上がったボールはグラブに収まった

サイレンが鳴る。


左手には、さっきまで軽々上がっていたものが

ずっしりと存在感を放ち、ここにあるぞ、と輝いて豪語している。


「僕」は顔上げる。

目の前には、約2時間共に戦った仲間が駆け寄ってくる光景が見える。

左手にあったそれを右手で高らかに挙げ、その輪の中心へ向かう。


雄々しい雄叫びと、黄色い声援と、ブラスバンドの音と、深い溜め息と、悔し咽び泣く声と、メガホンを打ち鳴らす音と、ビールを注文するダミ声と。


様々な情報が飛び交うスタジアムの中で、

一人だけポツンと、

崩れ落ちて動けなくなったバッターを見る者などいるのだろうか。


右手で掴んだボールを高らかに挙げる「僕」は、知っている。そして見ていた。


だって、それはかつての「僕」なのだから。





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