第4貸 地下世界アンダガイナス

 セフィーはセブンスヘブンの冒険者支援協会の建物に併設された食堂に呆然としたまま座っていた。

 その正面にはこの街に来て初めて知り合った鳥人族の青年が座っている。


「こんなこと言われたらやっぱり混乱しちゃうよね」


 自分達の住んでいた世界の大地の下にもう1つの世界があり、時々地上から冒険者が落とされてくる。

 あまりに荒唐無稽な話に、1週回って冷静さを取り戻していたセフィーの脳は再びパンクする。

 だが彼がセフィーを騙している訳ではないのはすぐに分かった。

 貸して貰った望遠鏡で上空を見ると、薄い雲の上が岩壁になっているのが見えてしまったのだ。

 彼の言葉が偽りで無い事は分かった。

 だが、だからといってそう簡単に現実を受け入れる事が出来る程、脳の許容量に余裕は無かった。

 そのせいで半分現実逃避しかけている。

 もしこの青年にここまで連れて来られなければ道のど真ん中で立ち尽くしていた事だろう。 


「一先ずこれでも飲んで落ち着くと良いよ」


 セフィーは差し出された飲み物を疑いもせず、いや疑うという思考さえ回らずに口に含む。


「甘っ!!!」


 何かの果物のジュースなのだろうが、飲み物なのにドロリとした舌触りで物凄く甘ったるい。

 毒では無いが、コップ一杯分飲んだら身体に悪そうな飲み物である。


「いきなりなんてものを飲ませるんですか!」

「あははは、ゴメンゴメン。でも気付け代わりにはなっただろ?」


 確かに先程まで呆然自失な状態だったのが、今ではしっかりと意識を保っている。

 甘い分だけ辛いのや痛いのに比べれば優しい方なのだろう。


「もしアンダガイナスに落ちて来たばかりの人がいたらここの事を教えるっていうのが、この街の暗黙の了解でね。とりあえず話を聞いて、それからどうするかは君自身に決めて欲しいんだ。呆然とするのならその後にして欲しい。いいかな?」

「えっと、まだ頭の整理が追い付いていませんが、分かりました。あ、私はセフィー=メルチ=エレルエアといいます」

「ありがとう。僕はラース=ロンド。ラースと呼んで下さい」

「はい。私の事もセフィーでいいです」

「それは助かるよ。エレルエアって舌を噛みそうだったからさ」

「あははは、良く言われます」


 2人は顔を見合わせて笑い合う。

 今日は朝から色々な事が起こり過ぎていて、こういう朗らかな雰囲気が凄く久しぶりなように感じる。


「それじゃお互い自己紹介もした事だし、この世界の事について説明するね」


 ひとしきり笑い合った後、ラースは真面目な顔でセフィーにアンダガイナスの説明を始める。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *




