異能使い 城本川 泉琉

深咲 柊梨

春樹 青葉ーdifferent ability of godー

 五感とは。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、である。

 中には、この五感以外の力ーー第六感を持つ者も存在する。

 所謂、超能力。

 一言で超能力と言っても、嫌な予感が当たったり、勘が鋭かったり。というのも第六感ーー超能力に当てはまるのだそうだ。

 人ならず者が見えたり、その者を祓えたり、自分自身の秘めた力を強化する事が出来たり、この第六感というのは、他の感覚に比べると非常に幅広く混在している。

 昔、第六感をテーマにしたホラー映画も、幾つかあったと思うが、本来人間は皆、この第六感を持って生まれてくるのだと言われている。

 だが、文明が進むにつれ、その力は徐々に失われていったのだそう。

 はっきりと、それが第六感だと自覚出来る程に、感覚として成り立っている者は、今は『稀に』存在する程度だ。

 第六感以上に、その感覚を持っている者は少ないであろう。

 その第六感と、五感のいずれかが異常発達し、共鳴している。

 第七感。

 世間一般的に言われている第七感とは、少し違うのだけれど、僕の場合、第六感の他に視覚がそれだ。

 僕のこの瞳は、人一倍視力が良いだけではなく、対峙した相手の未来が見えてしまう。

 ちなみに、視力は両目共に3.0あり、人間の平均視力を遙かに上回っている。

 自分の意思で、いつ何時、見たいときに未来が見える訳ではないないのだけれど、悪しき穢れた者に憑かれてしまった人間に対して、僕のこの能力(ちから)が発動する。 

 穢れた者に憑かれてしまうと、その者の未来は限りなくバッドエンドだ。

 僕が何もしなければーーだけど。

 そして、第六感を駆使して、普段持ち歩いている竹刀を刀剣に変化させ、清き力を纏わせ祓う。

 さて、悪しき穢れた者とは?

 そう思った方も、少なくはないだろう。

 簡単に言ってしまえば、悪霊や妖の類だ。

 僕はそれを『畏れ』と呼んでいる。

 では、何故人間は畏れに憑かれてしまうのか。

 憑かれる=疲れる、だ。

 親父ギャグの類ではないぞ。

 人間は『何か』が自分の身に降りかかり、その『何か』を自分の中で消化しきれなくなると、心身共に疲れ果て、ストレスに耐えきれなくなり、自ら死を望むようになる。

 一種の鬱状態だと言えよう。

 追い込まれているからと言って、命を自ら絶とうと、行動に移すのは容易ではない。

 大概が、その直前で踏み止まるだろう。

 それでも、このストレス社会で、自殺者が絶えないのは、畏れに憑かれてしまっているから。

 負の感情は、畏れに対して餌をばらまく様なもので、そこに畏れは寄ってくるのだ。

 畏れに取り憑かれてしまえば、自力で払う事は不可能。

 能力のある者に、払ってもらわなければならない。

 一つの例として、清き力を纏わせた刀剣で斬り祓うーーとか。

 今までは公に出来なかったが、この春、無事高校に進学したので、堂々と公言する事が出来る。

 僕は悪霊退治を生業とする、城本川泉琉。

 ただ、僕は誰彼構わず助けたりはしない。

 助けるに値する人間だと判断すれば、僕はその能力を遺憾なく発揮するが、そうではない、助けるに値しない者だと判断すれば、その者を助けたりはしない。

 この能力は、然るべき者に対して使う物だと、僕は思っている。

 僕は、その昔、剣術に長けた戦国武将の末裔らしいのだけれど、城本川なんて武将は聞いたことはない。

 我が家に残っている数多くない文献では、ご先祖様の城本川正一は、あの徳川家康に仕えていた家臣であり、本多忠勝と肩を並べる程の強さを持っていたらしい。

 しかし、教科書は愚か、世間一般的にも城本川正一の名を耳にする事がないのは、僕は単純に華がなく、地味で存在感がなかったから、後生に語り継がれなかったのだろうな。と勝手に解釈している。

