第27話 戦闘
一方、凛と
凛達は、三本木大将と橋本大統領の会談が行われるニュースを聞いていなかった。海岸で空を飛んでいく飛行艇を見て、初めて、イデ島にアンドロイド兵が来たと知ったのである。
海岸にいる所を捕らえられた二人と一台は、三本木大将が制圧した橋本大統領の別荘に連行された。スパイ容疑である。
「私は宇宙自衛隊、三本木大将副官木下といいます」
三本木大将は橋本大統領の別荘を一時的に宇宙自衛隊タトゥ本部とし、セレモニーホールを司令室とした。凛達はセレモニーホールに隣接した小会議室で木下副官から尋問を受けた。
「ワシはダザイフテンマン宮の宮司、
「その宮司さんが何故、こんな所に?」
二人は正直にいままでの
「では、お二人の身元の確認を取ります。君、ダザイフテンマン宮とハカタ技能工高に連絡を取ってくれ」
「待って!」
凛は
(ですが、権力を持った人と多数お知り合いですし、みなさんお上の発言を蔑ろにはしません。さ、持って行きなさい。困った事があったら連絡するんですよ)
今がその時だと凛は思った。
「あの、キョウトにお住まいの
「なんだって! 何を言い出すんだ。畏れ多くも
「とにかく、上田侍従に連絡して下さい。ロボット舞のシチューの持ち主、相沢凛がスパイ容疑をかけられて困っていると。シチュー、上田侍従の名刺を出して!」
「お嬢様、こちらに」
シチューが名刺を風呂敷包みの中から取り出す。凛はシチューから受け取った名刺を木下副官に見せた。木下副官は、それを凝視して言った。
「ここで待っていなさい」
木下副官が三本木大将を呼びに会議室を出て行った。凛と宮司はそのまま待っていた。しかし、木下副官はなかなか戻って来ない。二人がどうなっているのだろうと思っているとドアが開いた。
刈谷仁がアンドロイド兵に伴われて入ってきた。
「仁!」
「仁君!」
凛は走りよった。仁も駆け寄る。二人は抱き合った。互いをしっかりと抱き締める。
「凛、無事だったんだね。シチューが一緒だから大丈夫だと思っていたけど、心配してた」
「仁も無事で良かった。飛行船が落ちて行ったから、ダメかと思った」
ゴホンと咳払いがする。
仁が凛を離した。
「西九条さん! 宮司さんも無事で良かったです。シチュー、君がいてくれてよかったよ。一体どうやって飛行船に乗っていたんだ?」
凛がシチューから聞いた話をした。
「……というわけでね、シチューは飛行船の底に張り付いていたんですって!」
「へえー」
「米沢は? あいつはどうしたんじゃ。船と一緒に落ちたのか?」と宮司。
「……いろいろあって、あいつは腹に怪我をしてね。僕がパラシュートで脱出させた。森の中に落ちて、途中まで担いできたけど、あいつが置いていけって言うんだ。救援を呼んで来いって。仕方ないから、僕は一人で降りて来たんだ。川沿いに海岸まで降りた所で、アンドロイド兵に捕まってさ。米沢の事はあいつらに言っといたから、今頃救助されてると思う」
「ふーん、あんな奴を助けるなんて、あんたってホントお人好しね!」
「ああ、わかってる」
「『情けは人の為ならず』じゃ。人を助ければ、回り回っていい事につながるぞい」
「いい事ね。期待せずに待ってるさ」
仁は肩をすくめた。
銃声が辺りに響く。
「待てー!」
会議室の外で騒ぎが起きた。凛達が窓から覗くと、誰かが必死に走っている。
「橋本大統領だ!」
仁は窓を破って追いかけた。
橋本大統領は三本木大将から銃を奪って大統領専用宿舎へ向っている。アンドロイド兵が橋本を撃とうとするのを三本木が止める。
「撃つな! 生きたまま捕らえろ!」
仁は木下副官に飛びかかり、銃を奪った。橋本大統領の後を追う。
凛が叫ぶ。
「シチュー、G式!」
G式とは昆虫のように六本の触手を使って走る走法である。その格好がゴキブリに似ている所からG式と名付けられた。