 アンダガイナス。

 それはミドガイナスの大地の遥か地下深くにある空洞内にある世界だった。

 太古の昔から存在しながらその存在はミドガイナスに住む者には全く知られていない。

 それも当然で、アンダガイナスに落ちた者がミドガイナスまで戻って来たという記録が無いからだ。

 アンダガイナスには巨大で長大な塔だけが存在する世界だった。

 どこからか入り込んだ海水に覆われた小さな無人島。

 その中央に聳え立つ天へと続く塔。

 それしかないのだから、その塔が地上と天井を繋ぐ道だと考えられても不思議ではない。

 そして今から数百年前にこの世界に落ちてきた7人の冒険者が居た。

 自分達の力では塔を登りきるのは不可能と判断したその7人は塔の周辺を開拓し始めたのだ。

 当初7人の行動は他の冒険者からは見向きもされなかった。

 この世界に落とされた冒険者達は地上に戻る事が最優先事項だったのだから、当然だろう。

 しかしどんな高レベル者であろうと途中で怪我を負い、食糧が尽き、武具が壊されていく。

 塔の中で息絶えた者は数知れない。

 そして塔からなんとか帰還しても、瀕死の重傷を負ったり、恐怖で冒険者を続ける気力が萎えたりと、塔へ挑む者も減っていった。

 そんな中、7人は塔の周囲に診療所を作り、鍛冶屋を作り、食堂を作っていく。

 彼ら7人では塔に挑んでも犬死するだけだと自分のレベルを正確に把握し、他の冒険者の支援に回る事にしたのだ。

 その献身さに共感して7人を支持する者は日を追う毎に増えていたった。

 数年後には塔を囲うように様々な建物が建ち並び、徐々に街として機能していき、数十年後にはこの街で結婚した夫婦から子供も生まれた。

 気が付けば冒険者以外の人間も増え、その規模も大きくなっていった。

 そしていつしかこの街は、7人の先駆者が作り出した地下世界の楽園“セブンスヘブン”と呼ばれるようになる。


「これがアンダガイナス唯一の街であるこのセブンスヘブンの成り立ちです。地上を目指し危険を承知で塔を登る者。この街に残る事を決め、塔を登る者をサポートする者。セブンスヘブンではこのどちらかを選ぶこととなります」


 ラースは1つ深呼吸してからセフィーをじっと見つめる。

 その真っ直ぐな瞳に射抜かれてセフィーはドキッとする。


「セフィーさん、あなたはどちらを選びますか?」


 ラースの言葉通りならこの世界には地上へと繋がっていると思われる塔とそれを囲うこの街しかない。

 この世界が巨大な地下空洞ならば海の向こうには壁しかないから選択肢には入らないのだろう。


 塔を登るか街に残るか。

 地上を目指すか地上を諦めるか。

 冒険者を続けるか冒険者を諦めるか。

 

 常識的に考えて今のセフィーが塔を登るなど自殺行為に等しい。

 けれど数日前にようやく念願の冒険者になる事が出来たのだ。

 幼い頃からの夢をたった数日で手放すなどそう簡単に決められる事では無い。


「私は……」


 セフィーはラースの視線から逃れる様に俯く。

 冒険者は続けたい。けれど塔に挑むのは無謀。

 せめてレベルさえ下がっていなければ冒険者を続けると即決出来ただろう。


「あ……」


 レベルが下がったという事実を思い出し、そしてこの場所が冒険者支援協会に併設されている食堂だという事も思い出す。

 地下世界に落ちるというアクシデントはあったものの、もし冒険者支援協会が地上と同じであれば、レベルが下がるという有り得ない不具合が発生した冒険者カードを正常に戻す事が可能かもしれない。


「ラ、ラースさん!ここの冒険者支援協会って地上と同じなんでしょうか?」

「え、うん。確か協会に務めていた人が何人もいるから業務内容は変わって無いはず。この街で生まれ育って冒険者になりたいって人もいるしね」


 それだけが聞ければ十分だった。

 つまりそれは冒険者カードも発行出来るという事であり、不具合のあるカードも交換可能かもしれないという事だ。

 レベルが1だと最低ランクのモンスターにさえ苦戦するし、そんな状態では経験値を得てレベルアップする前に死ぬ可能性が高く、冒険者を続けることは難しい。

 就職して仕事をする事で経験値を得るという事も出来るが、数年で1レベル上がるかどうかで効率が悪過ぎる。

 だが冒険者カードの不具合が直り、元のレベルに戻れば、ギリギリ冒険者としてやっていけるだろう。

 その期待を胸に秘め、セフィーの目に意志が灯る。


「ラースさん。返事は少しだけ待って貰えますか?」

「うん。僕は問題無いよ。それに協会に申請すれば3日分くらいは宿代や食事代は援助してくれるから、それを利用して十分に考えると良いよ」


 その3日間の間で頭を整理してどうするか決めろという事だろう。

 命を賭けるか、地上を諦めるか、何もしないで野垂れ死ぬか。

 だがセフィーはそんなことに3日も頭を悩ませる気は無い。

 レベルが元通りになれば冒険者を続ける。そうでなければ冒険者の夢も地上への帰還も諦める。

 正直、こんな簡単に決めて良いのかと思うのだが、セフィーの決意は揺るがない。


「あ、そうだ。もし冒険者を続けるならまた僕に声を掛けてよ。実は今、パーティーメンバーを集めてるんだけど、大抵の人はもうパーティーを組んでて加入してくれる人がまだいないんだ」


