惑星タトゥは独立するって言ってるの!
青樹加奈
プロローグ
第1話 プロローグ
惑星タトゥ火州州都ナニワは祝賀ムードに沸いていた。
初のタトゥ産スペースシップ「トキ」号が宇宙空間から、太陽系に向って出航したのだ。
火州州知事橋本は、「トキ」号が無事に出航すると、タトゥ全土と地球日本に向けてスピーチを行った。
「……惑星タトゥは地球日本政府に対し、初期開発の負債は十分に支払った。これ以上、支払う必要を私は認めない。惑星タトゥは本日をもって地球日本政府より独立する。国名はタトゥ合衆国。タトゥ国民による大統領選挙が行われるまで、私が臨時の大統領に就任する。……」
この独立宣言は、地球日本政府にパニックを、惑星タトゥに混乱をもたらした。
惑星タトゥ。
三十一番目に発見された地球型惑星。恒星エルダの周りを三百八十日かけて公転する、五つの大陸と海からなる地球によく似た惑星である。日本人
日本政府は惑星タトゥの開発に力を入れた。
五つの大陸はそれぞれ、北大陸、中央大陸、馬頭大陸、南小大陸、
日本政府は、温暖な気候帯に属していた中央大陸から開発を行った。中央大陸は地球のオーストラリア大陸とほぼ同じ広さの大陸である。
植民の第一陣はロボット達だった。ロボット達は、大陸の西に位置する火山島イデ(火山学者、井出久司博士より命名)に降り立ち、地熱発電所の建設を行った。まず、電力だった。電力の安定供給が実現すると、イデ島の対岸近くにある平野が開発された。同時に、ロボット達は各地を試掘して回った。結果、金、銀、ダイヤモンド、石油、レアメタルの各鉱山を見つけた。
さらに、ロボット達は現地の植物から稲によくにた種を探し出し、改良。人が住めるよう食料の生産を行った。食料の安定供給に成功すると、第一次植民隊が惑星タトゥに降り立った。植民は順次行われ、惑星タトゥの開発は順調に進んだ。
日本の法律上、タトゥは日本の飛び地として扱われた。新たに地球外領土省が設けられ、タトゥには地球外領土省の出張所が設置された。
タトゥ時間で百年が経過。最初に入植したロボット達が廃棄される頃、惑星タトゥの人口は三千万に達していた。
地球日本政府は植民星タトゥへの支配を次第に強化していった。惑星タトゥの土地はすべて地球日本政府の物だったので、開発の当初から人々は政府から土地を借りた。地代が格安だった為、人々の借地への不満はなかった。しかし、日本政府はタトゥの経済が発展するにつれ、地代を徐々に上げて行った。地代が高くなるにつれ、人々の不満は高まって行ったが、「惑星タトゥの更なる発展の為」と言われれば、応じるしかなかった。
こうして、タトゥの人々は幾多の税金の他、高額な地代を政府に納めなければならなかった。しかし、徴収された地代は、タトゥの開発ではなく、肥大した地球日本政府の国家予算を補う為に使われた。その結果、地球日本の人口八千万人(人口の六割が六十歳以上)を惑星タトゥの人口三千万人で養うという事態が生じた。しかし、この事実は巧みに伏せられ人々には知らされなかった。
惑星タトゥの開発は、結局、中央大陸のみとなった。税収や地代のほとんどが地球に送られる以上、他大陸開発へ回す予算がなかったのである。
中央大陸は行政上、最初に地熱発電所が開発されたイデ島の火山に因み、火州と名付けられた。
第十二代火州州知事橋本一輝は地球日本で生まれたが、祖母がタトゥ出身だった為、祖母からタトゥの様子を聞かされて育った。一樹はタトゥへ憧れた。成人して地球外領土省の役人になった橋本は、惑星タトゥへの勤務を希望、許可された。地球外領土省タトゥ出張所職員となった橋本は、惑星タトゥと地球日本との関係を正しく理解した。以来、橋本は地球日本政府からのタトゥ独立を目指した。この計画実行の為、橋本は身を粉にして働いた。
