ザ! 配達! DASH!! (4)

「うん、まるでヒビキ君の真似をしているようだね……」

「――ッ!?」


 背後から突然掛けられた声に振り返る。

 そこには、気配すら感じさせることなく、社長が立っていたのだった。

 神と思しき立場の、『OZ』の社長が。


「ビックリ……した。あんた、いつの間に来ていたんだ」

「ここは私の会社だからね。別に誰の許可を取る必要もないだろう」

「まあ、それはそうだろうけど」

「それにね。神は、どんな場所にでもいるものだよ?」

「……自分で言うからには、本当なんだな」


 紺色のスラックスに白いシャツを着て、自らを『神』だと名乗る中年男性。

 端から聞いていれば、ただの胡散臭い言葉にしか聞こえない台詞。

 頭がおかしくなったとしか思えない台詞だが、しかしそれは確かなのだろう。

 災害配達人の言っていた、神。

 俺達をいいように使って、世界の行く末を動かしていた、神。

 そいつが、今俺の目の前にいる。


「クソッ!」


 言いたいことは山ほどあるし。

 もう数発殴っておきたいところでもある。

 しかし、今はそんなことをしている場合じゃないことも分かっている。

 だから、思わず握ってしまった拳を開きながら、問いかける。


「おい、どうしてコハネが動き回ってるんだ?」

「ふむ?」

「あいつは、怪我をして、治療中なんじゃなかったのかよ。それが、あんなに包帯まみれになって暴れて……大丈夫なんだろうな」

「大丈夫か大丈夫じゃないかと問われれば、それはまあ大丈夫ではないね」

「はぁ? じゃあ、何で……」

「それがコハネ自身の望んだことなのだから、仕方がないさ」


 社長は笑顔のまま、一切表情を変えることなく告げる。


「コハネは、自らの身体に異常が起きているのをハッキリ自覚していながら、私に告げた。ヒビキ君、パートナーである君の為に行かなければならない、とね」

「あんた、それをあっさり聞いたって言うのか?」

「ああ、しょうがない。彼女はガジェットであるが、我が社の社員でもある。社員の求めは出来る限り応じるのが、社長である私のポリシーだからね」

「社長だとか、神だとか、忙しい奴だな、あんたも」

「ふむ。ヒビキくんの口調も、大分砕けて来ているね。本来なら、もう少し言葉遣には気を使って貰いたいのだが、今は機嫌がいいから、不問にしよう」


 そこで社長は言葉を切ると、向こうの方で戦っているコハネの方を見て。


「見たまえ、ヒビキ君。私がコハネに学んで欲しかったのは、ああいう戦い方だったんだよ!!」


 いきなり、大声で叫んだのだった。

 耳鳴りする程の大声が、地下倉庫に響く。

 思わず耳を押さえるが、社長は手を大きく広げて、更なる大声で叫ぶ。


「彼女は、その真っ直ぐな性格からして、どうしても直情的な行動に偏ってしまう。それは確かに美徳ではあるが、それだけでは対処出来ない問題というものも存在する! ただ真面目なだけでは、決して越えられない壁というものが!!」

「はぁ!? あんた、いきなり何を言って……」

「しかし、私の教えでは、どうしても真面目な思考に偏ってしまうことは避けられなかった! 人間らしい思考回路を形成する為には、基本を疎かにすることは出来ないからね! 自然、彼女が獲得するのは、あくまでも良識的なものとなってしまう! そこから一歩踏み出す、応用の仕方というものは、中々獲得することが出来なかったのだよ!!」

「おい聞けよ」

「そこでヒビキ君! 君だ!!」

「……俺?」

「そうだとも! 真っ直ぐではない道、小狡くてゲスで外道なやり方を教える為に! 私は、コハネのパートナーとして君を選んだんだよ、苅家ヒビキ君!!」


 誰が小狡くてゲスで外道だって?