 それがラースがセフィーに近付いてきた本当の理由。

 この街の暗黙の了解でこの世界や街の事を説明するついでに仲間探し。

 どのくらいの頻度で地上からこの世界に落とされるかは分からないが、自分より前にこの世界に来た人で塔に挑む事を選んだのならば、大抵はパーティーを組んでいるだろう。

 塔の探索でメンバーの大半を失ったとかでも無い限り、メンバーを入れ替える事はあまり無い。

 メンバーをコロコロ変えていては連携が取れず、余計に不利になるからだ。

 ラースは3ヶ月近く前にアンダガイナスに落とされたのだが、その時点で街にいる冒険者はソロで活動している冒険者以外、既に固定メンバーでパーティーを組んでおり、彼のレベルが1桁だった事もありどこのパーティにも誘われる事が無かったのだ。

 冒険者にしては整った顔立ちで爽やかな好青年の為、街の女性からの人気は結構高い。

 それが他の男性冒険者の癪に障ったというのも理由の一つだったりする。


「分かりました。それじゃあ、結論が出たら連絡します…ってどうすればいいんでしょうか?」

「僕は探索前と探索から戻って来たら、いつもここに寄って食事をしてるから待っていて貰えるか、食堂に人に伝言をしておくと良いよ。それじゃあ、ちょっと用があるので僕はそろそろ行くね」


 ラースはセフィーにそれだけ言うと席を立つ。


「あの…色々と教えてくれてありがとうございます」

「僕もここに落ちて来たばかりの時はセフィーさんと同じように混乱したからね。いや、多分、僕だけじゃない。この街の多くの人が同じだったと思うよ。それが分かるから、こうやってお節介を焼いちゃうんだ。まぁ、パーティーメンバーが欲しいって打算的な理由もあったんだけどね」


 ラースは苦笑を浮かべる。

 勧誘した本人を目の前に打算的と自分で言っている時点で彼の人の良さが窺える。

 きっとパーティーメンバーの事が無くても、同じように親身になって教えてくれただろう。


「あ、そうだ。さっきのジュースの代金を……」


 ふとセフィーは思い出し、カウンターの脇にある値段の書かれた木の札を見る。

 だがそもそも自分が飲んだものが何なのか名前すら分からないので値札を見ても分からない。

 その上、金額の単位が《P》となっていて、地上の単位とは異なっている。


「あれは僕からの奢りだよ。それにここじゃ地上の通貨は使えない。こんな地下じゃ銅や銀といった鉱石は貴重で貨幣は作れないからね。だから冒険者カードにポイントと呼ばれる機能を追加して、それをこの世界の通貨代わりにするんだ。手っ取り早くお金が欲しい場合は銅貨とか売ると貴重な分、結構良いポイントになるよ」

