傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た

藤島莎那

Pickup:1

第1話 平野伊万里は今宮兄妹と出会った

 県立瑛美えいび高校に入学した初日、彼女は保健室で目を覚ました。

 ベッドに横になっている内に少し眠ってしまったらしい。ぼんやりとしていた意識が少しづつはっきりしてきて、ゆっくりと体を起こす。上履きを履いてシャッと白いカーテンを開けた。


平野ひらのさん、気分はどう?」


 女性保健医に声を掛けられ、コクリと頷く。


「おうちの人に迎えに来てもらった方がいいんじゃない?」


 今度はふるふると首を横に振る。

 平野伊万里ひらのいまりは対人関係に難ありな少女だった。今日の入学式でも講堂の雰囲気に呑まれ、途中で気分が悪くなった。人が大勢集まるところは苦手なのだ。出来る事なら過疎地の高校に行きたいと親に懇願したが、あえなく却下された。


「……帰ります。ありがとうございました」


 ほとんど聞こえないくらい小さな声だったので、保健医が「えっ?」と聞き返したが、伊万里は室内の一角に目を奪われていた。

 保健室の片隅に、教室にあるのと同じ机と椅子が一組。使い込まれたスクールバッグも無造作に置かれている。どうして?と、思ったその瞬間、保健室の扉がコンコン、とノックされた。


「センセー、もう帰っていい?」


 ぞんざいな口調で言い放ち、そこに立っていたのは金髪の女子生徒。茶髪どころではない、ド金髪だった。

 呆気に取られた伊万里が立ち尽くしているのを見て、金髪女子は顔を覗き込む。

絶対にお近付きになりたくないタイプだ。伊万里は俯いて目を逸らした。


「もう大丈夫?」


 意外にも優しい言葉を掛けられて、伊万里は驚きながらもコクコク頷く。


桜川さくらがわさん、あなたはまだ帰っちゃダメ」


 保健医がそう言うと、桜川さんと呼ばれた金髪女子はえぇーと不満そうに机の方へと向かった。

 伊万里はペコリと頭を下げると、逃げるように保健室を出た。人は見かけによらないとは言うが、見た目は大事。保健室で勉強してるなんて、ひょっとして手が付けられない暴れん坊なのかも。

 とにかく、ああいう怖い見た目の人とは関わらないようにしよう。そう誓って、伊万里は一年一組の教室へと急いだ。

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