第90話 *4* 2007年8月某日、夕方
同日、夕方。
「よう」
向こうも紅が帰ってきたことに気付いたらしい。片手を軽く挙げて、塀につけていた背を離した。
「将人……」
一対一だ。思わず身体が
「昼は世話になったな」
紅が震えているのがわかったのだろう。将人は一歩だけ近付いたものの、それ以上は進まなかった。
「どう……いたしまして」
「――だがな、紅」
凄みのある声。紅はビクッとして縮こまる。
「礼は言ったが、今後ああいう場面を見掛けたら無視しろ」
「で、できないよっ!?」
「なんでだ? おれのことなんか放っておけばいいだろ。お前はおれが苦手な訳だし、助ける理由なんかないだろ。それに、標的が変わったらどうするんだ? もっと恐い目に遭うかも知れないんだぞ? 悪いがおれは、もしそういうことになってもお前を助けないからなっ!」
「助けてくれなくていいよ。あたしが将人を見捨てないだけなんだもの」
「あぁ、そうかよ、勝手にしろっ。おれは注意したんだからなっ!!」
怒鳴って、将人は
「――家、そっちじゃないよね?」
「寄る場所があるんだよ。ついてくんなよ?」
顔だけ振り返って、睨みながら応える。
「寄るってどこに? もう六時も過ぎているんだよ――まさか」
彼がどこに行こうとしているのか直感した。それで将人に対する恐怖が払拭される。
「だめだよ、行ったらっ!!」
紅は将人を追い掛けて、手首を掴む。が、すぐに振り解かれて、向き合った。
「紅は絶対に来るな。人を呼ぶなっていう約束なんだよ」
近距離で睨まれると、本当に恐ろしい。でも懸命に首を横に振る。
「行く方が間違っているの。行かないって約束して」
怖くても、どんなに恐ろしく感じられても、紅は将人の目をしっかり
「……わかった。約束してやるから、紅は家に入れ。おばさんたちが心配するだろ?」
「絶対だよ?」
念を押すと、将人は頷いた。ひとまずはそれで安心する。
「じゃあ、またね」
将人が動かないと紅は動けない。それを理解していない将人ではないので、しぶしぶといった様子で自宅がある方向に一歩踏み出す。
「またな。――とにかく、紅は無茶すんな」
呟いて、将人は紅の頭をくしゃっと撫で、すたすたと歩いて行った。
――無茶するな、って?
いきなり頭を撫でられたことに動転していた紅だったが、将人の台詞が引っ掛かっていた。思わず、彼が消えた道の角まで走り、陰から様子を窺う。将人の家はこの通りをずっと進むことになる。しかし彼は次の角で立ち止まると、背後を気にした上で曲がってしまった。
――あたしとの約束、破るつもりなのねっ。
引き留めるつもりで紅は追う。しかし次の角を曲がったところで将人に気付かれたらしい。彼は走り出した。
待って、と声を掛けたところで止まるわけがない。紅はクラブ活動で所属する陸上部で
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