「ううぅ、すみません。でも絶対にいつか必ず返しますから」

「う~ん、そこまで大したものじゃないんだけど…でも、そこまで言うなら貸し1つって事で。それじゃあ、またね」


 そして今度こそラースは食堂を後にする。

 その背中を見送りつつ、セフィーも食堂から出る。

 この食堂は冒険者支援協会に併設されている為、食堂の間仕切りの向こう側は冒険者支援協会の受付になっている。

 冒険者支援協会でまずは不良カードを交換して貰い、ついでに援助も申請しなければならない。

 レベルの問題も重要だが、冒険を続けるにも、この街で生活するにもお金、この地下世界ではポイントだが、まずはそれを確保しなければ始まらない。

 着の身着のまま落ちて来たので、色々と必要なものが多い。

 冒険者とはいえセフィーも年頃の女の子なのだ。

 身だしなみは大事である。

 そんな事を考えつつセフィーは緊張しながら受付へと向かう。

 冒険者カードの交換にどれくらい時間が掛かるか分からないが、それ程時間が掛かる事は無いだろう。

 もしレベルが元に戻らなかったら、と最悪な想像をしながらも受付の女性へと声を掛ける。

 肩くらいまである金髪の隙間から尖った耳が飛び出した、利発そうな顔立ちの妖精族の女性だ。

 協会の制服らしい白いブラウスと黒いベストを着ているが、その胸はセフィーの数倍はあり、嫌みな程ブラウスを押し上げている。

 冒険者は男性が多いので、わざとこういう人を受付にしているのではないかと思ってしまう程だ。


「あ、あの、すみません。ちょっと冒険者カードがおかしいので確認して貰っても良いでしょうか?」

「はい、かしこまりました。本日担当致しますルーナと申します。それでは冒険者カードの提示をお願い致します」


 受付の女性、ルーナが笑顔で対応してくれる。

 営業スマイルだという事を分かっているが、美形な妖精族から笑顔を向けられると同じ女性といえどドキドキしてしまう。

 だが見蕩れて呆けている場合では無い。

 セフィーは慌てて懐から冒険者カードを取り出し、ルーナに見せる。

 それを見た瞬間、彼女の表情が驚きの表情へと変わる。

 まぁ、当然だろう。

 冒険者になるには最低必要レベルというものがあり、それはレベル3以上という規定がある。

 つまりそれ以上のレベルが無いとモンスターとはまともに戦えないという判断材料だ。

 とはいえ大体、成人する頃にはレベル3になるので、この基準も未成年者に対する規制程度である。

 だからレベル1の冒険者カードなんてものは存在しない訳で、驚くのも当然だった。


「セフィー=メルチ=エレルエア様で間違いございませんね?」

「は、はい」

「それとご確認致しますが、ここをご利用になるのも初めてでよろしいですよね?それからここへ来る前に塔に入ったりはしてないですよね?」

「え、あ、はい。ここに落ちて来てからはまだそんなに時間は経っていなくて、あの塔がダンジョンだっていうのもさっき知ったばかりですし、それにレベルもレベルなので……」

「そうなんですか。え~っと冒険者になられたばかりのようですけど、地上では一体どこで冒険をしていらっしゃったのですか?」

「駆け出しらしく普通にトマスの町周辺でマウラット狩りをしていました。けど朝起きて森の探索に行ったら、何故かそうなってたんです。もしかしたらカードが不良品か何かでそうなっちゃったのかと思って、確認に来たんですけど」


 恐らくレベルが1になっている原因を教えて欲しいのだろうが、セフィーにもその原因が分からないのでありのままを伝える。


「そ、そうですか。私も長い間受付をしていますが、カードが誤作動するなんて聞いた事はありませんね。ですがこの街でのみ使用出来るポイント機能を追加する為に冒険者カードを更新する必要があり、新しいカードに書き換えしなければいけませんので、丁度良かったかもしれませんね」


 ルーナが奥から名前の刻まれていない新しいカードと白い箱を持ってくる。

 白い箱の上面には掌を模った模様が描かれてあり、側面には薄いスリットが入っている。

 カードをスリットに差し、箱の上面に暫く手を触れて自分の名前を思い浮かべていれば、触れている人の魔力に反応して、箱に仕込まれている魔法技術が自動的にカード表面に、思い浮かべている名前を刻み、本人の顔を転写してくれる。そしてレベルやらステータスやらも諸々カード内に記録されるのだ。

