8
私は聡の正面に腰を下ろすと、テレビを消した。一度はつけてみたものの、もう面白い気分にはなれなかった。
「なんか、今日は機嫌悪いよね?おもしろくないことでもあった?」
私はできるだけ刺々しくならないように聞いた。尋ねる私から、聡が視線をそらす。
図星、だ。何か仕事でへまでもしたか。
私はテーブルに転がったポーチを手に取ると、
「なんかさ、私っぽくないなって思ったけど、よく見たら可愛いよ。印鑑とかさ、領収書入れるのにちょうど良さそうだからもらっとくね。ありがとう」
少しわざとらしく喜んでみせた。
けれど、聡は、
「別に無理に使うことないよ」
と、手を差し出す。
「無理なんかしてないよ」
「いいよ、今さら。仕事場の子にあげるからさ。返してよ」
さすがに、これには腹が立った。
私はもともと短気で怒りっぽい性格だ。それを一番わかっているのは聡のはずなのに、なんて気分を逆撫でることを言うんだろう。
「あっそ!なら、返します!返せばいいんでしょ」
私は、投げつけるように聡にポーチを返した。
聡はそれを受け取ると、無言で寝室へ引き返す。
バタン!と、いつもより強くドアが閉じられ、私はまた呆気にとられる。
一体、今日はどうしたってゆうのよ!
固く閉じたドアを見つめていたら、また、ふつふつと怒りの感情が込み上げてきた。
何よ、何だっていうのよ!たかだか喜び方が薄かったくらいで!だって、仕方ないじゃない。趣味じゃなかったんだもの。聡だって長いこと私と付き合っているんだから、私の好きなものくらいわかってるでしょう?花柄のレースなんて1度だって持ったことないじゃない!
それに、ごみだって少し休んだら捨てるつもりだったし、サイダーだって、500ミリリットルのペットボトルのジュースをそのまま飲むのとどう違うの?
だいたいにして、仮にも私のために選んだものを仕事場の子にあげるなんて…。
ああ、ムカつく!
聡へ対する文句が、次から次へ涌いて、止まらなかった。
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