第6話 転機

骨折 <こっせつ>

骨折とは、直達外力や介達外力により骨が変形、破壊を起こす外傷であり、構造の連続性が絶たれた状態のことである。

骨折の修復には外部的修復、内部的修復及び魔導的修復がある。

―ウィスタニカ大辞典


なぁに、骨の一本や二本。

祖国の安泰に比べれば小さなものよ。

……いてっ!いたたたたた!!

無理、その方向っ!!アーッッッ!!

―負傷兵(下士官)


―――

「どういう事ですか!」


「魔導コマンド試験大隊は解散って事ですよ」

飄々とした青年上級幹部が語る。

彼の職責から、役職から、語る言葉は真実なのだろうと推測はできる。

「すぐ。じゃないですよ。まぁ、安心してください。次に所属すべき隊は準備出来てますから」


私の隊を。私が育ててきた部隊を。

参謀本部付と言う名を我慢しつつ、私の部隊として鍛え上げたこの隊を!

「私の隊をどうするつもりですか!」

「ふむ。分かりました。『所属すべき隊』の話を聞かせてください」

小隊t……アッカネン中佐!?何を勝手に!


「お分かり頂けて重畳です。……まぁ、これは『まだ』オフレコなのですが、あなた方の為の部隊が出来ます。作ります」

ニヤッと微笑む連絡将校。

「陸軍でも海軍でも無い、参謀本部からも一線を画く部隊です。これは個人的な見解ですが……とても面白い試みです」


――

白い天井、動かない左手、綺麗なシーツ。

あ、これ病院だ!

「目が覚めてくれたようで結構。覚えているかね?覚えているよね?つい最近だし」


……えーっと?

あ、はい。つい先日部隊実習の時お世話になった先生!

「あれま、これまたお久しぶりです」


「君が初めてだよ。一年のうちに二回も会うなんて。……そりゃね。僕も軍属医療魔導兵してるから、ある程度は理解する。するけどね」

あら、先生は軍属医務隊の方でしたか。

この間は中央先端病院でお会いしたので、てっきり外科医医療魔導士の方かと思ってましたよ。

「無茶するな。ってのは無理な話なのは分かってるんだよ。……でもね、治して一年以内で、また担ぎ込まれるとは思ってなかったわ。これマジで」

ですよねー。

私も、なんで退院して一年経たずにまた戻ってくるのか分からないんですよー。

……うん、どうしてこうなった。


「私も戻ってくる気は無かったんですけどねー」

っていうか、ここはどこ?

天井の模様を見ると、あの病棟中央先端病院集中治療病棟じゃないみたいだけど。

「そもそも、ここはどこでしょう?っていうか私、左肩の貫通銃創だけですよね」


「エスダール記念病院の外科病棟だよ。……いやぁ、赴任してすぐコレってのも仕組まれた感が半端ないんだけどね」

あぁ。時計塔から見えてたあのでっかい建物ね。

てっきり軍事施設かと思って狙撃しようとしてノイマンさんに止められたっけ。

「って言うかね、貫通銃創って言うけど大分骨イってるからね。君の基準おかしいよ?」

まぁ、うん。両手両足揃って帰ってこれるなら良いかな?的な。

「そもそも、肋骨もイってるから。君は重症患者なんだよ、分かってる?」


「この前に比べれば、まだまだ痛くない方ですよ。前は全身痛くて痛くて……」

酷いのよ。千切れるみたいに痛いのよ。

麻酔とかしてもらうんだけど、一時間くらいで切れちゃうから寝ても飛び起きるのね。


「そりゃ前のと比べちゃダメだよ。……僕達医療魔導士を信用してくれるのは良いけど、治せないものは治せないんだから」

ぅ……おっしゃる通りです。

信用してるから怪我してる。って訳じゃないけど……頑張って当たらないようにします……。

「君が野郎だったらここまで言わないけどさ、若い女の子なんだから。もう少し傷付かないように立ち回ろうよ」


「あはは。やだな、先生。『女の子』って……知ってるじゃないですか」

怪我にも治るものと治らない物有るんだよね。特に内臓関係。

ま、気にしてもしょうがないし、今のトコロは実害無いから良いけどね。




「そんな事より先生、先生!教えてくださいっ!」


「な、何!?いつ退院できるかは経過次第としか答えられないよ」

そんな事じゃないの。

先生として、医療従事者として教えて!


「相手を効率よく無力化するためには、どこを撃つのが一番なのでしょうか」

医療的にね。

ほら、どうせ狙撃出来るんだから、どこ撃てば効果的か知りたいじゃん。

「今後の参考に!」


「はぁ……戦闘狂の治療方法調べておくかな……」

なにそれひどい!


―――

まだ左腕吊ってるけど……久しぶりの娑婆病院の外です!

骨ってくっつくまで時間かかるのね……。

「ヴィルタネン中尉、帰隊しました!」

まぁ、帰る場所ってここしか無いよね。これでも軍人だし。


「お帰りなさい。まだ左手吊ってるのね」

大隊長、お久しぶりです!

……つい一昨日辺り、病室で会った気がするけど気にしない。

「もう退院したの?それとも今日は外出ってだけ?」

あ、一昨日はベッドで寝てたままでしたっけ?

へっへーん。聞いて驚け!

なんと私は!


「晴れて退院です!……まだ通院しないといけませんけど」

退院したのです!いえーい!

25mmはまだ無理だけど、30口径なら右手だけで撃てるようになりました!

これもリハビリのおかげです!

「狙撃と偵察だけなら今日から復帰できます。弾着誘導は……もう少し待ってください」

流石に25mmは、まだ右手だけじゃ撃てません……。


「骨をやってるんだから大人しくしてなさい。変な形でくっついて肩が上がらなくなるわよ」

むむむ。それはマズい……。

「元気が有り余ってそうだし、リハビリがてら長期任務してきなさい。すぐに命令書用意するわ」

むぅ。長期任務……。

海と空以外でお願いしたいです。



―――

参謀本部 人事発令


魔導コマンド試験大隊偵察小隊長

ヴェルーニ・ヴィルタネン特務中尉


偵察小隊長の任を解く

砲撃誘導官の任を解く

魔導コマンド試験大隊の所属を解く

連邦警察局への出向を命ず

―――


「ちょうど出向要員の選出が有って困ってたのよね。偵察班も人が居なくて解散だから、しばらく出向してきなさい」

な、な、なな……

「出向中は怪我しないように気を付けるのよ。怪我してもゴールデンハートもらえないからね」

なんでそうなったーーーー!!

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