 俺か。まあ俺だな。

 否定はしないけれど、あんたに言われるのは正直ムカつくぞ。


「真面目に生きているだけでは、決して学べないこと。教科書通りの教えでは届かない方法。それを実際に学ぶことが出来るのは、君の下しかなかった! そう、どんな卑怯な手でも躊躇わずに使い、あらゆる方法を肯定し、勝利の為に何もかもを利用し使い尽くす、君にしか!!」

「失礼過ぎるだろオイ」

「君の捻じ曲がりに捻じ曲がった思考回路は、実に素晴らしい興味深い! 人間の負の部分を分かりやすく表現する性格、これこそが、外道のやり口を学ばせるのに最適の存在だと、私は確信したとも!!」

「おう分かった。喧嘩売ってんな!?」

 

 黙って聞いてりゃ、何を言い出しやがった、この社長。

 要するに。


 人型のガジェットであるコハネに、人間的な感情を学ばせる為に選ばれたのが、俺という存在で。

 何を学ばせるかと言えば、それは俺の、どうしようもなく捻じ曲がった、人間的にダメな部分ということ。

 結局、俺に喧嘩を売っているのである。

 俺こそが人間のダークサイト。

 俺こそが人間の闇の具現化だとか、そう言われている訳なんだからな!


「そこまでは言っていないが」

「うるさい黙れ。俺の心を読むな」

「何を言う。存分に誇るといい。君があまりにも卑怯だからこそ、コハネのパートナー足り得たのだと!」

「誇れるか!! そんなことを誇らしく言えるか!!」


 単に俺の性格のアレさを喧伝しているだけじゃねえかよ!!

 こいつ、本当にもう殴ってやろうか。

 やる時はやるんだぞ。本当に。


 しかし悔しいが、社長の見立ては、正しかったということのか。

 コハネはそんな俺のやり口を、確かに学習している。学習してしまっている。

 その成果は、分かりやすく目の前に現れていた。

 これまでにない姑息なやり方で、サツキの隙を突いて攻撃を加えるコハネ。

 それは、今までの直線的な動き一辺倒だったコハネでは成し得なかったものだ。

 全ては、俺の卑怯さのおかげと、そういうことなのか。 


「何、安心したまえヒビキ君」

「何を安心しろって言うんだよ、だから」

「君が選ばれたのは、卑怯でズルくて姑息でダメ人間だからというだけではない」

「俺、まだ悪口を盛られなきゃいけないの? もう良いよ」

「君を選んだ理由は、もう一つある。他でもない、君の妹、苅家サツキさんに関することだ」

「……何だと?」


 そいつは聞き捨てならない。

 悪口からの流れで言われると説得力が無いような気がするが、しかしサツキのこととなれば、俺は真剣に聞かざるを得ない。

 そう、そう言えば、確認しなければならないこともあるのだ。

 あの災害配達員が、サツキに投与した薬。

 サツキがあんな化け物になった、その切っ掛けとなった薬。

 あれは、俺が社長から受け取った薬入りの小瓶と、色違いのものだった。


「おい、災害配達人の奴が持っていたあの青い小瓶は何なんだ。あれを投与した時から、サツキは変になったんだぞ」

「あれは薬だよ。ヒビキ君に渡した赤い小瓶と同じく、青い小瓶の中身もまた、病を治す為の薬だ」

「そんな訳があるか。あんな化物になるなんて、そんな薬があってたまるか」

「あの薬は、人災としての活動を抑える為のものだったんだよ」

「……また、人災かよ」


 人災という言葉。

 サツキを人間扱いしていないその言葉に怒りを覚えるも、聞かないといけない。

 妹が、サツキが、どうなってしまっているのか。

 何故、あんな姿で、コハネと戦っているのか。


「最初に断言しておこう。苅家サツキ君。彼女は間違いなく、苅家ヒビキ君、君の妹。人間だ。しかし人間であると同時に、あまりにも巨大過ぎる可能性を抱えてしまった」

「その可能性が、人災だって言うのか?」

「そうだ。人でありながら、その身に宿る巨大過ぎる力の為、同時に災害としての可能性を秘めている者。ここで言う災害とは、世界を破滅の方向へと誘導するものの総称であり……サツキ君は、そんな災害へと成り果てる未来を、持っている」

