4:執行者Ⅳ
「執行者……?」
「歩きながら話す」
相手の提案に従った。もし敵だったとしても、まだ明るく人が往来しているなか、何かするとは思えなかった。
「執行者とは……俺たちの世界に紛れ込む、魔界の奴らを討つ者を指す。俺がそうだ。……遅れたが、俺はクランツって名前だ」
「え? じゃあ人間なの?」
「……」
沈黙が流れてしまった。
「……あんたは俺を何だと思ってたんだ?」
「えと、ギルとおんなじかと……」
正直に答えると、クランツは実に嫌そうな顔になった。
「最悪だ」
そう言ってさきさき進んでいくクランツをあわてて追い掛けた。
「それで、話って何ですか?」
こっちが申し訳ない気分になってしまい、あわてて話題を戻す。そして、明らかに私よりは年上であっただろうことに気付いた。
「敬語なんて使わなくていい。普通に話せ」
「あ、うん……」
認可されなかった。今更だったかもしれない。話を戻すぞと言って、クランツは続ける。
「俺たちは奴らを滅することが目的だ。そこに例外はない」
「俺たちはって、そんな何人もいるの?」
「殲滅機関」
何を言われたか一瞬分からなかった。急に聞いたこともない単語を耳にした。混乱する私をよそに、クランツは話を続ける。
「……という組織がある。俺はそれに所属している。そこには俺のような執行者たちが何人かいるんだ。お互い飛び回っているから、正確な人数は確認していないが……」
話を聴きながら後をついていくと、クランツは裏路地に入っていった。この裏路地は人通りが極端に少なく、おまけに昼でも光が届いていない。
私はいったん足を止めて、どうしようか考える。素直についていくべきか、それともここらでやめとくべきか。
「心配しなくても、何もしない。あまり人に聞かれたくはないからだ」
その言葉を聞いて私は歩を進めることにした。何が私にそうさせたのか。躊躇するも、それは一瞬のうちであった。クランツに続いて私も、暗闇へと入り込む。
「ど、何処まで行くの?」
ズンズン奥へと進むクランツに、やっぱり不安を覚えてしまう。
「あんたは何故、ギルと一緒にいる?」
「えっ」
その言い方だと、まるで私からギルに近付いていってるみたいだ。
「ギルに聞いてみてよ。私はつきまとわれてるようなもんだし」
「そうか。なら突き放せ。相手にするな」
クランツが半身になって私を見据える。一瞬何を言われたのか分からず、理解するのに数秒を要した。
「な、何で?」
「簡単なことだ。魔界の住人が危険なことはわかっているだろう?」
私は黙って首だけを上下に動かした。
「奴も魔界の住人だからというのは理由にならないか?危険だから一緒にいないほうがいい。それだけのことだ」
「でも私は……っ」
言葉を遮る。いや遮られた。抜かれた白い銃口が私に向けられていた。クランツの右手に握られる銃は、静かにその威圧感を放ち、クランツは真っ直ぐな眼光を絶やさない。
そして、誰もいないはずの裏路地に、一際銃声が鳴り響いた。
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