惑星タトゥでは大抵の物が手に入ったが、唯一、スペースシップだけは、本国に頼らざるを得なかった。橋本はスペースシップを現地生産出来る基盤作りから始めた。スペースシップさえ出来れば、地球日本と決別してもなんら問題はなかったのである。
橋本は、出張所の上司、地球日本の国会議員に働きかけ、すでに誘致されていたが細々とした規模だった主要産業を、減税、交付金という形で援助、発展させた。この政策は日本政府から渋い顔をされたが、地球からの輸送を考えると現地で生産した方がはるかに安上がりだった。
産業が発展するに従い、橋本の出張所内での地位は徐々に上がっていった。最初は渋い顔をしていた地球日本政府も税収が増えると何も言わなくなった。橋本が出張所の所長を五年務めた時、チャンスが回ってきた。当時の知事が脳梗塞で倒れたのである。日本政府は、副知事ではなく出張所所長として辣腕を振った橋本を州知事に抜擢した。
更に十年の月日が流れ、橋本の悲願だったタトゥ産スペースシップがついに完成した。
一国の技術力を図る指標はいくつかあるが、一つの工業製品を自国のみで生産出来るというのも指標の一つである。二十世紀の車や飛行機。二十一世紀の航空機や宇宙ロケット。二十二世紀の宇宙船、ロボット。二十三世紀の惑星間スペースシップ。
タトゥ産スペースシップ建造の成功により、タトゥの技術力の高さが実証され、もはやタトゥが地球日本に頼る必要はまったくなくなったのである。
そして、スペースシップ「トキ」号の出航を祝うパーティの席上で、火州州知事橋本は独立を宣言、臨時大統領に就任した。
地球の日本国政府はただちに騒乱罪を適用、現地火州警察に、州知事橋本の身柄を確保するように指示。さらに、反乱に備えて自衛隊を差し向けようとした。
しかし、大統領となった橋本はこういった。
「我々は既に地球日本国の領土領民ではない、別の国である。従って我が国に攻め入る行為は侵略行為にあたる。あなた方は武力をもって我が国を征服しようというのか?」
それに対し地球日本政府は反論した。
「詭弁だ。惑星タトゥは他国ではない。我が国固有の領土である。従って、あなたには騒乱罪が適用される」
「わが国は既に貴国より独立した。他国である以上、地球日本の法律は我が国には及ばない。貴国の騒乱罪は適用されない」
「惑星タトゥは日本固有の領土である! 従って我が国の法律が適用される! 今すぐに、独立宣言を撤回しろ! 宇宙自衛隊を差し向けるぞ!」
地球日本のスポークスマンはヒステリックに叫んだ!
「では、あなた方は自国民に軍隊を差し向けるのか? 自国民に対し、発砲するのか?」
「自衛隊は軍隊ではない!」
「誰がそんな虚言を信じる。いや、日本人だけは、信じているな、自衛隊は軍隊ではないと。しかし、我が国では、あなた方の自衛隊を軍隊と呼ぶのだ。あなた方の選択肢は一つだ。我が国の独立を認める。それだけだ。では、独立承認の報を待っている。ごきげんよう」
通信は一方的に切られた。
独立を周到に準備していた橋本は、警察やタトゥに駐留していた自衛隊を総て掌握していた。地球日本政府が現地警察に橋本の身柄の確保を命じたが、その命令は無視された。
橋本は地球日本政府による惑星タトゥ搾取の仕組みを連日テレビで流させ、ネットにアップさせた。惑星タトゥの人々は怒り狂った。
が、しかし……。
地球日本政府はいつまでたっても惑星タトゥの独立を認めようとしなかった。
そして、どこにでも、保守固執の人々はいる。タトゥでも独立に反対する人々が各地でデモを起し、独立賛成派とぶつかった。社会秩序は混乱し始めていた。
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