 不思議なもので別のカードに書き換えを行うと元のカードの情報は消えるし、現行のものでも半年間、本人がカードに触れない場合でも情報は消えてしまう。

 セフィーはレベルが戻っている事を祈りつつ、新しいカード作りに力と想いを込める。

 魔力を受けた白い箱が僅かに青い輝きを放った後、すぐに元の白い箱へと戻る。

 これでカードに彼女の情報が書き込まれたはずである。

 セフィーは恐る恐るカードを引き抜き、そこに書かれてある情報に目を向ける。

 カードには自身の名と、その隣に自分の顔が転写されている。

 性別や職業の情報も書き込まれてある。

 ここまでは前のカードと同じだ。

 そして運命を左右するレベルの表示に視線を移す。

 そこに浮かび上がっている表示を注視し、そしてそのレベルに書かれてある数字に感極まって涙が出そうになる。


《レベル3、体力40/40、魔力25/25》


 表示はレベル1ではなくレベル3。

 体力や魔力の数値もちゃんとレベル3相当になっている。

 相変わらず理由は不明だが、レベルはちゃんと戻っていた。

 しかしその歓喜も束の間。

 次の行に表示された数字を見て、再びセフィーは驚きで目を見開く。


《経験値9999》


 1日中マウラット狩りをしても得られる経験値は10前後であり、それだけでレベルを上げるには1ヶ月近く掛かる。

 レベルが5になる頃にはモンスターと戦うノウハウやサバイバル知識も十分に備わるので、他の狩り場に移るのが殆どだ。

 その方が経験値効率がいいからだ。

 だがセフィーが冒険者になったのはつい最近であり、マウラット狩りも数日しかしていないし、それ以外のモンスターと戦った経験も無い。

 にも関わらず経験値を表す数値は表示可能な限界の数値となっていた。


「あれ?もしかしてこのカードも壊れてる?」


 有り得ない数値にセフィーは再びカードをルーナに見せる。


「いえ、先程のカードも同じように表記されていましたのでカードが壊れている訳ではないと思います。それにしても一体どんなレアモンスターを倒したらこんな経験値を得られるのか知りたいですね。あ、朝起きたらこうなっていたと言っていましたよね。つまり寝ている間に幸運の女神でも降臨したとかでしょうか?」


 ルーナの反応からカードの不具合とかでは無いらしい。

 どうやら起きたら経験値がカンストしていたから、カードに不具合が起きたと思ってここに来たのだと思っているようだ。

 実際には朝起きたらレベルが下がっていたのだが、それはすでに解決しているのでわざわざその事を言って問題を大きくする事も無いだろう。

 理由は分からないが手に入った経験値は間違いはなさそうだ。

 色々と不幸な事は重なったが、この経験値がその代償なら悪くは無い。

 これだけの経験値があればレベル10くらいまで一気にレベルアップする可能性もある。

 正直、訳が分からない事ばかりで混乱するしかないが、この経験値は有り難く受け取っておく事にする。


「えっと、とりあえずはありがとうございます。あっ、それからここで援助が受けられると聞いていたのですが?」

「は、はい。今の更新で生活するのに必要最低限なポイントを付与してありますのでご確認下さい」


 ルーナの方も異常な事態に困惑しているようだが、仕事の方はちゃんとやっている。

 受付の鏡である。

 セフィーがもう一度カードを覗き込むと右下に《100P》と表示されている。

 地上ではそこには何も表示されていなかったので、地下世界独自の魔法技術なのだろう。

 まぁ、この地下世界でしか使えない通貨扱いなのだから当然と言えば当然である。

 正直、これが多いのか少ないのかはこの街の物価が分からないので何とも言えないが、確か3日分の援助だと言っていたはずなので、食事込みの宿代で30Pくらいなのだろう。


「えっと私もちょっと混乱していますが、簡単に支援協会についてご説明させて頂きますね」


 ルーナの説明は地上の冒険者支援協会と同じ内容だった。

 基本的な業務は冒険者への依頼の斡旋と、冒険者資格の認定。

 そしてここで初めて知る事になるが、セフィーの目の前にいるルーナがなんと協会長だというのだ。

 なんでも人員不足だという事で、受付も行っているとの事。

 経験値カンストという異常な事態でも上長を呼ばずに自身で対応していたので、本当にそうなのだろう。


「それではまたのお越しをお待ちしております」


 異常な経験値を見たせいかルーナはやや動揺を隠し切れていないようだったが、最後はちゃんと笑顔で頭を下げる。

 その笑顔が引き攣っているように見えたのは多分見間違いではないだろうが、セフィーはそれを気にする事無く、意気揚々と受付を離れる。

 訳の分からない状況だが、経験値のおかげでこの世界で冒険者としてやって行く目処がついたからだ。

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