神様が消す、その前に
黒嶺紅嵐
プロローグ
「私」からのメッセージ
死にかけたことってある?
ない?そう、それならわかんないだろうな、私の言うこと。
信じてくれるなら、拙い私のお話を聞いて欲しいの。
私が、幽霊だって信じてくれるなら。
幽霊って見たことある?
そう、あのよく空飛んでたり、夜になるとひょこって現れるやつ。あなたたちが想像するのは、ホラー映画の中の幽霊だったり、心霊写真だったり。とにかく、「幻想が見える」みたいな概念のものよね。
だけど、実際は幽霊ってそんな生半可なものじゃないの。
人を脅かすような幽霊よりも、人を恨んで祟る幽霊のほうが、よっぽど現実味あるの。私も生きてた頃に想像してたのと実物とが違った時は驚いた。なんていうか―戸惑ったわね。こんなはずじゃなかったのに、みたいな。
人には見えない。それが辛い。
生きてる時は、誰にでも「私」っていう存在を認識してもらえた。たとえそれが家族でも、同級生でも、道ですれ違うだけの人でも、どんな人にでも「私はそこにいる」ってわかってもらえた。だけど死んで幽霊になった自分は、誰にも認識してもらえない。もちろん、この苦しみを誰にもわかってもらえない。確かにそこに立ってる私を、そこで息をしてる私を、誰も気付いてくれない。その苦しみを抱えて存在する私はでも、「消えたい」って思ってもできない。だって消えてるから。消えてもまだ、この世界から完全に消える方法がわかんないから。
そのうち、生きてた時と今とが全く区別できなくなる。そりゃそうよね、変わったのは人に認識されなくなったかどうかだけだし。でも自分に見えてる景色は変わってなくても、他の人から見える景色は違うものになってる・・・。それが辛くて、怖くて。「消えてしまいたい」なんて願いさえも通じない心の
痛みを抱えなきゃいけないの。
私はだから、私を殺した人を恨むの。
恨んでるの。
「その人」さえいなければ私は、もっと生きれた。こんな苦しみを味わわずに済んだ。だから余計に恨めしく思うの。
「その人」のところまで飛んで行ったことがある。だけど、私が死んだことなんてまるで自分に関係ないって感じで、いつも通りに幸せそうにしてた。私のことなんか覚えてないのかもしれない、と思うと、悔しすぎて涙出てきちゃった。幽霊でも涙って流せるのねって、そのとき気付いた。「存在」は消えて、「助けて」って声は届かないんだけど、自分の中にある記憶や感情―もちろん嫌なものまで全部残ってるのね。
そこで私は、1つの仮説にたどり着いた。
私は今、「魂」なんじゃないかな。
体はないけれども、頭脳とか心はまだ残ってる。浮遊してる今の私は、「魂」としてこの世にまだ存在してるんじゃないかなって、そう考えるようになった。なによ、嫌なものは残るのに、気付いてくれる人もいないなんて、不公平よ。神様って、ほんとに悪趣味で性格悪いのね。
いいわ、私は神様なんて信じない。そう決心したのよ。
だって意地悪だし。仕事してるのかも怪しいし。
なによりも、何度もお祈りしたんだから、生きてるうちに1回くらいは助けてほしかった。無視されたのね、私。「あの人」にも無視されて、神様にも無視されて、それも死んだあとまで無視されて、おまけに死んだら誰も気付いてくれなくなっちゃった。
強くない私は、幽霊になってから泣き続けた。あんなに苦しかった、生きてたときよりも泣いて、泣いて、泣き続けた。私にはそんなことしかできないから、って思うと、泣くことで自分の存在がやっとわかる気がしてたの。もう私の中でさえも曖昧になってた自分の存在が、その時だけはくっきりとして感じ取れる。だから、繰り返し泣いた。
でも泣きつかれた時、やっと気付けたの。こんなことしてても何も変わんないじゃん。私ったら、いつまでこうして泣いてるんだろう。ああ、バっカみたい!そう思うと、今度は逆にすごく笑えてきた。おかしいわけじゃないはずなのに、自然と笑えた。あはは、あはは、って。
生きてる時に患っていた、二重人格に近い病気のようなものじゃない、また別の病気以外のものに憑かれたかのように、私は狂い笑ってた。
そんな笑ってばかりの日も、3日くらいであっけなく終わった。またまた私、何してんだろうって、バカみたいに思えた。自然に冷静さが戻ってくると、もう笑えなくなった。1度笑えなくなると、今度は感情がだんだんわかんなくなった。
―「嬉しい」って、なんだっけ?
―「悲しい」って、どういうものだったっけ?
―「悔しい」とか「ウザい」って、どんなもの?
思い出せない。頑張っても、それが思い出せない・・・。
そうすると、自然と表情もなくなった。私にしか見えないんだろうけど、鏡に映ってる自分の姿がどんどん弱っちくて醜く見るようになって、いつしか鏡を見ることもなくなった。怖いもん、そんな自分の姿を見るなんて。そのうちなんだか消えてしまいそうで、儚くて。切なくて。
ふと気づいたの。
死んじゃったのに、死にたかったのに、あれだけこの世界が嫌いだったのに―
今の私は、その世界から消えたくないって願ってる。その感情がたまらなく自己嫌悪を呼び寄せた。じゃあ死ななきゃよかったのに、生きればよかったのに、何をいまさら後悔なんて。遅いのよ。
でも意地悪な神様なら、私の心の中も知らずに、そのうち私を消しちゃうのよね、この世界から。「だって自分で死んだじゃん」って軽く言いながら。ほんっと、「あの人」みたいね。
「あの人」も最後に言ってたの。
「だって自分で言ったじゃん」
違う。わかってない。私のほんとの気持ち、わかってない。
わかってよ!って叫びたくても、もうその声は届くことはない。鈍感で冷たい「あの人」を、より一層恨めしく思うようになった。
嫉妬?違う。
じゃあ、殺意?まあそんなところね。
どうせ消されちゃうなら、その前にやらなきゃ。
「あの人」に教えなきゃ。どれだけ私が辛かったか。そしてその分を償ってもらわなきゃ。
限られた時間の中で、私は何ができるかを考え始めた。神様に消される前に、必ずなんとしてもあげなきゃいけない。
私からの、「復讐」というプレゼントを。
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