「災害……災害配達人が配達しているものか。それも結局、あんたが裏で操っているんだろうが」

「否定はしないよ。確かにそちらも、私が管理しているシステムの一角だ。適切な災害を派遣することで、その世界の段階を調節すること。私が重要視するのは、あくまでもトータルで見た世界の均衡。その為に、災害を効率的に使用し、破滅という道を選ぶことも、ある」

「そうかい」


 俺如きには、とても及びもつかない話だ。

 人間という小さな尺度では、全く測れないような遠い話。


「しかし彼女、苅家サツキ君。人災と呼ばれている存在については、事情が異なる。災害と冠されているが、しかし他の災害とは一線を画している。あれこそは、あらゆる人間の内から生まれ得るもの。人間誰もが、そうなってしまう可能性の種子を持つ。だから、私がその発生をコントロールすることは出来ない。人そのものの生き方を動かすことは、いくら神であっても不可能なことだからね」


 神にでも、出来ないことはある。

 やはり万能ではあっても、全能ではないと、そういうことなのか。


「そう、人災とは、全ての人間に起こり得る可能性の名だ。人間としての機能を、究極の形で行使してしまう姿。その力は、ただの災害を遥かに超越する。場合によっては、神の如き力を持つ者も現れるだろう」

「俺にその力があれば、あんたをしこたまぶん殴ってやるんだがな」

「安心したまえ、君にその可能性はない」

「さいですか」

「絶対にない」

「二度言う必要ないだろ」

「人災とは、つまり神の思惑を超えた存在ということだ。そんな、人災という災害の発生自体を止めることは出来なくても、発生するタイミングを事前に知ることならば、私にも可能だ。だからこそ、こうして手を尽くした」

「じゃあ、サツキが、人災としての力に目覚めることも、知っていたのか?」

「知っていたからこそ、あらかじめ対策を取ったということだよ、苅家ヒビキ君。『OZ』の病院にベッドを用意し、しかるべき監視を施したりね」


 社長は、試すかのように俺を見る。


「だから、あんたは全てを知っていたのか……」

「元々彼女が寝込んでいたのは、病などではなく、人災としての目覚めに際して身体を慣れさせる為だった。そのまま十分な期間が経てば、完全なる人災として目覚めていただろうね」

「じゃあ、サツキが目覚めなかったのは、病気じゃなかったっていうのか」

「そうだ。そして、そのまま放っておけばいずれ大変なことになってしまう。だから、私が渡した赤と青の薬を投与することで、苅家サツキ君を、人災としての目覚めへと強引に導かせた」

「それが、今なのか」

「本来の人災としての目覚めではないから。大幅に力を制御された状態、中途半端に力を得ることになるんだ。今の状態の彼女であれば、十分に対処が可能だ。その為に、私はもう一つの手段も用意していたのだから」

「……コハネのことか」


 社長は、神は、大きく頷いた。


「私が、自ら人災を止めることは、出来ない。その発生を止められないのと同様に、それを滅ぼすこともまた、私には出来ない。神が直接干渉することは、全ての世界のバランスを著しく欠いてしまうからね。だから、誰かに私の代わりをやって貰うしかなかった」

「だから、災害配達人とやらを使っているのか。いや、チートアイテムだって、俺達だって……」


 神の力は、あまりにも偉大で。

 その力あれば、どんな難題でも軽く乗り越えてしまうだろう。

 何故なら、神だから。

 しかし、神にも出来ないことが確かに存在する。


 だから、俺達がいる。

 チートアイテムを介して、世界の問題を解決する、俺達がいる。

 

 それに、奴等がいる。

 災害を介して、世界に適切な滅びを招き入れる、奴等がいる。

 

