勉強と筆記試験

――朝


「おはようございます」

「おはよー!」

「おはようございます。グリーナ師匠、今日もよろしくお願いしますわ」

「リョウ、プリシャ、ハリティ、おはようございます」

「……ふぁぁぁ、おはよう。貴方達は朝から元気ね」


今日も新居での一日が始まる。私とプリシャとハリティは、朝食後に手分けをして掃除や洗濯物の家事をする。一階には3部屋と大きいリビングに、台所と風呂場がある。ニ階には8部屋もあるので朝から忙しい。


私とプリシャは掃除を担当し、ハリティは渋々と洗濯物を担当する。それが終われば、3人で買い出しに出かけて昼食の準備を行う。その後、魔法の練習と勉強を居候のセドナさんに見てもらう。


セドナさんは師匠の師匠だけあって博識で教え方が非常にうまい。

プリシャは褒められてやる気を出している。人の扱いがうまいのだと思う。

ただ、隙を見て私にセクハラをしてくるのは辞めてほしい。

耳元で囁いてきたり、指と指を絡めて瞳を見つめるのは反則だと思う。


今は、セドナさんの経験からくる国家試験の傾向と対策を教えてもらい、勉強に励んでいる状況だ。食事を終えたら寝る前まで自習に取り組み、師匠と一緒か一人で寝る。そんな日々を送っている。


少し変わった所と言えば、ハリティが増えた事により女性の割合が増えてしまい、家中が女性の色香で溢れている事だろう。体が成長するにつれ情欲も強まり、この先が不安だ……。


――そうそう、家庭菜園については試験が終わってからにしようと思う。

まずは試験に全力を費やして、合格してからでも遅くはないだろう。

……合格、できるかなぁ。


「リョウ、次回の国家試験の日程が決まりましたよ」

「おぉ、ついに決まりましたか。いつ行うのですか?」

「今日から3ヶ月後、秋の月の10日から13日が筆記試験、

 15日から17日が実技試験です」


「3ヶ月後ですか……それまで勉強に励むとします」

「筆記の勉強だけじゃなく、

 実技試験も私とお師匠様で教えるから安心して下さいね」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


ついに、試験日が決まった。後は、後悔しないように努力をするだけだ。

教えてくれる師匠達に報いるためにも、絶対に合格しなくちゃいけない。

今からプレッシャーを感じているが、やるしかない。やるんだ。やるぞ!

そして、勉強と練習の日々を師弟とともに過ごした。



――秋の月



もう早いもので秋になりました。この国には夏と秋しかありませんが、少し涼しくなったでしょうか。何を基準に夏と秋を分けているのか調べた事がありますが、よく分かりませんでした。


文献曰く、シジール芋の花は夏にしか咲かないので、昔はそれを基準にした名残との説が多かったです。ちなみに、今日もシジール芋の紫の花が綺麗に咲いています。当てになりませんね。


試験日を間近に控え、私の学習は最終段階に入っている状況です。

魔法の習得も進み、実技試験が楽しみでもあります。


「……ふぅ。自分よりも3歳も年下の方に、

 先に魔法使いになられるのはショックですわ」


「まだ、合格すると決まった訳じゃないですよ。ハリティさんもすぐでしょう」

「それでもモヤモヤしますわ……」


ハリティも討伐隊に参加したが、その功績の精査に時間が掛かっている状態だ。

私の場合は、騎士団長が自らの報告書により功績を伝えてくれたのが迅速な賞状授与の決め手だった。


他の見習い魔法使いは、まだ功績の精査に時間が掛かるらしい。その要因には、討伐隊参加者に死亡者が多く出た事による情報の混乱にあった。誰がどの程度の魔物を何体倒したかなど、調査している余裕はなく棚上げ状態になっている。当初の予定では、死亡者は前衛を務める冒険者程度だと考えていたらしい。これは、国の浅慮によるミスだ。魔人を舐めすぎた結果である。


