おうまがドキっ!

御堂はなび

第一部 虎太郎と牙千代っ!

ぷろろーぐ 私と主様の紹介ですっ!

 私は御劔虎太郞みつるぎこたろうという人間に憑いている鬼です。

 名前は牙千代きばちよと呼ばれています。

 御劔という名前、鬼の中では有名だったりします。

 大きく分けて六つに分かれていたらしいですが、ニ家はとうの昔に無くなり今では四家。


 鬼に呪われた一族、鬼と契った一族、鬼と戦う一族、そして御劔虎太郞は鬼と共存する一族。

 人間と鬼が共存するという事は珍しいです。お互いを認め合わなければならないわけですが、闇に生きる鬼は温厚な性格の者もいますが、結局は負の存在。

 私は主様……御劔虎太郞に命を救って貰ったという恩義と、主様の夢がまさしく私達鬼の喜ぶべき大きな負だった事。

 それが主様と共存できる絆です。


 この御劔家という人間は異様に凶暴か病弱かの両極端な場合が多く、凶暴な方は鬼である私でも手がつけられません。

 そんな中でも主様はわりと普通です。

 少しいい加減な所が鬼である私をもイラっとさせますが、困らないくらいに病弱ではないですし、近寄りたくないくらい凶暴でもありません。

 そんな主様は万屋家業を同じ御劔姓より引き継ぎ営んでいます。元々万屋を行っていたのが鬼と契った女だったのですが、これが凶暴で私は殺したいくらい嫌いです。


 まぁ殺そうとすれば返り討ちに遭うので思うだけに留まっていますが……。

 この万屋というのが困り事をお金を貰って解決します。……という時代にそぐわない仕事です。大抵は荒事なんですが、とにかくいつも赤字です。

 私も一応女の子なんでお洒落をしたいですし、事務所にあるパソコンだって新しい物にしたいですし、美味しい物もお腹一杯食べたいです。


 なのに主様は物欲とかが少なすぎます。

 だから結局仕事も殆ど来ないので私が募集をかけて主様に無理矢理仕事をさせるのが日課です。

 今回は893の事務所の掃除だそうです。

 多分これは荒事です。

 私の出番です。

 ブラッドカーニバルなのです。

 朝の十時なのにベットから出て来ない主様の掛け布団をはぎ取って主様の腹部に飛び乗ります。



「ぐぇ!」



 カエルのような鳴き声を上げるのが私の主様。



「あーるーじーさーまぁー! 朝ですよぉー!」

「やぁ、牙千代。おはよう」

「はい、おはようございます」



 私の事を小さい女の子をあやすように頭をかいぐりと撫でる。嫌いじゃないですが、私は主様よりずっとずーっと長く生きているんですけどね。



「おやすみ」

「はい、おやすみなさい」



 頭を垂れてぐぅと寝息が聞こえる。

 この間わずか二秒。



「ねるんですか? それはあまりにも人間としてダメすぎやしませんか?」



 ナマケモノという生き物を水族館で見た事があるんですが、あれは可愛いです。なんというか憂い奴なのです。

 しかし、主様はイラっとします。

 主様の頭くらい一瞬でミンチにできるんですが、共存するというルールの上で死なない程度に主様の頭をゴツンと殴ります。仏には三度まで猶予がありますが、鬼にはそんなの関係ねーです。

 ゴン!



「痛い……」



 涙目の主様が私に殴られたところを摩りながらご起床されました。朝食は抜きです。働かざる者食うべからずなのです。



「主様、着替えたら仕事です。はやくしてください。今月分の家賃払えてないんですからね」

「牙千代」

「はい?」

「少し酷すぎやしませんか?」



 イラっ……



「まだお目覚めが足りませんか?」



 もう一発お見舞いしようとすると主様も面倒そうに準備を始めた。何処から出してきたのかビスケットを食べている。

 ……ずるい。



「何食べてるんですかぁ!」

「それより仕事はなに? 場所は?」



 私が仕事内容を伝えると主様の顔色が変わった。段々と嬉しそうな表情を見せる。

 おや? これは不思議です。主様は基本的にはやる気のない御方。私に言われて嫌々仕事をしにいく姿を想像していたのですがめずらしい事もあるものです。それか気持を入れ替えて働く事に精を出そうとしているのでしょうか?

 何だか人間の生活に馴染むと段々私が人間臭くなっていくような気がしてなりません。

 私の根が真面目だからでしょうか?

 なにわともあれ今日も一日頑張りましょう。

 ね? 主様。

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