エピローグ

第30話 エピローグ 一

 凛達は上田侍従にナニワのヒノヤマ神社で飛行艇から降ろしてもらった。

 ヒノヤマ神社の人々は凛達の帰還を喜んだ。

 凛達が米沢広司に拉致された日の夕方、ヒノヤマ神社の巫女、鹿園寺茉莉子ろくおんじまりことキラは夕飯に現れない三人を不審に思った。が、刈谷仁のロボットカーもなくなっていたので、何か急用があって出掛けたのだろうと思っていた。しかし、いつまで経っても連絡がない。連絡を取ろうと通信端末モビで呼び出してみても、つながらない。翌朝、飛行船の駐機場に行ってみるとアマノハシダテ号が無くなっている。アマノハシダテ号と連絡を取ろうとしても、こちらもつながらない。そのうち、飛行船が火をふきながらイデ島に落ちたらしいという噂が流れた。二人は警察に連絡したが、イデ島は立ち入り禁止になっていたので、警察も何も出来なかった。

 ヒノヤマ神社の人々は、凛達が死んだのではないかと心配していた。そこに元気な凛達が、宮家の飛行艇に乗って現れたのである。凛達は歓声を持って迎えられた。

 凛達はしばらくヒノヤマ神社に滞在、今回の騒動の疲れを癒した。



 一方、米沢広司は、アンドロイド兵によって救出されていた。

 もともと災害救助用に作られたアンドロイド兵は救難信号を無視出来なかった。刈谷仁が壊れていると思って捨てた救難信号発信機は、バッテリーがあがっていただけだった。西九条通兼が飛行船と共に購入したパラシュートは倉庫や棚に押し込められたまま、十年間一度も陽にあたっていなかった。結果、バッテリーが上がり刈谷が使おうとした時、動かなかったのである。だが、刈谷に捨てられ、陽にあたった発信機はソーラーエネルギーを得て動きだした。

 アンドロイド兵は米沢をイデ島の病院に運んだ。病院の職員は驚いたが、米沢が重症だったのですぐに治療を開始した。職員が気が付いた時には、アンドロイド兵はすでにいなかった。

 米沢広司は、戦闘終了後ナニワの病院へ転院した。別荘での戦闘で負傷者が多数出た為、病院のベッドが足りなくなったからである。

 米沢がナニワ総合病院に入院しているとニュースで知った刈谷は、米沢を見舞いに行った。

 刈谷が米沢の病室に行くと、中から女の声がする。刈谷はドアを開けるのをためらった。

「……まさかあんたが、テレビに映ってるなんて思わなかったわよ。別荘でアンドロイド兵相手に戦ったんでしょ?」

「いや、その……、まあ、そうだな」

「すごいわねぇ。あんたはやっぱり何かやる人だと思ったのよ」

「それより、おめえ、どうしてここに?」

「うーん、あんたが入院して困ってるかなって思って。はい、これ、着替え。これからは私が毎日来てあげるわ」

 その時、刈谷の後ろで咳払いが聞こえた。

「通していただけますか?」

 いつのまにか刈谷の後ろに壮年の男が立っていた。

「ああ、どうぞ」

 刈谷は脇によけ、男を通した。

 病室に入った男は米沢に名前を名乗り、弁護士だと言った。

「弁護士、弁護士が何故ここに? それより、おい、そこに居る奴、出て来い!」

 刈谷は苦笑しながら病室に入った。

「なんだ、おまえか」

「いや、奈津子さんがいると思わなくて、お邪魔じゃないかと思ったんだ。これ、お見舞い」

 刈谷は花を差し出した。

「花? 気がきかん奴だな。奈津子、これ、頼む」

 奈津子は花を持って病室の外に出た。

 弁護士が言った。

「内密な話なんですが、お人払いして頂けますか?」

「構わん。こいつは……、ダチだからよ」

 米沢は照れくさそうに言う。

 弁護士は近くにおいてあった椅子を引き寄せ座った。アタッシュケースから電子ペーパーを出す。右の端をポンと触ると、字が浮かび上がる。

「えー、あなたの母方のお爺様が地球にいらっしゃいまして、昨年、宝くじに当たりました。賞金は十億クレジットです。しかし、お爺様は驚きのあまり心臓発作を起して死んでしまったのです。

 私、お爺様から、生前、お孫さんであるあなたを探すよう頼まれていました。しかし、惑星タトゥにいるのはわかっていましたが、どこにいるかわからない。探していた所に、あなたがニュースに映りまして、おかげで居場所がわかり、こうして参った次第です。

 さ、お受け取り下さい。お爺様の遺産です。相続税を引きましても五億クレジットはあなたの物です」

「五億クレジット! な、何かの間違いじゃねえのか?」

「いいえ、間違いありません。僭越ではございましたが、先程、病院の職員の方にお願いして、お爺様のDNAとあなたのDNAを比較して頂きました。あなたは間違いなくお孫さんです。さ、こちらにサインをどうぞ」

 米沢は唖然としながら、弁護士の出す電子ペーパーにサインをした。

「これで、手続きが終了しました。あなたの口座にまもなくお金が振り込まれるでしょう。ご確認下さい。では、私はこれで」

 弁護士はアタッシュケースの蓋をしめ、軽く会釈をして帰っていった。

 いつのまにか部屋に戻って来ていた奈津子が声をあげた。

「ごおくくれじっと! 五億クレジット! きゃあ、素敵、あんた、大金持ちになったんだね!」

 奈津子は花を投げ入れた花瓶を持っていたが、刈谷に押し付け米沢に抱きつく。

 米沢の惚けたような顔が真っ青になった。占い師の声がよみがえる。

(あんたは遺産を相続する。だけど、奈津子さんがあんたの財産を食いつぶす)

「な、奈津子! 悪い! 俺、おまえと別れる」

「ええ! どうして? あんた、私にベタ惚れだったじゃない。ね、結婚したげるからさ」

 奈津子が米沢の顔に豊満な胸をぐいぐいと押し付ける。

「や、やめろ! おい、刈谷、た、助けてくれ!」

 刈谷は、くすくすと笑いながら「お幸せに!」と言って病室を出た。

 刈谷の後ろで米沢のわめく声、奈津子の甘える声が響いていた。




 佐原和也常務と腹心の部下ゼブラ(本名:菅原直樹)は業務上横領の罪で捕まった。

 二人は会社のダイヤを横流ししていたのである。備品倉庫には壁の一部に隠し戸棚が作ってあった。そこにゼブラが研磨前のダイヤの原石をいれる。それを米沢が取り出し、街に運び、秘密工場で研磨していた。

 凛の両親は偶然その事実を知ったのではないかと警察では見ている。秘密を知ったので事故に見せかけて殺したのではないかと、警察は二人を追求している。

 二人はまもなく自白するだろう。




 米沢広司もまた起訴された。米沢は手にした大金で優秀な弁護士を雇った。

 弁護士は米沢広司に事件の証人となるよう勧めた。殺人に関わっていないからである。横流しダイヤの運び屋に使われただけだった。結果、検察との司法取引が成立。無罪放免となった。

 自由の身になった米沢広司は、田沼奈津子と結婚。

 米沢は奈津子の花嫁姿に「おまえに財産を食いつぶされるなら、本望さ」とつぶやいていた。

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