける程心を許している。何よりも彼の兄が自分の姉と恋人関係にあることが大きい。


「つーか走ったって事は…また遅くまで起きてたのか?」


「まあそう」


「あのな~? お前育継さんにもワリィと思わねえの? 仕事頼んで息子が寝不足って後味ワリィだろ?」


「俺は中途半端に投げ出したくないんだよ」


「いやそれで寝不足だから本末転倒だっての!!」


「あー…」


 至極真っ当な指摘をされて言い返せない掴は、居心地の悪そうな表情を浮かべて顔をそむける。


「まあよ、お前の気持ちもわからねえわけでもねえけどなぁ?」


「そう思うなら俺の健闘ぶりを少しは労ってくれよマコピー」


「ああん? 労うつっても俺はプログラムがわかんねえから労うもなにもねえよ」


「……そりゃそうだよな」


「ああ」


 すると、誠は何かを閃いたかのように話を切り出す。


「昨日のニュース観たか?」


「聞き流してた気がする」


「ティンカーベルがファンギャラ内で寝たきりの患者や病気のガキ共に向けて慰問ライブをしたんだ」


「あー、ティンカーベルか、名前は聞いた事あるけど…」


 ティンカーベル。

 ファンタジアギャラクシアで活動している歌手であり、電子の妖精・電子の歌姫と呼ばれている。

 その美しい歌声は疲弊した人々の心を揺さ振り、涙を流し感動を生み、皆立ち上がって拍手が鳴り止まないらしい。

 ただし、ファンギャラ内で歌手活動を行っているため、アバターとしての彼女の姿は知られていても、リアルの彼女は一切謎に包まれている。


「名前しか知らねぇのかよ?」


「誰もが関心があるわけじゃない」


「まあそりゃそうか。ああそうそう、そのティンカーベルがこの地域に来てるって噂だぜ?」


「へえそうなんだ? でも顔も本名も年齢すらもわかってないんだろ? わかっているのは女性ってだけだし」


「そうなんだよな~。美人だといいな~」


 丁度、予冷が教室に鳴り響く。誠は一言挨拶を交して席に戻り、クラスメイトも自分達の席へと座る。少し経って教室に教師が入室し、ホームルームが始まった。

――――……――――……――――……――――……――――……――――……


「朝から体育ですよ望さ~ん? あ~もうめんどくさい」


「おいこらそこの爺くさいツカっちゃん! いいじゃない朝から体育上等じゃないの! 眠気スッキリおまけに運動不足も解消です!」


「望さ~ん暑苦しいですよ~?」


「ツカっちゃんは冷め過ぎだ!」


 本日は朝から体育の授業。体育館で男子生徒達がバスケットボールに勤しんでいるが、掴は人数余りにより見学。望は笛を片手に素早く動きながら審判を務める。

 望も本当はバスケットに勤しみたいのだが、自分が入るとゲームバランスが著しく崩壊する事を理解しているため、進んで審判役を買って出ているが、半分運動音痴の掴を監視する目的もある。体育教師もクラスメイトもそれを従順承知しており、特に掴にはボールを持たせるなという暗黙のルールさえある。


「俺もお前みたいに超人的身体能力があればな~」


「俺は逆にツカっちゃんみたいな頭脳が欲しいよ」


「またまた~頭いいくせに~」


「そっちこそパルクールは出来るじゃなないのさ」


 天才御門みかど御守みかみの息子。


 それが御門みかどのぞむを形容するうちの一つ。


 望は彼の才能を引き継ぐかのようにその秀才っぷりを見せていた。掴には及ばないが成績優秀。何事も粗無く熟し、父の難解な会話に着いていける。


 そして、彼を形成している中で大きな部分は突然変異の様に備わった超人的身体能力であろう。


 一般的な運動など彼にとっては呼吸する程度。


 壁を垂直に走り、全力疾走で車に追いつき、背後から迫ったボールをバク転しながら蹴り飛ばす。崖と崖の間を跳躍して飛び越える等、ハリウッドやスーパーヒーロー真っ青のアクロバティックな神業を難無く出来るのだ。


 望自身も自分の限界を確かめるように離れ業に挑戦し続けており、未だに彼の運動辞書に無理という言葉は無い。


 運動面でも頭脳面でも天才的才能を発揮する望。周りから見れば天才から生まれた天才。“優れた父に対して劣等感を感じる息子”という定番の道を通る事は無かった。


 しかし、望自身は自分の事を器用貧乏と捉えており、何をやっても上手くできる。それはつまり、何もできない事と同じだと思っている。

 性格は叶と同じように陽気で楽観的なマイペース男子。常に物事を楽しんで行動している。蠱惑的な笑みと甘いマスクが印象的な典型的美少年だが、普段はのんんべんだらりんとしているため、変人の印象を持たれているのは御愛嬌。