 本多忠勝が目立ちすぎたのだ。

 徳川家康に過ぎたる者。

 なんて言われ方をしている忠勝さん。

 ゲームや漫画にも多く登場する。

 それだけ、武術だけではなく、人間としても魅力的で、目立つ存在であったのであろう。

 後は、まぁ仕え始めた年数の差とか、年齢が忠勝さんよりもずっと若かったから、かもしれない。

 故に、同じ位の強さを持っていても、影に徹したとも考えられなくはないのかなと。

 伊達政宗が、あと数年早く生まれていたら、恐らくは天下を統一出来たかもしれない。と言われている様に、この時代の年齢や年数の差は、現代を生きる僕達では、計り知れないほど大きいものなのだろうと思う。

 事実、その文献以外、ご先祖様の事は何一つ分からないのである。

 ただ、ご先祖様は剣術の達人とあって、僕の家は代々剣道場を営んでいる。

 恐らく、ご先祖様が剣の達人であったという、唯一の証拠だろう。 

 そして、自分で言うのも憚れるのだけれど、城本川家始まって以来の才の持ち主だろうと、僕は自負している。

 ただ、剣術が優れているというだけでなく、僕の中に眠る能力が、物心がついた頃には既に目覚めていた。

 もちろん、周りには不思議がられたし、僕自身、何故この能力を持って生まれてきたのか、正直定かではない。

 定かではないから、この能力は地味で目立たない、不遇な時期を過ごした、ご先祖様が、僕には同じ思いをさせない為にくれた物ではないかと、自分の都合の良い様に思っている。

 言っておくけれど、僕は決してご先祖様を貶しているわけではない。

 ご先祖様の事は、いくら無名の武将だったとは言え、尊敬はしているのだ。

 陰陽師の様な大それた物ではなく、第七感を駆使するだけ。

 確か、あいつはこう言ってたっけ。 

 常によれよれのティーシャツに、膝丈の短パン姿。

 このコーディネートがお気に入りな様で、色違いのセットを何組も持っているみたいだ。

 特にお気に入りは、水色のティーシャツに、黒地に金色のラメが散りばめられた、どこで買うんだそれ?的な短パン。

 髪の毛は全体的に伸ばしっぱなしで、いつもボサボサスタイル。

 無造作なんて、そんな良いものではない。

 あいつは頑なに、これは無造作スタイルと言い張るが。

 間違っても、清潔感はない!

