4:執行者
「こいつは、すぐにでも殺すべきだ」
ずっと引っ掛かる。昨夜に逢った男の言葉。それは、殺気に満ちた、酷く冷たい視線と共に投げ掛けられた。
そもそもギルは、何故処刑人なんてやっているのだろう。
「……き……! ……て!」
誰かの声が聞こえるような気がする。けどそんなものはきっと幻聴である。現にはっきりとは聴こえないのだ。無視して私は深い眠りに入った。
どれくらい経っただろうか。
「……ん?」
もぞもぞと布団の中に、異物を感じる。目を開けると、リアちゃんの顔があった。ちょうど向き合った形で。
「え? あ、あう……」
なんと、リアちゃんに抱きつかれていた。リアちゃんは既に寝息を立てていたが、きれいな整った顔立ちと美しく輝く金色の髪が視界を覆う。不意にいい匂いまでして、私は起きてすぐ戸惑った。
「え? ちょっ……」
さらに引き寄せられ、何というか近い。
「えっと、その……お、起きて……」
ゆさゆさとリアちゃん揺り動かす。
「ふにゅ? あ、紗希……おはよう」
「あ……うん、おはよう。じゃなくて何でリアちゃんがここに?」
「サキがなかなか起きてくれないから」
いまいち理由として成立しているか、疑問に思える理由を述べる。
「でね、そろそろ離してほしいんだけど」
「え? あっ!?」
半覚醒状態だったのか、やっと状況を理解したようで、リアちゃんは飛び起きてあわてふためいた。
「あ、えと……別に紗希を襲ったりしようとしたわけじゃなくて……紗希が気持ちよさそうに寝てたから、つい……ただ一緒に寝たいなって……思っただけで……」
あとはゴニョゴニョと何を言っているかは分からなかった。
「うん、分かってる……ってあれ?」
私はリアちゃんの姿に絶句した。人間形態だけれど、人間にはないものがあった。それは耳と尻尾。耳といっても、金色の頭からピョコリと猫のような黒い耳が上向きにあった。また黒い尾がお尻からヒョコヒョコと動いていた。
「えぇ、それ何?」
「あ、また出ちゃった。その、たまに出ちゃうみたいで……どうしてだか分かんないけど……」
と、なんだか落ち込んでいるようだ。でも耳と尻尾はすぐまた引っ込んだ。
「あ、元に戻った」
「……な、何かそんなに見られると恥ずかしい」
「え、あ、ごめん」
魔界の住人だからだろうけど、珍しくてついじろじろとリアちゃんの頭とお尻を見定めてしまった。リアちゃんは恥ずかしくなって顔を真っ赤にさせていた。でも、そんなリアちゃんが凄い可愛いと思う。
「何やってんだ」
「……!?」
かなり驚いた。見上げるとギルが見下ろしていた。とても呆れたような顔だ。
「べ、別に何でも……って今何時?」
「あ? まだ七時前だな。飯」
朝食を作れってことか。毎日朝同じくらいの時間に来るのだから、ギルはわりと律儀であった。
おかげで、朝から労働が増えるわけだけど、今日も遅刻はしなくてすみそうだった。
いつの間にか猫形態となったリアちゃんは、横で伸びをしている。
あ、リアちゃんの分もご飯いるよね。
下に降りて洗顔を終える。食卓に向かうと、ギルがつまみとして、私の分の朝食を平らげていた。
「あのね。それは私の分なんだけど」
「足りねぇな」
駄目だ。反省させることが出来ない。
「はいはい。支度するからそのあとで」
これが私の朝の風景となりつつあった。今までとはかなり変わったと思う。
朝食を作ると、私、ギル、リアちゃんで食べ始める。ちなみにリアちゃんは人間形態でだ。一応猫(?)だから食べたら駄目みたいなものがあるかと聞くと、私の場合は大丈夫とのことだ。
学校に行く前は一人だったのに、最近は随分賑やかなように思う。遅刻しそうでそんなことを気にする暇はなかったけれど、これはこれで良いような気がした。
「あ、お前、それ俺が狙ってた奴だ」
「取ったもの勝ち」
「そうかよ。じゃあこれは俺がもらう」
「あぁ! それ狙ってたやつ。返せ!」
「遅ぇよ。取ったもん勝ちなんだろ。これももらいっ」
「それは私の!」
ズバッと皿が縦に割れる。いや切れた。
「何だ? 殺ろうってのか?」
「そっちがお望みなら……」
「わぁ! まだあるから、ストップストップ!!」
前言撤回。全然良くない。朝からこんなひやひやしたくないです。
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