 刺激を求める傾向があり、違う自分になれるからという理由でギャラクシアエリアでプレイするストイックな面もあり、演劇部にも所属している。

 家族は妹を除き変人の集まりのような構図だが、両親の事を尊敬しており、普段は態度に表さないが実は妹の踏子を溺愛している。


「俺は道具を使うスポーツは全般駄目なんだよ、体力も運動神経も無いから」


「あとコントロール力もね? 毎回ボールを投げると大変な事になるから先生も俺をお目付け役に…」


 コート内から逸れたボールが、弾みをつけて転がりながら二人の元へ辿り着く。そして、望が気付くよりも早く掴がボールを取ってしまった。


 体育館内に戦慄が走り、全員背筋が凍った。


「ちょツカ」


 遅かった。掴も転がってきたボールを条件反射的に持ち上げてうっかり投げてしまい、気付いた時にはボールは彼の手から離れ、あろうことかコート内ではなく照明がぶら下がる天井へと向かう。


「だからやめろっつってんだよ!!」


 その瞬間、目にも止まらぬ速さで望は駆ける。風が通り過ぎるほどの駿足ぶりを発揮し、勢いを付けて地面を蹴り飛ばすとそのまま大きく跳躍。おおよそ二メートル以上飛び上がると見事にボールを両手でキャッチ。そして地面が揺れるほどの衝撃で着地する。体育館中に地響きが鳴る。

 その瞬間、男子女子、体育教師も盛大に拍手喝采。もはや人間離れしている望のアクロバットな動きを見られることは滅多にないのだから。特に男子体育教師に至っては目を輝かせて感動すらしている。


 望は一息吐き出し、ボールをコート内の男子生徒に渡すと、掴の所に戻り一言。


「このバカチンがぁぁぁぁ!!」


 これまた体育館中に響き渡り思わず全員が耳をふ塞ぐほどの怒声を轟かせたのであった…。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……


 午前の授業を終えた昼時。昼食の時間だ。

 この学園のは購買部と学食がある。そのため大半の生徒は学食で食事を取り、パンやおにぎりを購買部で購入して済ませる。


「叶~たまには幼馴染っぽく弁当作ってくれないか?」


「ええ~? つかむちゃんは自分で作れるでしょ~? あ、のぞむくん。はいお弁当」


「ん? ああ、いつもありがとうカナちゃん」


 一部を除いて。

 掴の冗談を軽くあしらった後、望に馴れた所作で弁当を手渡す叶。嬉しそうにお礼を言う望に対し叶も満足そうに微笑む。

 掴はお手上げポーズを取っておどけながら、鞄からスムージーの入った容器を取り出す。


「おい掴?」


「なにマコピー?」


 三人のやりとりを見ていたまことは、訝しげな表情で掴に迫る。それに対し掴は冷静な態度を崩さない。


「いつも思うんだが望と叶は付き合ってんのか?」


「いやもうあの二人は夫婦というか何というか…まだ好きとか付き合えとかも言ってない」


「お前ら幼馴染みだよな!?」


 身を乗り出して追及する誠。しかし、掴は表情一つ崩さず答える。


「何をいまさら?」


「いやえらい淡白だなお前も!?」


「あんだよさっきから?」


「いや朝から起こしに行ってるほどの仲なら片方に弁当作ってきたとかなんとかあったらもやもやしたり三角関係とかそう言うのにはならねえのかよ!? 家に遊びに行くほどなんだろうお前らは!?」


 言いたい事は理解できる。しかし、それはフィクションの定番中の定番。実際にそのようなロマンスは起こらない。その手の作品をみかける度に夢見過ぎだとツッコまずにはいられない。誠の熱弁に耳を傾けていた望と叶は掴と同時に口を開いて否定する。


「「「バッカじゃないの?」」」


「テメエら全国の幼馴染み設定作者に謝れぇ!!」


「相変わらずミーハーだなマコピー」


「マコっちゃんそれはないわ~」


「誠ちゃん漫画の見過ぎだよ?」


 追い打ちをかけるように三人は止めを刺す。もはや訴える気力を無くした彼は囁くような声で文句を言いながら席に座ると、大人しく注文した定食に箸を通し始める。


「あ、マコ兄、せんぱい達~」


 突如、背後から聞こえた甘ったるく後を引くような少女の声。小さな溜息を付きながらゆっくりと振り返る。中等部の制服。スカートは短めでシャツの第一ボタンを全開にしてはだけている。彼女だ…。三条さんじょうあいである。