 その上、人を小馬鹿にした口調で、どうも僕はあいつが苦手だ。

 そんなあいつが、何で僕の家に居候なんか……。

 「あれぇ?城本君、今日は随分とゆっくりだねぇ」

 「……お前」 

 僕の家は、この辺りでは結構な大きさの面積を誇る。

 由緒正しき家。と言う言葉がしっくりくる門構えだが、実の所、祖父が以前宝くじで一等賞を当て、その資金で道場と家をリフォーム。

 田舎町故、この時は凄いお祭り騒ぎになったっけ……。

 祖母は腰を抜かし、父と母は泣いて喜んでいた。

 祖父は、すぐには状況が飲み込めなかった様だった。

 僕の家には、たまたま使われていない土地が隣接していた為、その土地を買い取り、敷地を広げた。

 それだけだ。

 まぁ、それだけと言っても、宝くじで一等を当てるなんて、一生経験しなくてもおかしくはない程なのだけれど。

 いくら、戦国武将の子孫だからって、お金持ちとは限らない。

 それも、無名の戦国武将。

 そう……僕の家は決して裕福ではないのだ。

 何度も言うが、僕はご先祖様を尊敬している。

 誤解だけはしないでほしい。

 リフォームの際、今時の洋風なデザインにしなかったのは、祖父と父の意向だった。

 やはり、剣道場を構えるにあたって、造りは古風な物が良いと言うことで、既存の造りのまま、規模を大きくした感じと言って良いだろう。

 剣道の稽古を終え、自室に戻ろうと廊下を歩いていると、こいつはひょっこりと自室ーー正確には、我が家の間借りしている部屋なんだけれども。

 そこから顔を現した。

 もう昼過ぎだと言うのに。

 住所不定無職。

 いや、職業は自宅警備。

 三十五歳独身のこの男は、今起きましたと言わんばかりの寝間着姿に、そのボサボサの頭を左手でガシガシと掻きむしり、大きな口で欠伸をしている。  

 僕はゴミを見るような目で睨む。

 僕は曲がった事が大嫌いだ。

 そもそも、城本川という苗字が長いからという理由で、初対面早々に省略して呼ぶあたり、本当に嫌いだ。

 「ちょっとぉ、そんな目で僕の事見ないでくれる?」  

 「もう昼過ぎだぞ」

 「そんなに?城本君、学校は良いのかい?まぁ城本君に限って、サボるなんて事はないと思うのだけれど」

 「今日は日曜日だ」

 「日曜日かぁ。ははは、僕はどうも曜日感覚がなくてね」

 だろうな。

 日がな一日、何にもしないで家にいるんじゃ、曜日どころか、時間、日にちの感覚すらないだろうに。  

 鏑木 楓。

 ある日、僕が能力を使う所に遭遇した。

 それが運の尽きだったんだ。

 僕の依頼人の知人だったらしく、知人の身体と心の不調の原因は分かっているけれど、自分では手に負えない案件だと言う事で、噂を聞きつけた鏑木は、僕にその件を依頼をしてきたのが始まり。

 僕は人を見て、依頼を受けるかどうか決める。

 曲がった事が嫌いな僕は、この鏑木の風貌を一目見て断ろうとしたが、鏑木の『原因は分かっている』と言う言葉に、引っ掛かりを感じた。 

 確かに、その知人を見た所、畏れに憑かれ本人の意思とは関係なく、人生の終幕への道を歩ませようとしていたのだ。

 その知人は、断るような要素を持ち合わせていなかったし、鏑木の言う事も気になったので、依頼を引き受けた。

 その時は、こいつが僕の家に居候するなんて、思ってもいなかった。

 「城本君、携帯鳴るよ」

 そう言うと、今まさに部屋から出ようとしていた踵を返し、どれにしようかなぁ、なんて鼻歌交じりで、部屋の一角に畳まれず哀れに山積みされた洋服の中から、例のお気に入りのセットを取り出した。

 「マジかよ……」

 「マジだよ、大マジ。だってこれは、僕のお気に入り兼正装だからね。仕事の依頼の時は、この格好って決まっているんだ」

 どうりで……。

 とんだ正装もあったもんだ。

 そう言えば、僕の所に初めて来た時も、この服装だった。

 どうやらこいつなりに、場をわきまえ、正装してきていたつもりだったようだ。

 隣で歩く、僕の身にもなって欲しいのだけれど。

 「あ、その前にトイレに行ってくる。城本君、僕が朝の大仕事をしているからって、黙って先に行くのはなしだよ?君としても、僕が居た方が効率良く仕事が出来るだろ?」

 「分かったから早く行けよ」

 我が家は、平屋である為、部屋の場所によってはトイレまでの距離は結構あるのだ。

 客間であるこの部屋からは、そう遠くはないのだけれど、こいつはとにかくトイレが長い!!

