第五話 偽の薬を探して
奇跡の花を使用したと仄めかして、偽の薬が流布しているらしい。
そういった内容を聞き、クリムの手掛かりが欲しければ偽の薬を手に入れてこいと言い渡されたフラマとイリスはひとまず、カリアスの住人に話を聞いてみた。
すると、確かにそういった薬が近隣の町で出回っているらしいと噂されていたが、ハーミルが言う通り、この町でその薬に手を出したものはいないらしい。
「この町で薬に手を出した人がいなかったのはいいことだけど……逆に言えば、全て噂止まりってことだよね」
「そうなるな。とりあえず、近くの町にでも行ってみるか」
カリアスの町の近隣にはいくつかの同じような町がある。
噂によると、実際にその近隣の町で偽の薬を見たという人もいるらしい。
フラマは数日前にコウヒーヌ領に入った時、入手した簡易地図を広げて、周辺の町の場所を確認した。
「ここから一番近いのは……ナダの町と、アカーシウの町だな」
「アカーシウってフラマと会った町だよね」
そう言われて一瞬フラマはその時を思い出し、頬をひきつらせた。
アカーシウは町というよりかは村という表現の方が近い感じがする。それほどに町というには狭く、民家以外なにもなかったのだ。
たまたま立ち寄ったフラマも特になにもすることはなく、すぐに町を離れるつもりであった。
最も、町に着いて少ししてイリスと出会い、彼女から逃げ出す為に本当にすぐに町を出ることになったのだが。
「……アカーシウより、ナダの方がいいか」
気を取り直し、フラマは地図を見ながら呟いた。
決してアカーシウに良い思い出がないからではない。
噂の中でアカーシウの町名は出てこなかったが、ナダの町名は数回聞いたからである。
「ナダはこの町よりも広くて賑やかだって言っていたしね。人が集まる場所の方がいいかも。わたしは構わないよ」
「じゃあ、そうするか」
ひとまずの目的地を決め、二人はナダに向かうことにした。
カリアスからナダはそれほど離れておらず、歩いて行けば数時間で辿り着くだろう。
「あ! 荷馬車があるよ! せっかくだし、あれに乗せてもらおうよ」
イリスが指した先には確かに荷馬車があった。ちょうどこれから出発するところのようだ。
方角的にはナダの方でだが、必ずしもナダに向かうとは限らないし、そもそも荷馬車は人を乗せる為のものではない。物資を運ぶ為のものだ。
しかしイリスは構うことなく荷馬車の従者に話しかける。
「フラマー! オッケーだってー!」
すんなり許可をもらい、イリスは手を振った。
そんな様子にフラマはなんとも言えない表情をし、小さく誰にも聞こえないように呟くのだ。
「……なんだかなあ……」
◇◆◇
ナダの町は運河に隣接するように拡がっており、コウヒーヌ領の中では一番繁栄している。
運河を挟んだナダの対岸側には、さらに大きな町があり、荷物の運搬が頻繁に行われていることから、自然とこの町に人が集まるようになっていた。
また、対岸の町だけでなく、近隣の物流の集約地ともなっており、様々な商いが活気をみせているのも特徴である。それは食料品から装飾品、この辺ではあまり使用する機会がないだろう武器等も多少取り扱われている。
しかしそれはあくまでもコウヒーヌ領の中でという話であって、もっと大きな都市のある地域とは比べ物にならない。
田舎の割に賑わっているぐらいの雰囲気だ。
「さて、どうしようか?」
積み荷とともに揺られながらも、荷馬車に乗れたことで予想より早くナダの町にたどり着けたフラマとイリスは行き交う人々を見て考える。
町に着いてすぐに人通りの多いこの大通りへとやって来た。
コウヒーヌ領は閑静な町が多いのだが、ナダの町は活気づいている。
全てがこの町の住人ではなく、おそらく近隣の町や隣の領地の商売人なんかもいるに違いない。
大通りには多数の店が並んでおり、なかには外観がいかにも怪しい雰囲気を醸し出している場所もある。
「ふたてに別れて探そうか?」
イリスの提案にフラマは頷き、辺りを確認する。
目に止まったのは大通りの少し先にある広場だ。小さな噴水といくつかのベンチがある。
「一時間後、あそこに集合だな」
イリスも広場を確認し、頷いた。
そしてそれぞれ別の方向へ移動しようとする。
完全にイリスに背を向けていたフラマは、ふいに腕をひかれた。
「……なに?」
「念のために言っておくけど……また逃げないでね」
出会い頭にフラマに逃げられた経験を持つイリスは念をおすように言う。
流石にこの状況でそんなこと考えてもいなかったフラマだが、イリスに言われてそれもありかと少し思った。
しかし、じっと見つめてくるイリスを見てその考えをすぐさま追いやる。
「しないよ。……俺だって兄貴の行方を知りたいんだからな」
それは本当のことで、一人で旅している間は有力な情報を全く得ることが出来なかったのだ。
それがイリスと出会った途端に手がかりが掴めそうとなれば、ここで行動を共にするのは致し方ないし、行動しない理由がない。面倒と感じなくはないが、それだけの価値があることはわかっている。
少なくても暫くの間はそうせざるをえないだろう。
フラマの考えがわかったのかどうかは分からないが、イリスは数秒無言で見つめたあと、にっこりと笑った。
「そらならいいの。じゃ、またあとでね!」
そして腕を離しあっさりと立ち去る。
その様子にフラマは眉を潜めながらも、イリスとは反対の方へ歩みだした。
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