らるるら
すっかり削られた命で
きみの歌を思い出す
それは虚空でたわいなく解けて降り注いだ
夕暮れのリフレインに宵がためらうほどに
ただ本当の一瞬だった
らるるら
らるるらと
すっかり削られた命で
どことなく耳を澄ましてみるけど
雑踏の雨垂れの儚さは
何も届けちゃくれないよ
ひとり口ずさむ
らるるら
らるるらと
夕暮れのリフレインに宵がためらったら
僕は世界に息を溶かそう
本当の一瞬を待ち続けてる
望みはいつもちぐはぐだけど
メロディだけは変わらない
らるるらと
らるるらと
三文キネマの馬鹿馬鹿しさで悲しみを濯いだ。何よりも愚かしいのは間違いなく自分だった。愛をひたすらに求めていながら、誠心を持たず、愚直ですらなく、餌を待つ雛鳥にさえなれず、カーステレオのざらつきが持つ真実を取り違えて、荒涼たる凍原を走り抜けてばかり。難癖をつけるほどの正当性も持っちゃいない。
見せ物小屋に並んだ愚挙のドミノを、コルクの弾で端から順に倒していけば、少しは格好がつくと思っている。景品はない。柔らかな弾が足下にいくつか転がれば、悲嘆に暮れるのも馬鹿らしくなる。
スピーカーから流れ落ちたメロディを拾えば、まるでデイドリームのさざ波。あの日の僕ときみが一瞬のうちに蘇り、実像よりも美しく消えていく。ただそれだけのこと。もうすぐ花火が打ち上がり、歪んだメロディは息をひそめる。どうしてかそれが、僕ときみの
梅雨の晴れ間、そのうちの一日に過ぎない今日に、やはりまた同様の一日に過ぎない明日の夢を見ることは、僕にとって不可能にすら思えることだった。けれど、そこにある光量は、ゼロではなかった。だから僕はこうして、涼しい湿度の中を緩慢に歩いている。現在の時間軸の上で、不器用に綱渡りをするために。
僕は今、取るに足らない羽虫になっている。
自動販売機の光を求め、必要な――ふたり分の――飲み物を買ったなら、僕たちが夜空を越えるためのベンチに戻る。今ちょうどlalulaが、今日帰れないことについて、親に言い訳を並べているはずのベンチへ。
財布を取り出して、
しがない羽ばたきに打ち寄せる
微香の愛を詩情に変えて
祈りを
たったそれだけの
人としてのくだらなさが
どれほど救いであることか
僕らは人に過ぎない
全能ではいられない
夜空を越えた僕らの過ちも
間違いない愛の形として
受け止めたっていい
たとえ誰もが蔑んだとしても
悪びれず
たとえ誰もが讃えたとしても
奢ることなく
ただ若葉に雨露がはじけるように
自然のまま暮れなずむだけ
滑稽な僕の腕力では
それを抱えて走るのがせいぜいで
きみを抱き寄せることもできなければ
手を結ぶことすらできない
僕らの間に横たわる愛が
しがない羽ばたきに打ち寄せる
都会の夜空を詩情に変えて
祈りを謹呈するだけ
たまに口ずさんで欲しい
らるるら
らるるら
人造湖の堤防で
もはや回顧するためだけにしかない日々を巡ろう
太陽の屑のコレクション
時に屈するままに
すっかり売り払ってしまったそれが
整然と並べられていたあの日々を
生きる術も持たず
祈ることもしてこなかった僕たちが
全てを憎むことで消し去らずに
全てを愛することでごまかさずに
今ここにいる
その歓喜を祝おう
つまらない詩文と
互いの存在が
傷を喰らい合ってきた僕たちの処世術だった
コルクボードに留めた涙の写真
まだ覚えてる
人の群れが成す街の裏路地で
打ち棄てられた言葉を拾い上げた
いくつも
いくつも
煮ても焼いても役に立ちそうにはない
それを確信しながらも
僕は裏路地を隅々まで巡り
屑を山と積み上げた
どうしてか安堵を覚える
この屑は何の役にも立たないけれど
だからこそ
言葉を
言葉にさらわれよう
本当に役に立たない言葉を集めて
さざ波にさえ崩されるような砂の城を建てよう
在りし日の記憶の残骸
書き上がらなかった詩の一文
行き場のない
理にかなわない
祈りですらない恋慕
真空を震わす愛の
計画もなく組み立てて
奇怪な花を咲き誇らせて
誰に贈るでもないウェディングソングを歌うのさ
僕はきみと
命を分かち合いたいんだ
斜陽はやがて世界の裏側へ
月の満ち欠けが導く夜空は変革に消え
明日が来るよ
何も持たない僕たちがそこにいる
暮れなずむ太陽に晒してみた
きらきら
光った
昨日の晴れが嘘のように、空は雨粒を落とし続けていた。
赤と青で派手にデザインされたビニール傘を僕はずっと愛用してきたのだけれど、先日ついに強風にやられて壊れてしまった。僕は、家から最寄りのコンビニで買った、何の変哲もない65センチの透明なビニール傘を差し、ひとりで雨中行軍をしていた。コンビニに行くまでは手ぶらだったので、モスグリーンのパーカーはすっかり濡れてしまっていた。まだ時間はある。着く頃には幾分か乾くだろう。
待ち合わせはT駅で、僕の家に最も近いK駅の隣に位置する。電車に乗った方が早いのはわかっているし、生憎の雨だったのだけれど、僕は徒歩で行くことを選んだ。人に説明できる理由があるわけではないが、そうしなければいけない気がした。
シャッターの並ぶ、かつては賑わっていた通りを抜けて、ゆっくりと駅を目指す僕は、いつかの羽虫ではなかった。認めたくはないのだけれど、すっかり人間になってしまっているのだろう。きみの目にどう映るか、後で聞いてみたい。
透明なビニール傘は、深く差しても視界を遮ることもなく、忠実に僕を雨滴から守り続けた。傘を差すのが下手な僕は、ジーンズの裾をすっかり濡らしてしまっていたけれど、そのくらいのことはかまわなかった。ただのビニール傘を思いのほか気に入っている自分がいた。おそらく当面の間、打ち棄てられることはないだろう。とどのつまり、生きていくことなんてそんなものなのかもしれない。
僕らにはもう共通言語も共有する処世術も交わす愛もないのだけれど、それでも物理で繋がることができる。ただそれだけのこと。
シャッターの並ぶ中で、不意に開いている金物屋の前を過ぎ、
羽ばたきはもうないから、歩いて行く。
僕はきみに会いに行く。
きみには電車というずるを許して、僕は歩いて行くよ。
無事に再会できたなら、ふたりで、少しばかり太陽の屑を拾おう。
らるるらと、口ずさみながら。
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