私の嫁は石田三成(属性おかん)

深咲 柊梨

01

 例えば。

 人生において選択肢というのは、枝分かれする様に、いくつも存在する。

 人はその都度、自分が正しいと思った道の選択を、無意識の内に日々行っているのだ。

 例えそれが、己を破滅の道に導こうとも、それが正しいと信じて疑わない。

 結果が出てから、後悔したり、別の道を選択をしていたら……と、嘆いたり。

 そんな事を思っても無駄なのに、人はどうしても、そう思わずにはいられない。

 それは、何十年-ー何百年経っても、その人間の性質は、変わっていないのだ。

 一体どれ程の人間が、自分のしてきた選択や、行いに後悔する事もなく、胸を張って人生を終えられるのだろう。

 その灯りが消える瞬間に、これで良かったのだ。と、どれ程の人間が、強がりでもなく、心の底から想えるのだろう。

 僕は……?

 分からない。

 僕には、記憶がないから。

 自分が何者なのかも、何をして来たのかも、いつの……時代の人間なのかも。

 ただ、常に何かをーー誰かを守りたかった。

 そんな想いがあった事だけは、強烈に覚えているんだ。

 それが、何を指すのかも……全く覚えていないのだけれど。

 






 彼が私の前に現れた理由を、私はまだ知らない。

 ある日突然現れ、私の家に居座り、私の身の回り世話をし、それはまるで、私のおかんと化している彼。

 そして、私が一番納得いかないのは、彼がこの時代に現れてから、約三ヶ月が経とうとしているのだけれど。

 何というか……現代に馴染むの早すぎるでしょっ!!

 髪型は、癖毛を活かしたゆるふわヘアーを、薄らと茶色に染めている。

 そもそも、この人は癖毛だったのかと、最近初めて知った。

 身長も、恐らく百八十㎝位はありそうだし。

 まぁ、昔もそれ位の身長の人は、たまに居たみたいだけれど。 

 確か、彼はこんなに背が高い人ではなかった気がする。

 手足だってこーんなに長くて、顔なんか、目はくりくりだし、鼻筋もすーっと通っていて、何処かのアイドルを彷彿とさせる様だ。

 誰がどう見ても、イケメンと言われる類の人間なのだろう。

 年齢だって、見た目は二十代半ば位にしか見えない。

 そんな彼が今、私の朝食を作る為に、そのスタイルの良い身体に、どこで買ったのか、フリルの付いたピンクのエプロンを付けて、鼻歌交じりでフライパンを握っている。

 そのエプロンが、妙に似合ってしまっているものだから、メイド喫茶で働けるのではないだろうか?

 そんじょそこらの女子よりも、ある意味人気が出るのでは……と、錯覚してしまいそうだ。

 一体何者なんだ!?的な彼は……。

 天下分け目の時代ーー戦国時代を駆け抜けた、あの石田三成だなんて、誰が信じるだろう。

 否。

 そもそも、歴史の教科書等に載っている自画像とは、真逆のヴィジュアルだし、史実と矛盾する点が多々存在する。

 そもそも、遠い昔に存在していた人間が、突然現代に現れるとか、有り得ないでしょ。

 どう考えても、ちょっと頭のおかしい人。と思われてしまうのが関の山だろう。

 いや、その程度ならまだ、良いのかもしれない。

 下手をしたら、私がどうかしていると、思われかねない。

 ーー本来ならば。

 私自身、未だに信じた訳ではないのだけれど……。

 その当の本人は、名前以外は、何も覚えていないのだとか。

 どうやら、降ってきた時に頭を強く打って、目が覚めたら全てを忘れてしまっていたらしい。

 はて?降ってきたとは?

 そう思った方も、いるのではないだろうか。

 文字通り、ある日の夜、私の目の前に、空から降ってきたのだ。

 目の前の空から一瞬、光る何かが落下するのが目に入り、ズドン!!と物凄い音と共に、砂埃がたったかと思えば、そこには、大の字で気絶している袴姿のお侍さんが横たわっていた。

 さすがに、放っておく訳にもいかず……成り行きで、まぁ現在に至る。

 と言うか、普通気絶では済まないだろうに。 

 それも無傷で。

 「……はぁ」

 と、人の事を言っている場合ではない。

 私、月島 まり子。

 三十歳。

 独身。

 失業中兼、失恋中。

 ーーやばい。

 この自己紹介、やば過ぎるでしょ!!

 ないない尽くしの三十歳とか、とにかく笑えない。

 笑えないし、冗談にもならない……。

 そんな、不幸が続いたあの日に、この石田三成が、降ってきたのだ。

 「まり子、朝食が出来たよ。今朝は、焼き魚に根菜の味噌汁。だし巻き玉子に、ほうれん草のごま和えにしてみたんだ」

 最近思う。

 彼が来てからと言うもの、毎朝こんな素敵な朝食を、彼は嬉しそうに作ってくれる。

 もちろん、昼食、夕食もだ。

 それなりに凝っているから、食費だってかかる筈なのに、貯金だけが頼りの、無職の私に、最近金銭の要求をしてこなくなった。

 ……この言い方は語弊があるな。

 どこから捻出しているのだろうか。

 「……頂きます」

 「召し上がれ」

 その眩しい微笑みに、目を瞑りそうになるのをぐっと堪える。

 と言うか、このまま現代に居ても良いの!?

 その、歴史に歪みとか?

 そういうのは、気にしなくても良いのかな?

 何せ、この三カ月は何事もなく過ごせてしまったものだから、特に気にはしていなかったのだけれど。

 本当……馴染み過ぎだってば。

 「だし巻き玉子うまっ!!」

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