シロネコクロダは一年生
にゃべ♪
第1話クロダ、野良猫になる
シロネコ「クロダ」はノラネコ一年生。
丁度三ヶ月前にノラネコになりました。
元の飼い主は舞ちゃんと言って、シロネコの彼に「クロダ」と言う名前を付けたの彼女です。
え?なぜ舞ちゃんはそんな名前を付けたのかですって?
それは、舞ちゃんの今の片思いの相手が黒田君と言う名前だったから。
舞ちゃんはその彼の名前を緊張せずに言えるようになる為に、自分のペットに同じ名前を付けたのです。
そんな可愛い理由を知って知らずか、クロダもその自分の名前をとても気に入っていました。
舞ちゃんはクロダをとても可愛がっていました。
ただ一つ問題だったのが舞ちゃんの住んでいるマンションがペット禁止だったって事。
最初は上手く誤魔化せていた舞ちゃん一家でしたが、とうとう三ヶ月前にクロダの事がマンションの大家さんにバレて、舞ちゃんはクロダの貰い手を見つけられずに、それでクロダはダンボールの家へお引越しとなったのです。
クロダはその後ダンボールの家から抜け出して何度も舞ちゃんちの前まで戻りました。
だけど今まで温かく迎えてくれていたその扉はもう二度と開く事はありませんでした。
クロダはとても悲しくなってそこを去る前に必ずニャ~と鳴きました。
「僕は今ここにいるよ、早く家に入れてよ!」
その鳴き声は切なく悲しく辺りに響きました。
舞ちゃんにもその鳴き声は確かに届いてはいたのです。
彼女はクロダの待っているその扉をすぐにでも開けたくなる衝動をいつも必死に抑えていました。
もしここでクロダを迎え入れたらもうこのマンションにはいられなくなってしまうかも知れない…。
今の自分達の暮らしを守る為に、クロダは犠牲にならざるを得なかったのです。
友達の家から貰ってきた仔猫のクロダを一年以上愛情をかけて育ててきた舞ちゃんの心は今にも張り裂けそうでした。
でも、今はもうクロダの幸せを祈る事しか出来なかったのです。
「クロダ、自分達の勝手で捨てちゃってゴメンね、これからはノラ猫としてどうか立派に強く生きていってね!」
この舞ちゃんの切ない思いはクロダに届くのでしょうか?
三ヶ月がたってクロダもやっと吹っ切れました。
そろそろ自分の足で歩こうと思いました。
これからは自分の意志で人間に頼らずに生きていこうと、そう心に決めました。
まず最初にクロダは今までに行った事のない場所までも歩いて行こうと決めました。
トテトテトテトテ気ままな冒険の始まりです。
歩いてみると、この街は結構大きな街で歩いても歩いても同じ風景が続きました。
三つ目の公園の噴水で水を飲んでベンチでお昼寝です。
昨日まではいつも同じ場所をぐるぐる回って残飯を漁ったり道行く人にエサを貰ったりしていました。
でも今日はその当てがありません。
新しく歩く場所でも同じようにごはんにありつけるかな?
クロダはちょっと不安になりながらも新しく見える風景にいつしか心躍らせていくのでした。
そんなクロダの行く先にパン屋さんが見えてきました。
こう見えてもクロダ、パンには目がないのです。
舞ちゃんがおやつで買ってくるパンのおこぼれをクロダはいつも楽しみにしていました。
「そう言えば、美味しいパンなんて随分と食べてないなぁ…」
クロダがパン屋さんのショウウインドゥでじーっとパンを眺めているとそこに一人の女の子が現れました。
「うわあ、かわいいねこさん♪」
クロダがその声にビックリしていると女の子は素早くクロダを捕まえました。
普段なら俊敏なネコは小さな女の子に捕まるようなヘマはしません。
ただ、その時クロダはお腹が空いていたのとパンに夢中だったのとで
呆気ないくらい簡単に女の子に抱きしめられる事になったのです。
「わたしはねぇ、ゆいってゆうの、ねこさんおうちがないの?」
「離せよう、こらあっ!」
クロダは必死でゆいちゃんから逃げようとしました。
でもゆいちゃんはとても必死に抱きしめていたのでクロダにはどうにも出来ませんでした。
そしてクロダは成す術もなくゆいちゃんの家に連れて行かれました。
「じゃあーん、ここがゆいちゃんのおうちでぇす!どう?きにいった?」
ゆいちゃんの家はまだ新築ピカピカの一戸建てでした。
家も家具も窓から差す陽射しもそれから漂ってくる匂いまでも全てがキラキラに輝いていました。
こんな所に住めたらいいなぁと思わずクロダも思った程でした。
「唯ちゃん、帰ってたの?」
そう言ってピカピカの家の奥から出て来たのはどうやら唯ちゃんのお母さんのようです。
お母さんもまだ若くて美人でそして優しそうでこのピカピカの家にとてもよく似合っていました。
「ただいま、おかあさん♪あのネ、ゆいたんじょうびプレゼントこれがいい!」
唯ちゃんはお母さんにクロダを見せました。
お母さんはそれを見てニッコリと笑いました。
「あら、可愛いネコちゃんね。何処で出会ったの?」
「うんとね、パンやさん」
「そうなんだぁ、でもその猫ちゃん、もしかしたらどこかのおうちの猫ちゃんかもしれないわよ?」
「そんなことないもん!このねこちゃんゆいちゃんのだもん!」
「しょうがないわねぇ…」
お母さんはクロダがどこかのお家の猫だといけないと思って唯ちゃんに元の場所に
帰すように説得しました。
でも唯ちゃんは頑と言って聞き入れてくれません。
よく見るとクロダは三ヶ月のノラネコ生活で体が大分汚れていました。
その汚れ具合を見てお母さんもクロダが現役の飼い猫でない事だけは分かりました。
そこでお母さんは唯ちゃんの情操教育に役立つと思い、クロダを家で飼う事を認めてくれました。
ただ、条件を一つだけつけて。
唯ちゃんがその猫の世話をする事。
「唯ちゃんも、もう一年生なんだから、お世話出来るわよねー?」
お母さんがちょっとだけ意地悪っぽく唯ちゃんに尋ねました。
「もちろんよ!わたしがりっぱにそだててみせるんだから!」
唯ちゃんも自信タップリに答えました。
こうして、クロダは唯ちゃんの家にお世話になる事となったのです。
(つづく)
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