第43話 ★8★ 9月4日水曜日、放課後

 ――解決までに時間はかからないと踏んでいたが、甘かったみたいだな。

 こうを自宅に送り届けたあとの帰り道、抜折羅ばさらはスマートフォンで宝杖ほうじょう学院の非公式サイトを覗く。学院の関係者が運営しているらしいそのサイトには、生徒たちの利用するサービスのアカウントをまとめたリストが存在した。発言が時系列順に流れていく。過去をさかのぼると、遊輝ゆうきが言っていたように、最近は蒼衣あおいの話題が多いようだ。ただ、蒼衣に限らず、学院内のアイドルである生徒会メンバーのことは割と書かれているようにも感じられた。

 ――単独犯ではないってこともあるのか。ファンの人間を疑っていたが、もう少し集団を束ねられる人間に目を向けたほうがいいか……。

 掲示板も見る。人気のある生徒のチェックだ。そのあとで遊輝に電話を掛ける。

「はい? あんまり電話してこないで欲しいんだけど。男の声って色気がないから、仕事に差し支えるんだよね」

 気持ちに少しは余裕があるようだ。冗談を言えれば心配はいらないだろう。

「仕事中にも拘わらず、電話に出てくれる白浪しらなみ先輩に感謝してます」

「今は緊急時だから、特別ね。――で?」

 促されて、抜折羅は本題を切り出す。

「ロイヤルブルー以外で人気のある人物――できれば、ファンクラブと言われる程度になっている生徒っているのか?」

 訊ねると、遊輝は電話の向こうでうーんと小さく唸った。

「僕のクラスにいる宮古澤みやこさわさんは女子に人気がある女子だね。ファンは多いはずだよ。紅ちゃんも好いているみたいだし。他だと、最近目立ってきたのは、一年にいる翠川みどりかわ皐月さつきかな? 彼女、高校から入学した外部生だから、ファンクラブとして組織化してきたのは遅めだね。夏休み前……ちょうど君が転入してきた頃かな」

 宮古澤みやこさわあやの話は紅から聞いたことがある。だが、翠川皐月の名前は聞き覚えがない。

「翠川皐月? 俺のクラスじゃないな」

 抜折羅の反応を受けた遊輝は補足するために続ける。

「一年B組の、背のちっちゃい女の子だよ。幼児体型なのが物足りない感じだけど、将来性はあるね。入学当初は眼鏡をしていて、生徒手帳の写真も眼鏡だったはず。コンタクトにしたのか、眼鏡やめてから急に注目されるようになった気がするよ」

 あまりにもさらさらと告げるので、抜折羅は思わず引いた。

「……訊いておいて何だが、詳しいな」

「絵の題材のために、学校の女の子はちゃんと覚えておくようにしているんだ」

「それは自慢することなのか?」

「えー、そういう反応で返すかい? ――そうそう。君にもファンはいるみたいだよ。僕たちのファンを疑っているみたいだけど、自分の周りもよく見たら? 災厄の申し子くん」

「ご忠告、傷み入ります。――お仕事中、お邪魔しました」

「いつでも掛けてきなよ。どうせこんなに気が立っていたら、まともな絵なんて描けないし。早く事件が収束するなら、協力させてもらうよ」

 遊輝の台詞に礼を言い、通話を切った。頼りたくなる相手ができてしまったことに気付いて、抜折羅は少しだけむず痒く感じた。

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