 何度先に行ってやろうと思った事か。

 お食事中の皆様、ごめんなさい。

 ただ、確かに鏑木の言うように、あいつがいる方が僕としても助かる、と思ってしまうのが悔しい所なのだけれど。

 鏑木の予感が的中する。

 「はい、もしもし、城本川です」

 予知。

 防御強化。

 これがあいつの能力。

 『異能使い』

 またの名をHeretic。

 『異端者』

 僕達みたいな能力の持ち主を、そう呼ぶと鏑木は言う。

 異能使いは、まぁ良しとしよう。

 少年漫画に良くある設定だし、聞こえも悪くない。

 でも、異端者とは、あまり穏やかな言い方ではないな。

 未来ある少年、少女には早くから知らなくても良い単語だ。

 鏑木も、僕と同じ視覚が異常発達し、第六感と共鳴しているタイプだ。

 ただ、同じタイプでも仕様が全く異なる。

 あいつの場合の第七感は、畏れとは関係なく常に自分の意思で、先の未来が見える予知能力と、手にしている物を防具として強化させる能力。

 簡単に言うと、僕が攻撃力特化タイプであり、あいつは防御力特化タイプ。

 畏れに対して、攻撃は一切出来ない変わりに、強力な盾となれる。

 しかし、その者の未来が分かっていても、盾にしかなれない鏑木は、祓うことが出来ない為、あの日僕に依頼をしてきたのだ。

 だから、原因も分かっていた。

 鏑木が言うには、自分自身を盾として強化する事は可能らしいのだけど、痛いのは嫌だから。という理由で、最近は常に盾になりそうな物を持ち歩いている。

 畏れと戦う事がなければ、その防御力は必要なのだろうか?

 僕も、つい最近までそう思っていた。

 連戦連勝の僕からしてみれば、攻撃が出来なければ祓えもしないその能力は、正直無駄な能力だ。と思っていた。

 事実、鏑木は知人を助ける事が出来ずに、僕を頼ってきた。

 誰も助けられないその能力は、いらないものだと、思っていたんだ。

 先にも言ったとおり、畏れと言うのは悪霊や妖の類だ。

 攻撃を仕掛ければ、当然自分の身を守る為に、相手は反撃をしてくる。

 反撃を喰らえば、身体に呪詛として刻まれ、死にゆくまでその者の怨念を、痛みとして受けなければならない。

 その痛みとは、壮絶なものらしい。

 呪詛である為、そう簡単には清められない。

 それこそ、その清めの力を持つ第七感の持ち主にでも出会わない限り、永遠に痛みに耐えなければならないのだろう。

 だが、そんな能力を持つ者が存在するのかすら、疑わしい。

 そもそも、異能使いは簡単には見つからない。

 その存在が公式ではない為、どの程度存在すのか、全く分かっていないのだ。

 故に、異端者とも呼ばれるのだろうけれど。

 鏑木に出会えたのでさえ、奇跡と言っても恐らく過言ではない。

 相手の動きを、僕のこの眼で捉えて反応し、避ける事なんて朝飯前だったのに。

 格下の畏れと油断して、危うく僕は呪詛を喰らいそうになった所を、鏑木の防御能力によって助けられている。

 僕としたことが。

 自分ではそんなつもりはなかったのに、いつの間にか自分を傲っていたのだ。

 まだまだ、修行が足りないと痛感したよ。

 よりにもよって、鏑木に助けられるなんて……一生の不覚。

 鏑木自身、それを鼻に掛けることがないのを良いことに、僕はそれを機に態度を改めるーーなんてこと、絶対にしないのだけれど。

 それにしても……持ち歩いている物も、隣を歩く僕としては、心の底から勘弁願いたい。 

 鏑木 楓。

 名前を一見すると、可愛らしいお嬢さんを連想させる。

 本当に、今隣にいるのが可愛らしいお嬢さんだったら良かったんだ。

 これが、三十路を過ぎたおじさんの姿とは……。

 「なぁ、日傘やめろよ」

 「城本君。僕は太陽の光にはとても弱いんだ。肌だって、この通り真っ白だろ?紫外線はこの大切な眼にも良くない。本来なら、サングラスもかけたい所だよ。でも、そうすると色々と見えなくなってしまって、不便だしね」

 「だからって、毎回日傘持ってこられちゃ、たまったもんじゃない」

 「これは晴雨兼用だから、大丈夫なんだよ」

 陽の光に弱いのは、引きこもってるからだろ。

 なにが大丈夫なんだ。

 「それに、防具になりそうな物で持ち運べる物と言ったら、傘が一番良いんだよね。この間はたまたまゴミ置き場の近くで、段ボールが置いてあったから城本君を守れたけれど、そんな偶然そうそうないよ。そこで僕は考えた訳だ!傘だとこの通り、開いて前に倒せば身体二つ分は余裕で守れるだろ?僕は何かあっても、城本君の様に斬り付ける事も出来なければ、祓う事も出来ない。守りに特化するとしたら、うん、やっぱりこれくらい大きさがある物が良いんだよ。その点、傘は畳めるし、持ち運びに便利だしね。理にかなってると思うんだけれど」