 全ては、神が神であるが故。

 神では手の届かない場所。

 神が神たる力を持っていてもなお、神が干渉をすべきではないものに対して、間接的に干渉する為の機構。

 それこそが、俺達の存在する意味であり。

 多元世界干渉通販会社『Otherwhere Zone』の存在理由。

  神の名の下に、神の出来ないことを、神に代わって行うこと。

 要するに、神の下請け業。

 全ては、その為に用意されていたのだ。


「……あんたの、神の言い分は、分かった」

「分かってくれたかい」

「神とか名乗っていても、どうしようもない程に不自由で、その尻拭いをさせられているのが俺達なんだな」

「偉大なる神の尻拭いと聞けば、少しはやる気が出ないかね?」

「出るか、そんなもの」


 何で、おっさんの尻ぬぐいをして喜ばなければならないのか。

 本当に気持ちが悪いので止めて下さい。


「人間を相手にした場合、神の手による干渉が出来ないっていうことは、分かった。じゃあ、コハネは何なんだ。あいつは、あんたが造った、人型のガジェットなんだろうが。そんなコハネが、人災と渡り合えるのなら……」


 人に似て、人ではないもの。

 造られたものに、そこまでの重荷を背負わせるというのなら。


「だったら、全部それで済ませれば良いじゃねぇか。俺達や、災害配達人とやらの手を借りる必要なんてない。コハネみたいな存在を、都合の良い兵隊としていくらでも作って、そいつらに全部やらせればいいじゃねえか」

「……ふむ」


 俺の問いに、社長はすぐには反応を見せなかった。

 そのまま、しばらく経ってから、手をポンと打つ。


「いや、苅家ヒビキ君。私は君を見損なっていたようだ」

「はぁ? いきなり何を言い出すんだ?」

「君は、私が思っていたよりもずっと優しい人間なのだね」

「……はぁ?」


 どうして急に褒められるんだ。

 優しい? 優しいって何だよ。

 というか、神から直接褒められるなんて、世界中の宗教関係者が卒倒するような事態なのではないだろうか。


「何言ってんだあんた。気持ち悪いぞ」

「別に、謙遜しなくてもいいんだよ」

「謙遜なんてしてねえよ。純度100%で気持ちが悪い。見ろ、鳥肌まで立ってきた」

「大丈夫、君は優しい人間だ。だって君は、彼女の……コハネのことを、心配してくれているんだから」

「はぁ!? 何だそりゃ!?」

「誰かを真剣に想う気持ち、それが根幹にあること。そんな君だからこそ、コハネのパートナーとして選んだのかもしれないね」

「だから何だ!? 褒め殺し祭りなのか!?」


 俺をどうしたいんだよ、この神!!

 ああもう、鳥肌が尋常じゃない。もうこれ飛べるんじゃないのか。


「俺のことなんてどうでも良い! 問題はコハネのことだ! あんたにとって、あいつはどういう存在なんだ。ガジェットとして生まれたあいつのことを、どう思っているんだよ! 体の良い道具だと、そう思っているのか?」

「そう、彼女は確かにガジェットとして生まれた。機械の身体を持った、私による創造物だ」


 社長は、静かに語る。

 自らが生み出した存在について。


「しかし、あの子は生きている。自分の力で。生きているのであれば、彼女は紛れもなく生物であり、人と同じ感情を持っているのならば、紛れもなく人間。私の、大切な娘だ。生まれがどうとか、肉体がどうとか、関係のないことだ」


 その言葉は。

 俺がこれまで見て来た、社長のどんな言動よりも真に迫った、真剣な言葉だったと思う。

 その誕生は、確かに祝福されたと。

 誰かにとっての、救いとなる言葉。


「少し、話がずれてしまったようだね」


 社長はコホンと咳払いをして、話を続ける。


「ともかく、やがて人災の相手をして貰う為に、私は、君をコハネのパートナーとして選んだ。人災として目覚めた君の妹は、生物としてのスペックを完全に発揮した存在だ。しかし、完全故の弱点というものも抱えてしまう。それはつまり、突発的で姑息な手段に弱いということだ」

「突発的で姑息な手段……?」

「いきなり目の前で眠ったり、とかね。そんな、正気ならば、とてもやらないような行動を自然に行えるようになる為には、やはりお手本がいる。どうしようもない手段を、息をするかのようにこなせるお手本が」

