第155話 ★10★ 2月14日金曜日、18時過ぎ

 時刻は十八時を過ぎている。金剛こんごう抜折羅ばさらはエキセシオルビル七階の自室から外を見やった。

 ――来ないなら来ないで俺は構わないんだが……。

 こうが持つスタールビーの魔性石〝フレイムブラッド〟が近付いて来ていることは感じられる。少なくとも無事だということなのだろう。

 ――どうして彼女はああなのだろうな。

 彼女に関わると心配ごとばかり増える。基本的には仕事のことしか考えていなかったかつての自分から、だいぶ変わったものだと抜折羅は思う。彼女のことを四六時中考えている状態を恋だというのなら、おそらく今は恋をしているのだろう。

 ――運命の巡り合わせに感謝するのか呪うのかはまだ保留だがな。

 彼女に関係する心配ごとは多いが、煩わしく思ってはいない。完全に楽しんでしまっている。こんな気持ちになるものなのかという新しい発見があって、とても愉快な心境なのだ。

「……そろそろかな」

 部屋はいつもどおりに殺風景で片付いている。誰が来ても構わないように、また、何か異変が起きてもすぐにわかるように。

 抜折羅は窓から離れると、電話が鳴るのを待った。

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