 確かにそうかもしれないけど……。

 もう、元々の出で立ちが酷すぎるから、そこに日傘は地獄絵図でしかない。

 まぁ、一度救われている僕としては、そう言われてしまえば、もう何も言えないんだけれど。

 通り過ぎる人の目線が、ひたすら痛い。

 「はぁぁぁ」

 これ見よがしに、鏑木が大きなため息をつく。

 「なんだよ」

 「城本君、僕は普段依頼の件に関しては、先を見ないようにしているんだ。余計な物を見て、城本君の仕事の妨げになるのは本意ではないからね。でもね、今回すごく嫌な予感がするんだよ」

 「それは僕も感じていた。だから、場合によっては、お前に未来を見てもらおうと思っていたんだ。僕が見れるのは、畏れを祓わなかった場合の、その人の未来しか見えないし、今から起こることを見てもらった方が良い気がするんだよな」

 同じ視覚能力でも、鏑木の未来予知からしてみれば、僕の場合、もの凄く中途半端な物なのかもしれない。

 正直、バッドエンドの迎え方は、口にはし難い程無残なものだし、何度見ても慣れるものではない。

 それでも、依頼を引き受けない場合があるという事は、その人がしてきた事が、人として碌でもないからだ。と思って貰って構わない。

 「依頼人、女の子だよね?」

 「あぁ」

 「それも、まだまだ若い。城本君と同い年」

 「そうなのか」

 「名前は聞いたんでしょ?」

 「まぁ一応」

 「何かピンと来なかった?」

 何でこんな回りくどい言い方をするのだろうか。

 依頼人と依頼内容に関しては、直接会って聞く事にしている。

 どういう状況に置かれ、どういう経緯でそうなったかを、実際畏れを前にして、余計な先入観のない状態で見たいからだ。

 さすがに性別は電話口でも分かるけれど、年齢、職種、どういった依頼か、なんかは電話で聞くことはまずない為、鏑木にも話さない。

 何でこいつが、僕よりも詳しく相手を知っているかと言うと、電話が鳴った時から見ていたから。

 未来を。

 「特別何とも……まぁ、変わった苗字だなとは思ったけど」

 「はは、それ城本君が言う?」

 うるさい。

 「僕はねぇ、今回は本当にその先を見ようか悩んでいるんだよ」

 「いつも思うんだけどさぁ、見た方が効率良くないか?そうすれば、僕が畏れに対して攻撃を仕掛けた時に、どう反撃が返ってくるか分かるし、この間の様な事はないと思うのだけれど」

 「おっと、城本君らしくもない。自分の未熟さを棚に上げて、僕に責任転換するつもりかい?」

 「別に、そう言う意味で言ったんじゃ」

 確かに今の言い方は不味かった。

 僕らしくもないと言われれば、その通りだし、これでは鏑木を頼りにしていると、本人を前にして認めているようなものじゃないか!!

 「まぁ、良いんだけどね。悪者にされるのは慣れてるし。でもねぇ、未来なんて見えたって仕方がないのだよ城本君」 

 ワトソン君。みたいな言い方をするな。

 「ただ、今までとは違う嫌な予感だから、今日ばかりは見てしまおうかなぁ……」

 「何をそんなに躊躇っているんだ?」

 「だって、可愛い女の子が酷い目に遭うのなんて、見たくないじゃない」

 「そうならない為に、僕がいるんだろう」

 「でもね、心配だなぁ」

 「だから、大丈夫だって!」

 「そう言う過信は、以前の失敗を招きかねないよ?」

 「……もう良い。鬱陶しいから見なくて良い」

 全く、こいつは構ってちゃんなのか!?

 そう言う節はあるけれど、何か今日は過去の事を掘り出してやけに突っ掛かってくるじゃないか。

 「依頼人の事は何とかするから。そんなに心配ばかりしていると、将来禿げるぞ」

 細やかなお返し。

 そのボサボサヘアーも、禿げてしまえば出来まい。

 「何を言っているんだい。僕の家系は代々フサフサだよ。それに、僕が心配なのは城本君、君の事だよ?」


 

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