さきにあるもの
@kadomatsu
第1話
夏もとっくに終わりめっきり寒くなってきた頃に起きた忘れられない初恋の話。
「はぁ、息白くなってきたな」
俺は近所の高校に通うごく一般的な高校3年生。名前は健太郎。唯一他人と違うところは、今では絶滅危惧種になりつつある自他共に認める「車」馬鹿。エコカーやガソリンの高騰やらでめっきり車好きは少なくなった。
まぁそんな時代なんだろう。
親父が車屋という影響もあってか気付いた時には車が大好きになっていた。
4月生まれというのも幸いして、バイトで貯めてた金で、夏休みに免許を取ることが出来た。
「後は車なんだけど、金がねーよなぁ。ふーむ」
「なに?独り言?キモいから辞めた方がいいよ。あと、その格好は風邪引くよ!そんでもって馬鹿っぽいからやめた方が良し」
兄のことを馬鹿呼ばわりするのは妹の水希。同じ高校に通っていて、歳は15歳。生意気だけど勉学とスポーツ、そして家事までもそつなくこなす天才肌だ。
妹が家事をこなす事については俺が小学6年の時に両親が離婚して、俺たち兄妹は親父に引き取られた。親父は俺たちを育てるために休みなしで働いてくれた。家事もしていた時期はあるけど、なにをしても不器用で、妹が見兼ねてやり始めたのがキッカケで今に至る。
なんて解説していたら、先に行かれてしまった。アニキ的には妹と一緒に登校も悪くないんだが、あちら側がそうはさせてくれない。
今日もダルい一日が始まる。
「サボッてバイト入れてもらうかなぁ。・・・いけねー、また独り言」
夜になり、また台所では規則正しい包丁の音がする。
「水希はいい嫁さんになるよ」
「いや、うれしくないわ」
他愛のない会話。意外と嫌いじゃない。
「お父さん今日も遅いらしくて、先に食べててだってさ」
「そっか・・・」
親父無理してなきゃいいけど・・・
夕飯も食べ終わって居間で車の雑誌を見ながらゴロゴロしていると、
「健太郎!お前シビックのタイプR乗れるって言ったら乗るか?年式はちょいと古いけど、まだまだ走れるぞ!」
そんないい話があるのかと、一瞬固まってしまったが冷静に、
「タダってわけではないんでしょ?」
ごもっともな質問。
「30万で下取りしたんだけど、仕方ねーから貸しにしといてやるわ」
とんでもない好条件。
「乗った!その話!」
まさか高校生でマイカーを持つことが出来るとは、この時ばかりは親父に死ぬほど感謝したし、仏に見えた。
さっそく親父の仕事場に向かった。
色は白でまだまだ綺麗なボディのそいつはいた。
「まぁ初代のタイプRだからなぁ。年式たってるからボディのヨレとか直してやった方がいいかもな。ガソリン入ってねぇから、ガソリン入れがてら乗ってみろよ」
言われなくても乗りますとも。
「ぶぉーん」
1.6L直列4気筒のVTECエンジンが息を吹き返す。
「俺がこれからお前のオーナーだぜ!よろしくな」
水希に聞かれてたらキモいと言われるところだ。
肌寒い空の下ハイテンションでアクセルを踏み近くの峠道へ向かった。
思えばこの車があの人と出会うきっかけとなった。
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