1:処刑する者、される者Ⅴ
「前三件の死体はバラバラだったけど、四件目だけはそうじゃない。まぁそれでも酷い有り様だったことには違いがないんだけど」
途中で加奈が、補助するように話を付け加える。
「で、もしかしたら最初の三件とは別じゃないかって意見が出たりしてるみたい。もしくは途中でバラバラにするのを諦めたんじゃないかとか。そもそも前三件も、人間業とは思えない程酷いらしいから」
「へぇ~」
まぁこんな事件があったから、今日みたいな妙な夢を見たんだと思う。
それにしても、すごく現実離れした夢だった。
「そういや今回は何処で? そこへは近付きたくないんだけど」
優子が訊いた。それは私も同意だった。
「場所? えーと、確か……。ああ、あそこよ、杉並商店街の裏通り」
「……っ!?」
私は動揺してしまいそうだった。だって加奈が口にした場所は……今日見た夢と、一緒だったからだ。
そういえば、多量の血の酷い現場とその場所。今回だけ原型を留めていた被害者の人数。それさえも……同じだった。
いやでも、そんなのただの偶然だ。私はそう自分に言い聞かせた。気にすることはない。何も、気にすることはないはずだ。
「なに、まかせてよ。もし皆が危なくなったら僕が守るから」
「……。」
狭山といるほうが絶対に余計危ない。そう最初に頭に浮かんだ。決して前科があるわけではないのだけれど、言動から危機感を感じさせる。
やっぱりというか、当然というか、優子と加奈も同じ気持ちのようだった。あからさまに顔をしかめている。
「あ、信用してないな。僕は……てっ!!」
狭山の後ろに、いつの間にか庵藤が立っていた。
「アホなこと言ってないで早く座れ、啓介。さすがにもうすぐ先生が来るからな。ほら、おまえらも座れ」
言ってることは確かに正論なんだけど。人を犬か何かのように手で追いやって来る行為はどうも腹が立ってくる。ちなみに庵藤はクラスの委員長も務めていた。
まぁ庵藤に口で勝てるわけもなく(というか誰も勝てないと思う)、四人とも渋々各々の席へ戻ってゆく。その際、クラス全員をも庵藤が散らせた。ちょうどその時、少し遅れて担任の先生が現れた。
「いや遅れてすまん。時間ないから手早くホームルームやるぞ」
時間は過ぎて昼休み。
待ちに待った昼食。この学校の良いところの一つだ。安いわりにけっこうおいしい。お気に入りのB定食を受け取り、席につく。既に加奈と優子はついていた。けど、何とさらに二人追加していた。
「……な、何であんたらが?」
言うまでもなく、一人は狭山。そしてもう一人は意外にも庵藤だ。狭山はまぁ分かるとして、庵藤がいるのは珍しいというか妙だった。
「言いたいことは分かる。こいつに呼ばれたからここにいる。それだけだ」
そう言って庵藤は狭山を指す。
なるほど。納得とほぼ同時に、狭山を睨んでやった。
「い、いやだって。皆で食った方が楽しいじゃん?」
それはメンバーにもよると思う。優子と加奈はもちろん受け入れる。けど狭山と庵藤は正直微妙だった。
「まぁそう邪見にはしないでさ。俊樹はサスペンス大好きっ子だからな。新聞も読んでるし、例の事件にも詳しいんだぞ」
別に詳しく知りたいわけじゃない。朝の時は、ほんの気まぐれに近い。と言おうとしたのだけど。
「えっ、ホントに? 気になる気になる。極秘情報とかあるの?」
優子の方が一歩早かった。多少身を乗り出し、目を輝かしていた。そうだった。優子は好奇心の塊のような娘だったっけ。
まぁそうはいっても庵藤のことだ。気軽にペラペラしゃべったりはしないと思う。
「まぁ、少しなら」
そう思っていたわけだけど、庵藤の様子は違っていた。咳払いなんかをして、何か嬉しそうである。凄く珍しいものを見てしまったような気がした。
「で、何が知りたいんだ?」
「え~と、犯人って誰?」
「いや、さすがにそれは……」
それはそうだ。犯人が分かってたら、とっくに捕まっているだろう。
「四件目もやっぱり一連なの?」
代わりに加奈が問い掛ける。加奈も多少の興味はあったのかもしれない。
「ああ。現場の状況は似てるから一応そういう風にみて捜査されている」
「え、捜査? 何で庵藤が知ってるの?」
すぐさま加奈がまた問い掛ける。確かに気になる疑問だった。しかしその疑問も佐藤により、すぐ消え失せた。
「俊樹の親父さんは刑事だからね。いろいろ聞き出してんだよな?」
「そうなんだ。初耳」
優子の言う通り確かに初耳だけど、それだとサスペンス大好きとかは全然関係ないんじゃないだろうか。
「人聞きの悪いことを言うな、啓介。ちょっとハッキングして捜査資料を勝手に見てるだけだ」
いや、そっちのがむしろ犯罪じゃないの?
そのあとも問答は続いたが大したことは分からなかった。
まぁ警察も分からないんだから、それをハッキングしたところで変わるものでもなかった。
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