ハリティも師匠を亡くし、命懸けで戦ったのに報われない。まだ、各地の森では魔人との戦いが散発しており、終息して事態が収まるのは時間が掛かるだろう。


「試験勉強どう? 楽しい? 私は魔法の勉強以外はしたくないなー」

「プリシャ、そんな事だと魔法使いになれませんわよ」

「わかってるよ!」

「本当に分かってるのかしら。

 貴方が2番弟子なのに、納得がいかないのですが」

「……は?」

「私よりも魔法が使えない、年下の方が姉弟子なんて嫌ですわ」

「……じゃあ、出ていけば!?」

「……ムッ」


おおっと。プリシャとハリティが険悪なムードになって来ましたね。

早めに話を逸らさないと。


「所で、家庭菜園についての話ですが……」

「私は貴方が積極的に勉強をして、姉弟子に相応しい振る舞いをして欲しいと言ってるのです。それが出来ないなら、出て行くべきは貴方じゃなくて?」


「……後から弟子になったくせに! 偉そうにしないでよ!!」

「後から弟子になった者よりも、実力の低い己を恥じるべきでは!?」

「……っ!!」


はい。無理でした。


「ハリティさん。

 最近になり見習いとなった、11歳の子に要求が高すぎませんか?」

「貴方はプリシャを庇うんですか? 本人の為になりませんわ!」


「仰る事も分かります。プリシャの勉強など私が見てきたので、私の責任でもあります。ただ、出来れば長い目で見てあげてください」

「……わかりました。私が言う事はもうありませんわ」

「……うぅっ……ぐすっ」


プリシャが隣で泣き出してしまい、ハリティはバツが悪そうに部屋を出て行ってしまった。二人の仲はあまり良くないのでどうにかしたい。どうすればいいのか。


プリシャの頭を撫でてあやすのも慣れたものだ。数分も撫で続ければ静かになるので楽でいい。ハリティにも後でフォローしておこう。彼女だけ孤立したら可哀想だし、師匠が悲しむ。


その前に、気を取り直して勉強の再開だ。すでに秋の月になり試験日はすぐそこだ。今までの経験の全てを出せる様に、最後まで気を抜かずに気持ちを引き締めよう。その覚悟さえあれば大丈夫のはず。今までの努力は裏切らない。自信を持って挑もう……。



――秋の月、10日――



「おおおちおちちおち着け、素数だ、素数を数えるんだ……」


今、私はラーナの街中央広場近くにある試験会場にいます。

既に会場には多くの見習い達が席についており、刻一刻と迫る運命の時を待っています。受付に国家への功績を証明する賞状と師匠の紹介状を提出し、卵のペンダントを見せて受け付けが終わります。名前と席の番号が書かれてある試験番号の札を渡されて、私も指定の席に着き震え始めたところです。


「手のひらに人の字を三回書いて飲み込むんだ……」


――と、その時。

試験官が出入りする扉がガラガラと開かれ、会場内の見習い達に緊張による静けさが訪れた。


「全員着席! 自分の試験番号の札と同じ席についているな? 以後、お喋りは禁止だ。ルールを破ったものは、その場で失格とする。きちんと話を聞くように!」


プロレスラーのザン○エフの様な風貌のおっさんが、大声で説明を始めた。怖い。吸い込まれそう!


……あれ? すごい既視感を覚える。実家のような安心感がある。何故だろう。


「――以上で試験の説明を終わる! これからテスト用紙を配るが、裏返しのままでいろ! こちらの指示の前に、表を見たら即失格だっ! 監視の者がいるから誤魔化せると思うなよ!?」


何はともあれ緊張感が薄れた、全てを出し切るように挑もう。



――では、試験開始!!――



最初のテストは魔法の基礎理論、魔法の詠唱問題、魔法の応用問題などの魔法に関する問題が多く出された。次いで、国語と算術。やはり、見習い試験の時よりも難易度が上がっている。しかし算術は問題ない。礼儀作法や貴族のマナーに関する問題も出されたが、セドナさんに教えられていた為に助かった。


国語には、難しい単語や言い回しを使った文章が多かったが、重点的に勉強してきたので大丈夫だろう。嬉しい誤算は社会だった。未だに完全解決に至っていない魔物襲撃増加事件が影響したのか、魔人戦争に関する問題が多数を占めていたのだ。魔法使いは魔人戦争との関連を知っている人が大半のため、試験問題に取り入れたと推測される。


魔人戦争について 詳しい内容を師匠から教わっていた為、問題の全てに余裕を持って答えられた。手応えあり……!



――――こうして、13日までの筆記試験を無事に乗り越える事ができ私は喜んだ。



   待ち受ける、波乱の実技試験の事も知らずに……。

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