凛の命令一下、触手を使って横になるシチュー。シチューの背に股がる凛。西九条通兼を引っ張り上げる。
「走って!」
シチューが窓から飛び出した。六本の触手を使い、しゃかしゃかと走る。
橋本大統領は迫って来るアンドロイド兵に銃を発射した。もう一体は仁が応戦する。
「ここは僕が守ります。早く逃げて!」
「君は?」
「あなたの味方です!」
凛が追いついた。シチューから飛び降りる。
「早く乗って!」
「彼らは味方です。さ、早く!」
凛は大統領がシチューに乗るやいなや振り返った。息を吸い込む。
「惑星タトゥは独立するって言ってるの!」
凛の雄叫びが響き渡った。
一瞬、あたりがシーンとなる。
追手が全員耳を塞いで立ち止まった。
それを見ながら、凛と仁はゆっくり後ずさった。とうとう、二人が身を翻した。
再び怒声を上げて走り出す追手。
大統領専用宿舎に飛び込み、入り口を締める二人。その辺りにあった家具を扉の前に倒し簡単なバリケードを作って敵を足止めする。廊下の端に宮司と大統領の姿が見えた。
「こっちだ」
追いついた二人に、橋本大統領が言った。
「地下に防衛室がある。そこに行く」
防衛室は三つの扉で守られている。一階にある地下への第一扉。地下通路にある第二の扉。三番目は防衛室の入り口である。
大統領は会議室の壁に隠された地下への第一扉を開けた。地下へ続く階段が見える。
「早く!」
凛達は大統領に促され、次々に階段を駆け下りた。大統領が扉を閉めロックする。
その扉に敵兵が撃つ光線銃があたる。
大統領は階段を駆け下り、地下の廊下を走って防衛室に飛び込んだ。第二、第三の扉を次々に閉じて行く。
防衛室には別荘を管理する機器が並んでいた。数十台のモニターに監視カメラの映像が映る。
セレモニーホールの地下に降伏したタトゥ兵が押し込められていた。
大統領はコントロールパネルを操作して総ての鍵を解除した。マイクに向う。
「タトゥ兵の諸君。その部屋の鍵は解除した。私は今、専用宿舎にいる。三本木大将は君たちの真上だ。私はこれからアンドロイド兵と戦う。共にタトゥ独立の為に戦おう」
「おー!」
タトゥ兵達は、開いたドアから大挙して飛び出した。次々に銃を奪い、アンドロイド兵の攻撃に応戦する。戦闘の様子が監視カメラに映る。
防衛室には、対アンドロイド砲のコントロールパネルがあった。橋本大統領がその前に座る。アンドロイド兵に照準を合わせ、引き金を引く。
仁と凛もコントロールパネルの前に座った。アンドロイド兵を次々と倒していく。
「君たちは、何故ここに?」
橋本大統領が、刈谷仁に尋ねる。
「イデ島への上陸は出来ないようになっていた筈だが」
「実は、昨日、飛行船が事故でイデ島に落ちたんです」
「なるほど、それでか。君たち名前は?」
刈谷仁が言った。
「僕はフリーライターの刈谷仁です。あの、お聞きになっているかどうかわかりませんが、都賀平にステルス型アンドロイド兵が来てるって、ナニワ日報に知らせたのは僕なんです」
「そうか君か、それで」
「あ、こちらはハカタ技能工高二年生の相沢凛、ダザイフテンマン宮の宮司、
「そうかね、ロボットの奉納舞とは珍しい。平和になったら、ぜひ、見たいね」
「あの、今回の件、記事にさせてもらってもいいでしょうか?」
「ああ、いいとも。とっておきの話があるぞ」
「仁、アンドロイド兵が!」
モニター画面にアンドロイド兵達が知事専用宿舎に入って来る様子が映し出された。兵達は次々に部屋を改めて行く。とうとう、第一の扉が突破された。モニターを見ていた宮司が叫ぶ、
「おい、アンドロイド兵が第二の扉まで来たぞ」
凛は防衛室の扉をわずかに開けた。隙間に銃をセット、アンドロイド兵に備えた。
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