「おう、愛」


「こんにちは愛ちゃん」


「やあ愛ちゃん」

 

 彼女はまことの妹であり学園中等部に通う女子中学生。非常に小悪魔な性格をしており、チャームポイントはそばかすと短めのツインテール。悪戯っぽくも愛らしくキュートなルックスで校内の健全な男子中学生を手玉に取っているが、肌に直接触れるなどのスキンシップは同性にしか行わず、女子に対してかなりのキス魔。これが影響してか同性にも人気がある。要するに愛嬌があるという事だろう。父と兄2人から愛されており、ストーカーでも現れようものなら撃退するそうだ。

 こんなギャル外見に反して“愛”を信条としており、人々に愛を振りまくことが人生最大の目標らしい。同性に対するスキンシップとキス魔、男子を手玉に取るのはその精神の表れと見ていいのかは疑問が残るが…。


「ああ~、掴さん今ちょっと溜息付いたでしょ? ひど~い」


「そりゃそんな甘ったるい声で呼ばれたらなぁ?」


「あれぇ? 私の声そんなに気になっちゃう?」


 悪戯な笑みを浮かべる。ああ、この学園の中学生はこの笑顔にやられているのか、ある意味可哀想だと、内心憐れんだ。女子生徒の場合はこの状態から抱擁が待っているのだろうと予想。それはそれで質が悪い気がする。


「マコピーもさ、可愛い妹が襲われないか心配じゃないの?」


「襲った野郎をぶっ殺す」


 無表情で拳と拳をぶつけて鳴らす誠。おお怖い怖い。


「それに、パパと正兄とマコ兄が守ってくれるから大丈夫だよ~?」


「おうよまかしとけ」


 妹とはこういうものなのか、眉間にしわを寄せながら腕組みで考え込む。正義と誠からすれば可愛い妹だろう。事実ルックスはかなり可愛い。だからといって性的な欲求は微塵も沸かない。沸いたとしたら三条家を敵に回しそうだ。

 のぞむにも小学生の妹がいるが、彼女はまるでベクトルが違う。しかし、どちらも可愛い妹という共通点はある。否、望は妹の事を可愛いと思っているのだろうか? 彼は普段からまともな対応をしていないのでこの場合はどうであろう。


「掴さんまた難しいこと考えてる?」


「可愛い妹について考えてた」


「えへへ~私も掴さんにとって可愛い妹?」


「妹がいないからよくわからん」


「ええ~? でもめぐ姉がセイ兄と結婚したら、掴さんも私のお兄さんだよ?」


「お、確かに。めぐ姉が姉貴になったら掴も義理の家族だなおい」


「いまさらうちのご家族付き合いは恐ろしいんだと思うんだよな…」


「それってどういう意味ぃ!?」


 頬を膨らませて上目遣いで迫る愛を手で制しながら、昼食用のスムージーをさり気なく彼女に手渡す。


「あれ? これ貰っちゃっていいの?」


「お袋から余分に貰っておいた」


「あ、ずりぃぞ俺も欲しい」


「ふわぁ~、雛形さんのスムージーすごく美味しいから好きなんだぁ、ありがと掴さん」


「へいへいどうも」


「俺にもくれよ~」


 彼女は満面の笑みでスムージーに吸い付く。景気の良い喉音を鳴らしながら飲んでいく。それを見ながら掴も母お手製のスムージーを飲み始める。やはり美味い。伊達にフードコーディネーターを名乗っているわけではないのだ。


 すると、遠くの方から彼女を呼ぶ男子中学生が見えた。ボーイフレンドという名の彼女の哀れな被害者だろうか?


