第14話 ★4★ 6月20日木曜日、深夜
――張り込みの甲斐はあったな。
紅の部屋の窓から出て行く人影を確認した抜折羅は、すぐにあとを追う。街灯に照らされたシルエットは細身の長身。束ねられた長い髪は、白く細い尾を作る。外見的特徴は川音先生から聞き出した十八年前にいたとされる怪盗オパールに似ていなくもない。
「ちっ。身体機能を上げてやがるっ!!」
全力で駆けたはずだが、塀の上や屋根を舞うように駆ける怪盗に振り切られてしまった。
「ホープ、データは取れたか?」
切れた息を整えつつ、抜折羅はフランス語で相棒に問う。
『距離がありすぎる。タリスマントーカーであるとは感じ取ったが、何の石なのかまではわからない』
「了解。それがわかっただけでも充分だ」
抜折羅はホープとのフランス語会話を終えて、ウエストポーチからスマートフォンを取り出す。相手は紅なのだが、電話に出てくれない。
――助けに入らなかったことを怒っているのか?
大きな物音もしなかったし悲鳴も聞こえなかった。だから、紅の部屋が見える通りから観察し続けていたのだが、選択を間違えていただろうか――と抜折羅は悩む。
――朝に訊くか。こんな夜更けに家を訪ねるわけにもいかないし。
留守電に朝の待ち合わせ場所を入れると、電話を切った。
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