「だから、俺か」

「その通り」

「俺なら、相手の隙を突く姑息な手段をすぐに思いつくから。どうしようもない卑怯なやり口を繰り出すから。弱点を突きまくり、嫌がらせばかりを繰り返し、相手のやる気を根こそぎ奪う。そんな俺を手本として学ばせる為に、コハネを俺のところに付けたって、そういうことなのか」

「うむ」

「このやろう!!」


 殴った。

 やっぱり殴ってしまった。

 コハネのこと、サツキのこと、災害配達人のこと、神の立場のこと。

 色々と我慢して来たけれど、ついに我慢が出来なくなった。

 しかし、社長の方も、避ける気は無かったようで、俺の拳は社長の顔面に思いっきりヒットする。

 しかも、殴られた社長は、妙に嬉しそうで。


「そう、その乱暴さ粗暴さ適当さ! それが欲しかった!!」

「うるせえ!!」


 もう一発殴りそうになるが、社長は思いの外素早い動きで後退し、俺の間合いから離れる。

 流石に追ってまで殴るつもりはない。

 なんか気持ち悪いしな。


「君と遊びたいのは山々だが……」

「遊んでねぇよ。今はまさに非常事態なんだよ」

「そうだね、非常事態だ。この事態を解決する手段は、コハネが既に持っている。後はあの子に託そう」

「おい、放っておくつもりかよ」

「こうして詳しく説明しているのも、本来ならば越境行為なのだからね。しかし君は、そうではないのだろう?」

「……ッ!?」


 全てを見通しているかのような、神の視線。

 その視線に晒されると、否応なしに、身を正しそうになってしまう。


「ヒビキ君。君に必要以上の負担を強いているのは分かっている。しかし、今の私には、この言葉を伝えることしか出来ない」


 真剣な顔で、社長は告げる。


「コハネのことを、私の娘を、頼んだよ」


 それだけを言って、その場からかき消える社長。

 現れた時と同じように、気配すら残さず消えてしまった。

 

「……あいつ、本当にいなくなりやがった」


 神は、もういないのだ。

 残った人間の力で、サツキを……人災を止めなければならない。

 ガジェットとしての生まれを持ちながら、しかし人間だという風に言われていた、コハネと。


「俺も、黙って見ている訳には、行かねえんだよな」


 そして、きっと、俺のことも勘定に入っているのだ。

 俺のことを、信じているのか。

 そんな期待、正直言って重過ぎる。

 それでも。


「やらなきゃいけないんだよな」


 最愛の妹を、助け出す為。

 そして、もう一人の為に。


   ◆    ◆    ◆         


「……はぁ」


 卑怯で姑息な俺がやるべきことは、既に脳裏に浮かんでいた。

 溜め息を吐きながら、地下倉庫の上の階にあるドックの中を見回す。

 それは、見慣れた場所に置かれていた。

 下の階の地下倉庫で行われている、コハネとサツキの戦闘。

 それによってドッグのあちこちに穴が空いているが、どうやら目当てのものは無事だったようだ。


 実際に、自分がやるべきことをこうして眼前に出されると、足が竦んでしまう。

 こんなことは、正直、やりたくない。

 それはある意味、俺という存在を否定するような行動だからだ。

 ここまで必死に積み重ねてきた道を、己自身で汚すかのような行動。

 今からやろうとしているのは、そんな外道な行動で。


「やるしか、やるしかない、か……」


 しかし、それでも、やらないといけない。

 今、地下で頑張っている、俺のパートナーの為に。

 あいつは、自身の怪我を押してまで、俺を助けに来た。

 そして、今なお戦っているのだから。


「うおおおおおおおおお!!!!」


 躊躇いを消し去るように、叫び。

 俺は、それに乗り込むと、キーを回してエンジンを入れ、アクセルを思い切り踏み込む。

 ドッグに空いた穴から、地下の倉庫に向けて飛び降りる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 倉庫への着地と同時。

 突然現れた俺に驚くコハネとサツキに向けてハンドルをきり。

 

 そのまま。

 最愛の妹、苅家サツキを、軽トラックで撥ねたのだった。



つづく

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