1000文字の恋物語(2015年まで)

叶冬姫

恋愛サプリ

 部屋の明かりを消して、瞳を閉じた途端、梢はあっと思った。

―サプリメントを飲むの忘れた―

 梢にはこういうところがある。ついうっかり、何かを忘れてしまうのだ。

 今日だってあまりにも疲れてしまったので、いつもなら適当に済ませてベッドに直行しているのところを、ゆったりとアロマのバスにつかり、肌だって念入りにお手入れしたというのに。

 いつもは飲み忘れないサプリメントを飲み忘れてしまった。

 しばらく逡巡して、梢はそのまま瞳を閉じ続けることにした。

―別に、飲まなくても死ぬわけじゃないし。―

 それよりも、せっかくいい気分でベッドに潜り込んだのに、もう一度灯りを付けて、サプリメントを取り出して…この気分が壊れるが方が嫌だ。

『寝て起きればたいがいのことはいい方向に向かっている。』

 これは梢の持論ではなく、梢の昔付き合っていた彼氏の持論だ。別れて四年にもなるのに、いまも梢の心に残っている。今まで梢と付き合ってきた男の子たちは、不思議となにか一つ『真実』を持っていた。そして惜しげもなく梢にそれを与えてくれた。

 与える側はそれを意図していなかったであろう。受け止める梢の問題なのだ。

―私の問題。―

 そんなことは百も承知で、梢は思う。今の恋人を好きだと思うのに、『真実』を見つけられないのは。梢だけの責任であろうか。会えば諍いとまではいかなくても、良い雰囲気を保つことが出来ず、どこか気まずさだけを残して帰路に着く。真実を見つけきれないのは疲れきってるせいだろうか。それとも、恋愛中は気づけないものなのだろうか。

ーああ、やめ。―

 考えても仕方のないことである。眠って、起きてそれからだ。

 恋愛なんてサプリメントと同じ。

 あったほうがいいけれど、なくても困らない。

 時には忘れてもいいものなのだから。

 そう思って、梢は深呼吸を繰り替えし、眠りについた。


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