もう二度と逢えないお話

「彼」に出会った時、

「私」の中でくすんでいたモヤモヤしたものが拓けたような気がした。

「彼」は光だった。



「彼」のおかげで「私」はその道に進み、

「彼」からたくさんの物事を学び、

「私」の中のモヤモヤは照らされ続け、

「私」は真の「私」らしさと出逢う事になる。


「彼」からたくさんの話を聞き、

「私」はたくさんの話を「彼」にした。


「彼」と出会わなければ、今の「私」はここにいないだろう。



「彼」とのハグは照れくさくて出来なくて、『また今度ですね。』と「私」は言う。

「彼」はニヒルな笑みを浮かべ、『まぁまたおいで。』と「私」に言う。

「彼」にハグを求める人達を羨ましく微笑ましく見守る「私」。

「彼」と再び出会い、また凝った話が出来れば、それで十分なのだ。


「彼」とは、その後、数回逢うが、時間が無く、

「私」は、次こそたくさん話そう、と毎回決意をする。

「私」は、「彼」と出逢った頃のように、また話したかったのだ。






「私」の元に一本の電話が入る。

「彼」がこの世からいなくなった、と。


「私」は「彼」の元へと向かった。

「私」は「彼」の事をたくさんの人に広めた。


「彼」はもう二度と動く事はなく、その顔は安らかだった。

「彼」が好きだったロックミュージックが場内に鳴り響き、皆が泣く。


「私」はどういう感情を抱いていたのだろうか。今となっては、よく覚えていない。

「私」は「彼」の棺の中に花を添え、手紙を差し込み、こう言った。


『ありがとう、「先生」。あなたの事が大好きでした。

 「私」と出逢ってくれてありがとうございました。』


「私」はその瞬間、泣き崩れてしまった。






それ以来、「彼」とはもう二度と逢っていない。

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