■第四章■~魔法使いの試験~
顛末と新しい弟子
―――ラーナの街 正門―――
ついに帰ってきた。たった20日の旅路だったが、まるで数年ぶりの帰郷に感じる。
それは、精神的なストレスからなのか、濃厚な時間を過ごしたからなのかは分からない。無事に帰って来れたことに心からの喜びを感じている。早く帰って、お部屋で寝たいものだ。
「一緒に乗せて来てくれて感謝します。
一度、今回の件で家に戻るので、お別れですわ」
「はい、お疲れ様でした」
「家まで送りますよ? 疲れているでしょうから、遠慮しないで下さいね」
「遠慮しておきますわ。荷馬車で帰宅なんて、恥ずかしくてできませんわ!」
「……そ、そうですよね。気が利かなくてすみません」
「師匠に対しての暴言は許しませんよ」
「……失礼。今回の件では本当にお世話になり感謝しておりますわ。
近々、お礼に伺いますのでまた仲良くして下さい」
「お礼なんて気にしないでいいんですよ。何かあったらお互い様ですからね」
「お互い様ですか……わかりましたわ。それではごきげんよう!」
ハリティと別れ、私達は家へと向かった。――その道中。
「貴族の子女とは、皆気位の高い性格なんですかね。悪い性格ではないですが」
「そうですね。誇りや気品が感じられる女性でしたね。リョウの好みですか?」
「ぇ……!? いえ、違いますね。気品のある顔立ちで綺麗だとは思いますが」
「あら、そうなんですか? 鼻の下が伸びてると思いましたが……」
「じ、冗談はやめてください。伸びてませんよ」
「フフフ」
私の好みの女性は、目の前にいますからね。
「それにしても大分早く帰れましたね。その分、死にかけましたが」
「えぇ……。本当に予想外の事が起き予定が狂いました。ごめんなさい」
「謝らないで下さい。一緒に帰れて私は幸せですよ」
「フフフ。リョウは大人になったらモテそうですね」
「ハハハ、ご冗談を……」
前世の私はモテた試しがありませんよ。そういえば、一年以上も自分の顔を見てない気がする。鏡は高級品で女性部屋にしかないため、プリシャが女性部屋の掃除担当になってから自分の顔を見る機会が全くない。……まぁ、どうでもいいか。
「そうだ、結局のところ魔人を操っていた首謀者は何だったんですか?」
「はい。本当は魔人を倒してから野営地で実物を見せ、それで教えようと思ったのですが仕方ないですね」
――この事件の顛末。
結論から先に言えば、第一次魔人戦争で魔人に組み込まれていた魔石が原因だった。魔石……どこかで聞いた気がする。いや、話を戻そう。
自然界の魔力が濃い傾向にある、森を利用した人造兵器「魔人」は、コアとなる魔石と人間の屍を元に作られている。魔石と屍、そして特殊な魔法と魔術式を組み合わせることにより、魔人は魔物を操作する能力を得て、命令を忠実にこなす兵器として完成する。
そして、第一次魔人戦争に於いても森を拠点として利用され、魔人によって各国は蹂躙されることになる。その後、各国は手を取り合い魔人と製造者の魔法使いに対して、大反撃の報復を実行するわけだが、その後始末の失敗が今回の事件に繋がっている事がわかった。
何が原因だったのかは、先程言った通り魔石だ。
魔人の造り方を知るのは、創造した魔法使いだけしかおらず、魔人の詳細を知ることができなかった。勿論、研究資料などの奪取を試みたが、全ては失敗に終わり水の泡となった。そのため、魔石の本当の恐ろしさを知る人間が一人もいなかったのだ。
――魔石の力。
それは、創造者の命令を忠実に実行させる頭脳としての役割と、再生の役割だ。
つまり、魔石は魔人にとっての心臓であり、頭脳と言っていいだろう。
そして、この再生の能力こそが魔石を壊さないと悲劇を生む原因だった。
魔石は、魔人の肉体が破壊された場合は、自然界の魔力を長い年月を掛け吸収し、魔人の肉体を完全に再現させる再生能力を有している。それに掛かる年月こそが、第一次魔人戦争終結から、今回の事件が起こるまでの年月だったという訳だ。魔石の力を知らない昔の人々は、魔人の中に組み込まれていた
「誰も得しない、悲しい話ですね……」
「ええ、昔の方々が魔石の危険性に気付けていれば、起こらなかった悲劇です」
「つまり国が打って出たのは、
首謀者はおらず魔石が魔人復活の原因と突き止めたからですか?」
「その通りです。
魔人製造ができる首謀者がいた場合、軽率な行動は危険ですからね」
「確かに。
「はい。魔石を知っていれば即座に討伐隊を募り、
騎士団と共に魔人討伐に向かわせて終わりでした」
「そうですね。犠牲をもっと減らせたでしょうね」
「ええ……それだけが残念です」
今回の事件、不運としか言い様のない顛末だった。
主など存在しないのに、その命令を守り続けた魔人。
そもそも、創造した魔法使いは何を思ってこんな命令を下したのか……。
全ては歴史の闇の中だ。だが、もう終わった話だ。誰かを責めても意味のない、虚しさだけが残る戦いだった。それにしても――
「――それにしても、魔石が原因と、どうやって突き止めたんですかね。
間違いなく解決の決め手ですね」
「……フフフ、そうですよね!? すごいですよね!! (チラッ」
