その33 決着

 見晴らしのよくなった部屋。


「ふう……」


 嘆息しつつ、光久はごとりと“魔女”のロッドを置いた。


「……なんともないの?」


 魔衣が、不思議そうに相棒の手のひらをたしかめる。


「ん? ああ」

「本当? 痛いところとか、違和感は?」

「……ないけど」


 そこまで心配されると、急に不安になってくるが。


「やるじゃないか。“魔女”の攻撃を見切ったのか」


 レミュエル老人がしきりに感心している。


「見切った、というか……まあ、偶然です。無知ゆえの勇猛ってやつですよ」


 実際、ほとんど無我夢中でやったことだった。

 ”魔女”も、まさか光久から反撃されるとは思っていなかったようだし。


「それにしても、ロッドの影響もないというのは不思議だね」

「ロッド? ……この、玩具みたいな棒のことですか?」


 光久は首を傾げる。

 とりあえず自覚症状はなかった。


「それは、“魔女”が使う武器の一種だ。……たしか、人間の生命力や気力を奪う魔法がかかっていると聞いたが」


 そう言われると、なんだかちょっとだけ元気がなくなったような気がしてくる。

 でも、気のせいだと割り切れないこともなかった。


「普通なら、一、二時間は寝込むところだぞ」

「……そうだったんですか」


 よくわからないが、自分の頑丈さに助けられたらしい。


「興味深い。恐らく、元いたセカイのルールが関係しているのは間違いないが……」


 レミュエルの口調は、半分呆れているようでもあり、面白がっているようでもあり。


「そう言われても。……俺のいたとこって、かなり普通のセカイですよ」

「君にとっては普通でも、我々にとっては異常に思えるようなことが、世の中にはたくさんあるのさ」

「はあ……」


 曖昧な言葉で、光久は応える。

 自分の身体が、並みより頑強であることはもはや疑う余地もなかった。

 だからといって、無敵、と言えるほどではないことも。


「そういえば。……金髪の“魔女”は?」


 光久が訊ねると、

「にゅう……ふにゅう……」

 という返事が、足下から聞こえた。


 視線を向けると、すやすやと寝息を立てる“魔女”が転がっている。


「……眠ってる?」


 光久は座り込み、“魔女”の顔を覗き込んだ。

 天使のような寝顔である。


「いつまでも”念動力”で抑えておく訳にはいかなかったから。“勇者”に頼んでみたの」

「へえ」


 ”クエスト・ブック”を開くと、走り書きで、


――そこの きんぱつコスプレおんなの うごきを とめて


 とあった。


「攻撃する許可は与えなかったから、眠らせる魔法を使ったみたい」

「へえ。そういうこともできるんだな、”勇者”って」


 光久は感心しながら、眠っている少女の頬をつつく。


「――もうっ」


 すると、ふいに“魔女”が声を張り上げた。


「もう、食べられないっしゅ……」


 言って、彼女はまた深い眠りへと落ちていく。

 その後、肩を揺すったり、ほっぺたを引っ張ったりしてみたが、……結局、“魔女”は目を覚まさなかった。


「できれば、こいつからも情報を聞き出したかったんだが……」

「さすがは“勇者”の魔法、といったところね」


*        *        *


 ”クエストブック”を手に入れたことで、”勇者”の装備や魔法について、いくつか新しい情報を得られたため、以下にしたためておく。


★“勇者”の装備★

 “らいめいのけん”(音速で敵を斬ることが出来る剣)

 “たいまのふく”(闇属性?のダメージを半減する服)※闇属性が具体的に何かを指すかは謎。

 “そらわたりのくつ”(短時間であれば飛行が可能な靴)

 “みかづきのめがみのゆびわ”(魔力を補助する指輪)

 “ぼうけんしゃのマント”(丈夫で軽い)


★“勇者”の魔法★

 “勇者”はすでに、全二十種類ほどの魔法を覚えているらしい。

 すでに見たことのある「敵を眠らせる魔法」や、「広範囲に雷を発生させる魔法」の他にも、「自身の傷を回復させる魔法」や、「自身の皮膚を鉄のように硬質化させる魔法」、「自身の集中力を強化する魔法」、「自身の持つ武器の切れ味を鋭くする魔法」などがあるという。

 ちなみに、肉体を強化する魔法は、基本的に自分自身にしか効果がないようだ。

(2015年2月9日 記)


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