よもつひら


家の前の坂を自転車で駆け降りる。


先には海。

海風が向かいから吹き付ける。


自転車は風を巻いて走り続ける。


あの海へ。

あの夏へ。



あれは昨年の夏のことだ。

俺はやはり自転車で坂を駆け抜けていた。

と、突然、パァンという破裂音がして、俺は自転車ごともんどりうった。

そこへ坂の上から一台の車が突っ込んできた。

あとに残ったのはパンクした自転車と風にはためく白いシャツ。


それから幾度繰り返しただろう。

俺は今日も坂を自転車で駆け降りる。


海へたどり着くことはない。


あそこへ行けば、なにかが変わるような気がして。

あの場所に、救いがあるような気がして。


でもいつもこの坂の途中で、俺の意識は消えてしまう。


それでも俺はなんどでも坂道を駆け降りる。


いつかあのきらめく海へたどりつくまで。

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