「……? えぇ、もし個人であれば、今回の最大貢献者で間違いないですよ。
英雄です」
「フフフフフフフ、英雄ですか、そうですか、フフフ……」
んんっ!? この反応は……まさか。
意味深な反応を見せる師匠。しかし、それ以上のことは何も話してくれませんでした。ただ一言「楽しみにしててね」だ、そうです。とても気になります。
ですが、恐らくは予想通りなのでしょう。師匠を信じて黙って待つことにしました。
そして――
「プリシャ、お師匠様。ただいま戻りました」
「はやっ!! お帰り師匠! リョウ!」
「ただいまです。プリシャ、大師匠」
「あらあら、無事でよかったわ。まぁ、私の弟子なんだから当然ね。
さぁ、休んだらお話を聞かせてね」
家に戻ると無事を喜んでくれる人がいる。
私は、何気ない日常の素晴らしさを再確認した。
ここが私の居場所なのだ……と。
――数日後。
「おはようございます」
「おはようございます。リョウ、プリシャ、お師匠」
「おはよー」
「……ふあぁぁぁぁ、おはよう、貴方たち」
大師匠が居付いた。2ヶ月以上は滞在できるように支度をしたため、暫くはバカンス気分でいるらしい。それにしても目に毒だ。セドナさんは朝が弱いらしく、寝起きはとてもだらしがない。
艶かしい肉体を隠しているパジャマは、はち切れんばかりになり胸元のボタンがいくつも外れている。こんなものを毎日見せられては、男の私はたまらない気持ちになってしまう。
最近では、それで鼻の下が伸びた私にプリシャが絡んでくる様になった。
唇をいじけた様に尖らせて、ほっぺを膨らませている。
男ならセドナさんの体を見て興奮するのは仕方ないと思う。許して下さい。
さらに、セドナさんは露骨に私を誘惑してくる。
子供をからかっているのだろうが、非常に辛い。
二人きりになると隣に座り、会話をしながら胸を押し当ててきたりする。
私の前に座り、私だけが見えるタイミングで股を開いて誘惑してきたりする。
それを見て、戸惑っている私の反応を小悪魔の様にクスクスと笑って楽しんでいる。完全にオモチャ扱いだ。はっきり言って、辛抱たまりません。
そして、最近ではプリシャがセドナさんに感化されたのか、真似をし始めて困っている。孤児院からプリシャを引き取って以降、掃除も練習も買い出しも、四六時中一緒にいる間柄で妹分としてしか見ていなかった。
それが、最近ではセドナさんの真似をして、やたらと腕を組んできたり意味もなく隣に来たり、お小遣いで露出の高い服等を買いはじめた。女性は11歳にもなるとませてくるのだろうか。反応に困る。
師匠に関しても変化が見える。
一人で魔法使いギルドへ赴き色々としているのは相変わらずだが、私に対しての態度が少し変わり始めているのだ。森での出来事以降はボディタッチが増えたが、それに加えて、事あるごとに私の部屋に来て一緒に寝ようと言ってくる。今までも、たまにはあった。しかし、今では本当に頻繁で、自分が可愛がられているのは嬉しいが、一人で「する」隙がなく困っている。
私の肉体は11歳で精通もまだない。
だが、すでに性欲は芽生えており性感もある状態だ。
家の中には歩く猥褻物と、色気づいた美少女と、愛する師匠。はっきり言うが、発散しないと頭がおかしくなる状況にいる。だが隙がない。朝起きてから四六時中プリシャと一緒。その後は、セドナさんに誘惑されつつ魔法の練習。夜には、師匠と同じ布団に寝る。とても幸せだが、いつ欲望が暴走するか分からない。
我慢の限界を感じ始めていた……。
そんな、禁欲生活を送り始めて一週間が経った。
コン コン コン コン
扉を叩く音がする。私は玄関へと向かい、扉を開いた。
「ご機嫌よう! お久しぶりですわ」
そこにいたのは、美しい銀髪を三つ編みにさせ両サイドより胸の方に垂らし、上品な立ち姿で荷物を持つ14歳のお嬢様だった。その年齢には合わない、豊満に育った肉体と立ち上るいい香りが特徴的だ。
「おや、お久しぶりです。ハリティさん」
「先日はお世話になりましたわ! 改めまして、お礼とご相談に伺いましたの」
「わざわざ、ご丁寧にありがとうございます。
お礼の件は以前に聞きましたが、相談とはなんですか?」
「グリーナ様はいらっしゃいますか? 直接相談したいのです」
「生憎ですが、師匠は出かけております。最近は留守の方が多いですね」
「……そうですの。残念ですわ。じゃあ、先に貴方から伝えておきますわね」
「はい、なんでしょうか」
「わたくしは、師匠を亡くしてしまいました。
このままでは、魔法使いになることができませんの」
「ええ……本当に心中お察しします」
「そこで、グリーナ様に相談しに来たのですが、私も弟子にして下さいな」
「……ふぇっ!?」
「弟子になるからには、どんな指導にも従いますわ。
勿論、ここで住込みで修行を積む覚悟です」
「も、もう部屋がないですから……どうかなぁ?」
「なら、引っ越せばいいじゃありませんの!」
――――今、私の理性への試練が始まろうとしていた。
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