「あ、呼んでるから。じゃあもう行くね、掴さん。スムージーご馳走様。雛形さんに美味しかったって言っといてね~」


「あんま弄ぶなよ~?」


「私は女の子しか触らないしキスもしませ~ん」


 掴にウインクしながら投げキッスを送り、愛は小走りで男子生徒の方に向かう。遠ざかる後ろ姿に向かい嘆きの声を漏らす。


「それもどうなんだよ…」


「まあ、俺の妹は可愛いからしょうがねえわなぁ」


「それでいいのかマコピー?」


 彼女を見送った後、四人は食事を再開する。望は叶から貰った弁当を美味しそうに頬張り、叶も自分の弁当を食べながら微笑む。掴はスムージーを吸いつきながら、横からスムージーをせがむ誠をはたきながらあしらう。

 こうして平和なランチタイムは過ぎていくのであった…。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……


 午後の授業が終わりを告げ、日が傾きかけた放課後。


 動きやすい服装。体操着やジャージ姿に着替えた運動部の生徒達が、体育館やコート、運動場で忙しく動き練習に励む。


 そして、多種多様な器具が置かれたアスレチック広場。

 次々と障害物を避けながら壁を登ったり高所から飛び降りた後に走る等を繰り返す生徒達の姿があった。彼らはパルクール部。部の規模はそこまで大きくないが、それなりに実績のある少数精鋭の部活動である。


「なんかやけにへばってんなお前」


「まあその色々忙しくなりましてね、楽しいからいいですけど」


 本日、掴はパルクール部の部活動に出席していた。

 しかし、ここしばらく忙しい事尽くめでお疲れ気味な彼を、パルクール部部長の北出きたでじんが心配そうに声をかける。 


「そうか、楽しいのは良いだからいいけどな。そんなんで今日動けるのか?」


「これも楽しい事の一部ですから大丈夫ですよ。適度な運動は良いリフレッシュになりますから、そこまで苦になりません」


「まあそうだな」


 広場に置かれた様々な障害物を軽快な足取りと素早い動きで避けながら、速さと勢いを殺さずに高所を登り、飛び降りたりして進む事を繰り返す。それがパルクール。一種のストリートパフォーマンス的要素もあり、動画サイトでもレベルの高いパルクール動画が投稿されている。


 掴は壊滅的に体力と運動神経が無いが、パルクールだけはできた。最初こそまともに動けなかったが、その楽しさに目覚め、荒事からの逃げ足の速さと何かを避ける事が上手い事も合わさり上達。元々は望から勧められ、運動面で彼と対等になりたいという思いもあり入部して今に至っているが、相変わらず望の方が上手うわてである。

 何気にレギュラーであり、ちゃっかりレギュラージャージも貰っているのだが、仕事を優先しているので助っ人兼補欠的立場に収まっている。それでも不定期だがちゃんとこうして練習に出ており、試合にも出場しそれなりに人間関係は良い。


 逃げ足が速く避ける力もあるのに、未だに体力が無く運動音痴なのは何故かという疑問は殆どの人に抱かれている。


「yeah~掴、俺と競争すっか」


 仁が掴の頭に軽く手を置き、競争を申し込む。


「仁さんなんすかいきなり」


「助っ人レギュラーのお前には負けたくねえからな」


「ひどいなぁ、ちゃんと練習試合にも大会にも出たじゃないですか」


「だからだよこの野郎!」


「わあ~逃げろ!」


 首ロックを掛けられそうになり、逃げる勢いでそのまま競争が始まる。


「あ、こんの野郎逃げ足速えぇんだよ!」


 頼れる先輩を地で行く仁は、ぶっきらぼうだが面倒見が良く熱い性格。勉強は出来る方で時々腹黒い一面がある。イケメン面ではなくカッコイイ面をしている。服装が何気にお洒落で重ね着スタイル。オレンジや苺にパインと、チョコレートが好物で、特にチョコはいつも持ち歩いているチョコレーターでもある。パン屋でアルバイトをしている絶品の創作料理を作る巨乳の美少女彼女がいるとかいないとか噂がある。一応、彼は望達と面識はあるが深い仲ではない。


 あまり他人と関わりたがらない掴が唯一他人でもある。


「そう簡単に追いつかれませんよ!」


I’m not kidding冗談か!?!? 直ぐに抜かしてやんよ!!」


 2人の距離はほんの数センチ。ブロック塀に手を掛けて一気に登り向こう側へ、着地と同時に走り出して鉄棒を飛び越え台に飛び乗り一回転。


 彼もファンギャラの一般プレーヤーであり、他人の事情に深く突っ込まないので掴のファンギャラ事情はそれなりにしか知らない。

 戦国武将の伊達政宗好きで、アバター名も政宗。容姿も彼を意識した風貌に調整しているが、ロングコート調の黒衣を纏ったカッコイイ外見となっている。

 時々テンションが上がって英語混じりの掛け声を叫んだりする。


 やがて、二人の競争は佳境に入り勝負は大詰め。こうして本日も平和にパルクール日和は過ぎていく。


 掴の普段とは異なる日常の一面であった…。

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