第56話 *6* 9月7日土曜日、昼
九月七日土曜日。今日、明日は
「――付き合わせてしまったみたいだな」
成田空港からの帰りの車中、隣に座る
「あたしが行きたかったんだから、気にしないで。むしろ、車を出してくれてありがとう」
「……それはそうと、だな。手を繋いでいる必要性について、俺は議論したいのだが」
紅が握っている彼の左手が、居心地悪そうに動く。
「フレイムブラッドの力を渡すのに必要な行為でしょうが。
「それは、確かにそうなんだが……」
言いよどむ抜折羅に、紅はある可能性に気付いて
「それとも、何? あたしとキスしたいわけっ!?」
「何故喧嘩腰でそういうことを言うんだ? そんなに俺のことが嫌いか!?」
「嫌いだったら、触れたいとも思わないわよっ!」
「そりゃどうも。出会ったときより関係が好転しているようで何よりだな」
――くう~っ!
どうしてか、悔しい。抜折羅にとって自分の価値はエネルギータンクでしかないのだろうかと紅は悩む。守られてばかりの状況をどうにかしたくて、ならばと魔性石の力を渡すことを思いついたというのに。
しばらく黙っていたが、不意に抜折羅が口を開いた。
「このあと
「本当にあんた達は仲が良いのね」
「そこはヤキモチを焼くところなのか?」
「知らないわよ。イラッとしただけ」
「ずいぶんとご機嫌斜めだな。無理して供給してくれる必要もないんだぞ?」
「……」
紅は台詞で返すことはせず、ただぎゅっと抜折羅の手を握った。
「……気が済むまで好きにしろよ。握手程度じゃ、全快まで半日以上かかるだろうしな」
面倒くさそうに言う。交渉を諦めたようだ。
「――で、さっきの質問だ。白浪先輩のところに行かないなら、
「一緒に行くわ。見舞いの約束もしてるし。抜折羅がいてくれれば、先輩も行き過ぎたスキンシップは自重するでしょ」
「……紅は白浪先輩とどういう関係なんだ?」
抜折羅の目が点になっている。どちらかというと表情の変化が
「へ、変な聞き方しないでくれるっ!? むしろ、あたしも知りたいわよっ!!」
「じゃあ、どうなりたいんだ?」
真面目な顔だ。この質問は雑談ではなく、ちゃんと意図がある。
「どういう意味?」
「俺には、お前が先輩とじゃれあっているように映っている。正直、反応に困るのだが、どうして欲しい?」
「どうして欲しいかって……」
彼の問いを繰り返してみるが、よくわからない。
「変な質問であることは承知の上で訊くが、その……紅が白浪先輩のことが好きならば、俺は邪魔はしたくない。嫌いじゃないことはわかるんだが、どうなんだ?」
あまりにも真剣な顔で抜折羅が真っ直ぐ見つめてくるので、紅は適当な言い訳が浮かばない。逃げずに正直に答えようと思った。顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのだが、仕方がない。
「好みという意味なら、顔は好き。あたしの理想は間違いなく白浪先輩でしょう」
「お、おう」
そう答えると思っていなかったのだろうか。抜折羅は
「ただし、内面は別よ?」
「……」
――その沈黙は、あたし、どう解釈したらいい?
「……総合的にみて、どうなんだ?」
「抜折羅の判断に任せるわよ」
「む……紅のそういう面は理解し難い……他は
本気で頭を抱えているように見える。大真面目に考えて、でも答えが見えないから質問をしてきたのだろうか。彼の勇気の使いどころが紅には理解できない。
――ったく、どこに気を遣っているのかしらね?
「わかり合えなくても当然でしょ? あたしたちは別の人間なんだから。――これは良い意味で取ってよ。今まで別の人生を歩んできたからこそ発見できたことなんだもの。楽しいことだわ」
「紅のその前向きさは見習いたいところだ」
抜折羅は笑う。他の人がするみたいな笑顔ではないのだけど、すごく楽しそうに紅の目には映った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます