第1話 失跡(六月二日)

(六月二日)


有名な夢の国のヌイグルミがそこかしこに置かれている室内。

カラフルなチェストや勉強机などに場所を取られた手狭なそこに、無理やり押し込まれたような小さめのベッドに部屋の主が寝転んでいる。

「メールなし、と」

 矢島セリは特筆するところの何もない女子高生だ。

 見た目はそこそこ可愛いかもしれない。成績は多分中の上辺りで運動神経は同年代の平均、どこにでもいるようなごく普通の女子大生。自他共にそう認めるような人間だった。

 だらしなく仰向けになって携帯の画面を指先でスライドさせている。

 風呂上りなのか微かに湿った髪を面倒臭そうに横へ除けた。

「…あれ?」

 ふと見覚えのないアドレスからメールが着たことに気付く。アドレスはアルファベットと数字が不規則に交じり合った適当なもので、友人たちの中でそんなものを使っている者はいないのに誰だろうと不思議に思った。

 件名に‘Medousa’と書かれ、本文はない。

ただ画像が添付されている。

 問題はその画像だった。

「なにこれ…」

 最初は人形かと思ったが、暗い中でもはっきり見て取れるその柔らかそうな質感と赤黒い液体で汚れているのは紛うことなき人間の体である。その人間は左手に手鏡を持ち、何かに寄りかかる体勢で座っているが、恐ろしいことに首から上がない。まるで首の取れたマネキンみたいだ。しかしマネキンにしては気持ち悪いほど人間のような質感があった。

 一旦画面から顔を離して起き上がる。

 ベッドに座り、ドキドキと脈打つ胸元を押さえつつ、もう一度見る。

 やはりそこには首のない人間の画像があった。

 周囲は暗く、それがどこで撮られたものなのかもわからないが、血の失せた妙に青白い体の異様な雰囲気に目が逸らせなくなる。赤黒い汚れは血にも見えた。

 迷惑メールにしたって悪戯の度が過ぎている。

 メール画面を閉じたセリは気を落ち着けるために目を閉じた。

 ……きっと手の込んだ悪戯だろう。

 そう思い携帯を枕元に放ると被るようにタオルケットへ潜り込んだ。

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